眺めがよく、セキュリティーは万全、資産価値も高い─。そんなタワーマンションを見限って、なぜか転居していく住人が増えているという。芸能人も例外ではない。
落語家の笑福亭鶴瓶(70)は先月、『徹子の部屋』にゲスト出演した際に「もともとが高層マンションで36階、地震がくるとめっちゃ揺れるんですよ。それでエレベーターが止まったときがあったんですよ。怖いからちょっと低層にいこうっていうことになった」と話し、タワマンから引っ越した事情を打ち明けていた。
さらに、お笑いコンビ・ハリセンボンの近藤春菜(39)、ユーチューバーのはじめしゃちょー(29)もタワマンから転居した経験があり、バラエティー番組やユーチューブでその理由を説明している。
「タワマンが抱えるデメリットの代表例が災害リスクや、ライフラインへの影響です」
そう指摘するのは、不動産コンサルタントでライターの間宮悦子さん。鶴瓶が体験したように、地震がくると高層階は大きな揺れに襲われる。
「東京都は今年5月、首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直し、タワマン特有のリスクを指摘しています。たとえ震源から遠く、それほど大きな震度でなくても、高層階にいる人は立てないほどの横揺れに長時間にわたって見舞われます。2018年に発生した大阪北部地震では、震源から約700キロ離れた大阪市は震度3でしたが、高層ビル内で防火扉が破損して閉鎖、エレベーターのワイヤーロープも損傷していました」
タワマンの耐震性は高く、建物自体が崩落することはないというが、「家具が大きく移動したり、倒れたりするおそれがあります。非常階段にいる人は転倒し負傷するかもしれません」と間宮さん。
停電してエレベーターが止まれば非常用発電機があったとしても、タワマン全体の電力はまかなえない。
「実際、大阪府北部地震では(タワマンを含め)6万6000基のエレベーターが停止し、復旧まで3日はかかっています。中高層階の住人は食料や飲料水の調達が困難に。エアコンや空調も使えませんし、スマホの充電もできず、情報収集が難しくなります。こうしたリスクは水害も同様で、19年の台風10号の被害では、神奈川・武蔵小杉のタワマンで電気設備のある地下3階まで浸水したことにより、全棟停電になりました」(間宮さん、以下同)
どう備えればいいのだろうか。
災害の備えとタワマンのプライバシーやトラブル
「災害時にタワマンから避難所へ移動することは難しく、たどり着けたとしても、コロナ禍の影響で避難所の収容人数は縮小傾向にあります。日ごろから水や食料などの備蓄をしておくことが重要です」
タワマンを取り巻くリスクは自然災害だけではない。前出のハリセンボン・近藤はタワマンで暮らしていた際、「住人の若者に“あ、春菜だ!”って言われて、もうこれダメだって。リラックスできることないわって」と、転居した理由を語っていた。
鶴瓶も「歩いてる人がみんな、俺に声かけてきて(タワマンの)“ここにいてんのやろ”って。“ここの一番上か?”って言われて」と話している。セキュリティー万全だからといって、プライバシーも守られるとは限らないのだ。
「住人みんなに顔が知られている状態は、芸能人ならではといえるかもしれません。ただ、相手が芸能人でなくてもプライバシーやマナーへの意識が低い住人が結構います」
そう話すのは、都内在住の好美さん(仮名=40代)。湾岸エリアのタワマンに家族4人で暮らしている。
「ロビーでネットワークビジネスの勧誘が行われていたことがあります。しかも住人の〇〇さんはどこに勤めているだとか、収入は〇〇円とか、おおっぴらに話していたんです。即、管理組合に報告してやりました」(好美さん)
共用施設をめぐるトラブルが多いと話すのは、神奈川県の博子さん(仮名=50代)。
「住人の1人が、タワマン内のパーティールームをママ友にまた貸しして、子どもの誕生日パーティーが開かれたことがあったんです。借りたママたちは散々騒いで散らかして、片づけもしないで退散。また貸し自体、規約違反です。問題になり、以後、パーティールームの使用は抽選制に変わりました」(博子さん)
修繕積立金が倍増するカラクリとは
人間と同じように、住まいも年を重ねれば老朽化が避けられない。国土交通省が5年おきに実施している『マンション総合調査』の最新統計(18年度)によると、タワーマンションの平均修繕積立金は月額1万2305円。団地を除くマンション全体の平均修繕積立金である月額1万1060円に比べ、1割ほど高い。
1割ならたいしたことはない、と思うかもしれない。しかし実際には、修繕積立金が不足しているタワマンが後を絶たない。東京都新宿区が'19年に行った『タワーマンション実態調査』では、積立金が足りないと回答したタワマンは全体の48%に達した。
前出・間宮さんが言う。
「タワマンを販売する際、顧客に割高と思わせないように、不動産業者は修繕積立金を低く見積もって提案するのが通常です。ところが実際には積立金が数年後に不足しているマンションは多く、新宿区だけに限った話ではありません。月額の負担が増えたり、数十万円単位で一時金の徴収をされたりしたケースもあります」
間宮さんによれば、タワマンは15年ほどで大規模修繕が必要になるという。
「超高層になるほど工事費がかさみます。足場ひとつをとっても高層階まで組むことが難しく、屋上からゴンドラをつるすなど特殊な足場を組まなければなりません。プール併設のタワマンなら、防水処理などの専門的な工事も必要になる。こうして工事費用がかさみ、最初の大規模修繕で積立金を使い果たしてしまうタワマンも珍しくないのです。積立金が当初の倍以上に上がったり、年々高額になったりするケースも頻発しています」(間宮さん、以下同)
新宿区の調査では、総戸数が少ないタワマンほど修繕積立金の単価が高かった。
「これは空き家が増えるほど固定費が増大していくということ。その負担に耐えられずタワマンを手放すことになると、ますます積立金が不足し必要な修繕が行えない事態になりかねない。資産価値はさらに下がってしまいます」
問題が発覚したからといって、一般人が芸能人のように引っ越しするのは難しい。購入前の検討を徹底することが一番の備えになりそうだ。