フリマアプリやオークションサイトが一般化し、転売は身近なものに。手軽に自身の持ち物を売りに出し、大きな利益を生むことは珍しくない。そんななか高騰している“意外”なものが……。アニメのTシャツ。そう聞いて思い浮かぶのは、“オタク”ではないだろうか。
「原宿の有名古着店をいくつかリサーチしましたが、一番多かったのが『ドラゴンボール』。その他、『NARUTO』や『るろうに剣心』、『鋼の錬金術師』などの'90年代〜'00年代のTシャツに高値がつけられていました」
アニメが一大カルチャーに
そう話すのは、ファッションアナリストの山田耕史さん。これらの漫画から始まり、アニメ化された作品たち。それぞれ大ヒット作品ではあるが、“ファッションアイテム”とは言い難いだろう。
「高値がつけられたアニメTシャツの多くに共通しているのが、日本ではなくアメリカ企画であるものやアメリカ製のボディであること。アメリカ企画と思われるドラゴンボールのTシャツはかなりダメージがある状態でも、1万円オーバーの値段がついていました」(山田さん、以下同)
今、このようなアニメTシャツは、雑誌に紹介されたり、SNSで多くのフォロワーがいるような有名店・高感度な古着店で販売されている。
「'80年生まれの自分の場合、特に思春期だった'90年代は“アニメ=オタク”というイメージが強く、
その後'00年代から'10年代にかけて、アニメの認知が徐々に広がり、
その他、
“有名人”の影響もある。
「ファッションアイコンとして非常に影響力の強いアメリカの人気ラッパー『トラヴィス・スコット』が、ジャパニメーションの代表格である『AKIRA』のTシャツを着用したことなどで、“アニメTシャツ=ファッションアイテム”という認知がされるようになったと思います」
J-POPのTシャツはまだシャレ
海外での人気が高い『AKIRA』のTシャツは以前から高値をつけていたが、最近はさらに高騰し、希少なものだと数十万円の価格がついているという。同じく、ジャパニメーションの代表格である『攻殻機動隊』も、現行品ではないヴィンテージのものは数万〜数十万円の価格に。
また、『ジブリ』作品も作品同様に人気が高く、そして高値をつけている。編集部がフリマアプリを調べたところ、『千と千尋の神隠し』Tシャツは4万9999円、そしてなんと『もののけ姫』Tシャツは20万円を超える商品が複数あり、売れていた。『千と千尋』Tシャツは人気ラッパー『リル・ウージー・ヴァート』が着用したものだ。
アニメ以上に“意外”なものが高騰する場合も。あなたは日本の歌手、すなわちJ-POPアーティストのTシャツを“カッコいい”と思うだろうか。そしてそれを“ファッション”と考えるだろうか?
【globe Tシャツ 非売品 デッドストック 小室哲哉】。
この商品名でフリマアプリに出品されたものがある。文字どおりglobeのTシャツである。同商品は1万8500円で落札された。【当時物 GLAY バンドTシャツ】という商品は5万8280円の値がつけられている。アニメ同様に“J-POPのTシャツ”が高騰する場合も。
「そのファッションにもファンが多い『ブルーハーツ』や、メンバーの死去により伝説的な存在となっている『ZARD』など、入手が難しいミュージシャンのTシャツは、オークションなどで高い価格で落札されています。ただ、アニメTシャツに比べるとJ-POPのTシャツの人気はまだかなり局地的。極端なプレミア化はまだ見られておらず、基本的にはネタ・シャレという意味合いが強いでしょう」
同じ“アーティスト”でも海外アーティストは以前より高値がつけられてきた。
「海外のバンドが中心のロックTシャツはファストファッションブランドなどでも商品化されるなど、すでにファッションアイテムとして認知されています。特に、『ニルヴァーナ』などの人気バンドのヴィンテージTシャツは、暴騰といってもいいくらい価格が跳ね上がっています。J-POPのTシャツは、そんなロックTシャツに対してのカウンター、あるいはネタ・シャレ的な意味合いで、一部のファッション好きに評価されているように思います」
アニメやJ-POPのTシャツを高値で買う人たちは、それらを“カッコいい”と思っているのだろうか?
「“推し”ブームのように、アイドル、アニメ、ミュージシャンなど、自分が好きならどんなものでも臆することなくアピールすることが最近の若者の特徴です。その背景には価値観の多様化があり、単純に“自分が好きだから着る”という価値観があるのだと思います」
“ヴィンテージユニクロ”が生まれる可能性
アニメやJ-POP以上に“意外”と思われるだろう市場も生まれている。古着店では今、『ユニクロ』の古着が売られだしており、“ヴィンテージユニクロ”などというジャンルが生まれつつある。つまり昔のユニクロが“ファッションアイテム”になりつつあるということだ。
「以前は'70〜'80年代以前に生産されたものに付加価値がつき、“ヴィンテージ古着”と呼ばれていました。しかし、近年はヴィンテージの対象がより広範囲になりました。例えば、アメリカの衣料量販店・ブランドの『GAP』のアイテムは、'90年代以降に発売されたものは少し前までは付加価値がまったくなく、古着店の店頭でワゴン売りされているような扱いでした。
しかし、現在はヴィンテージとして付加価値が見いだされるようになり、“オールドGAP”と呼ばれ、古着市場での価格も上昇しています。それと同じように、“現在はヴィンテージとしての価値がないものも、いつかは価値が生まれるかもしれない”“次にくるのは何か”という青田買い的な視点で、古着を楽しむ人が増えています」
事実、インスタグラムなどではユニクロの古着に対し、“このタグは何年ごろの商品”“このころのユニクロは品質が良い”などユニクロ古着を楽しんでいる人は一部見られる。ユニクロ古着はヴィンテージとなるのか。
「“ヴィンテージユニクロ”は、現時点では青田買い的な視点で話題になっているだけで、まだ古着市場で明確にヴィンテージという価値は生まれていません。とはいえ、少し前までは'90年代のGAPがヴィンテージとなるなんて想像していた人はほぼ皆無だったでしょうから、現時点では想像ができないだけで、近い将来プレミア化して高額がつけられた“ヴィンテージユニクロ”が生まれる可能性もあるかもしれません」
タンスの奥底に眠った昔のユニクロが数万円の価値をつける日がくるかも?