ハロウィンで賑わう週末、韓国ソウルで起きた「梨泰院(イテウォン)圧死事故」。韓国消防局の発表によると、これまでに死亡者数154人、負傷者数149人とされている(11月1日現在)。亡くなった人の多くは10代〜30代の若者で、外国人も20人以上含まれるという。悲鳴と助けを呼ぶ声が鳴り止まぬ中行われた救助活動は、人混みに揉まれ満足に進められなかったとされる。
現場となったのは梨泰院駅がある大通りとグルメ通りを結ぶ、長さ40m・幅3.2mの細長く緩やかな坂の路地。ソウル中心部にあたる梨泰院地区は、外国人が集まる異国情緒溢れる街として知られ、人気ドラマ『梨泰院クラス』の舞台にもなった韓国有数の繁華街だ。当初こそ右側通行を保ちながら往来をしていた人々だったが、人口密度が増すにつれてルールは無きものに。人と人がぶつかり合い、坂の下に向かって転倒し、ドミノ倒しのように人間の雪崩が起こったとされる。
「むしろ今まで事故がなかったのが不思議」
今回のハロウィンは、コロナ禍を経て3年ぶりにノーマスク開催。例年以上の混雑が予想され、開催前から韓国メディアでは事前に“危険を伴う可能性がある”との危険性が懸念されていた。200人近い警備体制が敷かれたというものの、事故当夜、梨泰院地区に集まったとされるのは10万人以上。また、配置された警備員の多くは違法駐車、性関連事件、麻薬の取り締まりなどを取り締まるために配置された模様。事件に引っ張られる形で、人々を誘導する警備員の数が圧倒的に不足していたのでは?という指摘がされている。
これについて、韓国行政安全省大臣・李祥敏(イサンミン)氏が「警察や消防の人員をあらかじめ配置することで解決できる問題ではなかった」と発言し、非難が飛んだ。
事故前日の28日も梨泰院にはハロウィン直前の週末ということもあり数万人が集まっていたとされ、当日の混雑は予想できたはず。「むしろ今まで事故がなかったのが不思議」という地元の声もあり、安全策を講じていれば防げたのではとの批判的な意見がされていた。
日本でも、ネット上で今回の「梨泰院圧死事故」の警備体制について辛辣な意見が寄せられている。
「そもそも安全対策が十分練られていれば、このような事態には至らなかった。メディアかどこかが警鐘を鳴らしておくべきだったんじゃないか?」
「KPOP関連のイベントも多種あったし、想定人数に対して人員がどのくらい必要なのかは分かったはず。そもそも安全対策が練られていたかも怪しいけど、万が一練られていたとしたら“安全”に対する概念が著しく乏しいとしか言わざるを得ない」
もちろん日本も対岸の火事ではない。今年8月11日に京都府亀岡市で開催された「保津川市民花火大会」でも、実は一歩間違えれば、今回の「梨泰院圧死事故」のような惨事が起きる寸前だったのをご存知だろうか。同花火大会も3年ぶりの開催とあって、多くの人で賑わった。あまりの盛況ぶりが災いして、帰り道は最寄り駅JR亀岡駅北口にも多くの人だかりが。特に階段付近の密集ぶりは、SNSでも「身の危険を感じるほどだった」と振り返る声の多さが目立った。
今だからこそ見えてきたありがたさ
花火大会の当日、Twitter上で話題を集めていたのが、当時ボランティアサポートで警備に参加していたとされる、警備会社「アルソック京滋(けいじ)」永野正社長の誘導だ。白いシャツにベストという私服ともとれる出立ちで駅階段の入り口付近に立ち、人の流れを必死に整えている姿が多数ツイートされた。
当初は「命の仕事をしているんだ!止まれ!」という、永野正社長指示に対して
「お前誰だよ!口の利き方がなってない!」
「流れ止めてんじゃねーよ! みんなが迷惑してるって分かってる?」
「言っちゃあれだけど階段のとこで喋るなって思う。邪魔になるし、通りたい人は困るよこれ。マスクしろせめて。説得力ない。」
などと批判的な声で溢れていた。しかし今回の「梨泰院圧死事故」を受け、再び話題に。
「梨泰院の事故で思い出した。命の仕事してるんだって本気で怒鳴ってるのに対して、なんだあのおっさんって雰囲気になってるのが動画から伝わってくる」
「安全のために他人をこんなふうに見てくれて叱って怒鳴ってくれる人なんて居ないよ。」
実際に起きた事故を目の当たりにして、「今だからこそ見えてきたありがたさ」を感じたということだろうか。国内でも歩道橋での将棋倒しなど、混雑が原因の事故は枚挙にいとまがないのだ。
国が違えど、多数の事件事故を経てなお繰り返される転倒事故。事故の実効的な再発防止策が施行されることを真に願う。