日本アカデミー賞をはじめ映画賞の新人賞を総なめにしたデビュー作『MOTHER マザー』では、自由奔放な母親に振り回されたあげく凶行に及ぶ息子という難役を演じた。
「芝居は大変」その中で芽生えた俳優としての意識
「オーディションを受けて合格するとは思っていなかった」と当時の心境を振り返った奥平大兼(19)。
「大森立嗣監督が(撮影前に)“芝居は楽しいものだよ”とおっしゃっていたけど、その意味がまったくわからなくて大変という印象しかなかった。でもクランクインしてキャストやスタッフいろんな方と接しているうちに途中から楽しいと思えてきて、俳優の仕事を意識しました」
そのきっかけになったのが泣くシーンだった。
「撮影前のテストでは泣くことができなかったのに本番で(母親役の)長澤まさみさんの芝居を見て本気で泣けました。人の心を動かせるのはすごい。もう一度こういう体験がしたいと思ったことが大きかったです」
当時15歳。興味はなかったがスカウトされて芸能界に。デビュー映画での演技は鮮烈な印象を残した。
「僕のことを知ってもらえた大事な作品です。ほかの作品への出演にもつながり、出会いもあってよかったと思う反面、どこか重荷にもなっていました。『MOTHER』のときのような芝居が見たいといわれても今は絶対にできないと思います」
自身の成長とともに俳優に取り組む姿勢が変化した。
「デビュー作は何もわからずに自由に演じていたからできたと思います。でも今は演じていても簡単に満足できなくてストイックになるときがあります。
電車に乗っていても人間観察をしたり、日常生活すべてが役作りの参考になる。役者はこういう意識を私生活でも持ちながら過ごしているのかということに以前は気づけませんでした」
「大人になりたくない」と思えるような出会い
『WOWOWオリジナルドラマ 早朝始発の殺風景』(11月4日放送・配信スタート)では連続ドラマに初主演する。“気まずさ”をテーマにした青春ミステリーで高校生の加藤木役を演じている。
「自分をあまり出さないところは似ていると思う。僕も自分の素を出すのが苦手です」
今夏の甲子園大会では優勝監督の名言“青春ってすごく密”もあったが、ドラマでは青春の息苦しさや脆さをあわせ持つ高校生たちの姿も描かれている。
「僕自身は中高一貫校だったので、ずっと(友人)メンバーが変わらず密だったかも。でもグループは好きじゃないです。集団で固まっていたり、休み時間には決まった友達の席を囲んだり、グループ以外の人は入れないとか。グループでいる息苦しさもあって高校生になってからはひとりでいることが多かったです。そういう僕を友達は理解してくれました」
9月に19歳になり10代最後の抱負とは?
「大人になりたくない。一生、年下でいたいです。この数年間やさしくてカッコいい先輩にたくさん出会ってきました。自分がそんなふうになれる自信はないし、ずっと甘えていたい。(今の年齢を)最大限に生かしたいと思います」
経験を積み、これからの活躍が期待される旬な俳優のひとり。
「目標とする俳優はいません。みなさんそれぞれによさがあり、それはその役者さんだからこそのよさであって僕がやっても必ずしもよくなるとは思わないからです。
俳優として悩みはあっても、これからも続けていくことに迷いはないです」
真っすぐな眼差しで将来を見据えた。
6歳から始めた空手は初段。全国大会の優勝経験もある。
「今はやっていないので過去の栄光です(笑)。運動もしていないので身体もカチカチ。仕事で必要にならない限り、普段からジムで鍛えるとか自分磨きをするとかストイックになれません。オフはできるだけ家から出たくないです。そのときの気分にぴったりのジャンルの曲を探して聴くのがいちばんの息抜きです」
WOWOWにて11月4日(金)夜11:30~放送・配信スタート
ヘアメイク/速水昭仁
スタイリング/伊藤省吾(sitor)