「夫に先立たれたとき、公的機関に申請するだけで“もらえるお金”は少なくとも数十万円。でも、多くの人が知らないでもらい損ねていると感じます」
“国からの香典”は最大32万円!
そう指摘するのは、ファイナンシャルプランナーの齋藤佑美さん。
「夫の死後、気持ちが落ち着いたらぜひ申請してほしい」
と話すが、その“もらえるお金”には、どんなものがあるのか。
例えば、“国からの香典”ともいえる「死亡一時金」に、葬儀、埋葬を行った人に支給される「葬祭費・埋葬料」を合わせて最大39万円。子(18歳の年度末までなど)がいる場合は、「遺族基礎年金」が年間約78万円に、子どもの人数によって加算された金額が支給される。
夫が会社員で厚生年金保険の被保険者であれば、「遺族厚生年金」が加算。勤務中、通勤中の事故などで亡くなった場合の葬儀には「葬祭料」が給付される。
「これらはすべて“申請しないともらえない”のがポイント。ところが、夫の死後に最初に行う手続き、例えば役所に死亡届を出す(死亡後7日以内)、保険証の返却をする(死亡後14日以内)については葬儀社さんなどが教えてくれることが多いのに対し、もらえるお金について教えてもらえる機会はほとんどないと思います」(齋藤さん、以下同)
「葬祭費」や「死亡一時金」について、葬儀社や役場の担当者が教えてくれる場合もあるが、それはあくまで担当者の“親切心”によるもの。
知らないでいたら、数十万円が受け取れない。
さらに、支給される主な条件を知っておくとなおよし。“もらえると思っていたのに……”を避けるため、どんなところに注意しておくべきか。
2~5年で時効!期限内の申請が必須
「葬祭費は、あくまで葬儀費用に対する支給なので、原則として告別式などの葬祭を行った場合のみ。火葬のみでも申請できる自治体もありますが、多くはありません」
国民年金の被保険者に支給される遺族基礎年金は子ども(18歳の年度末までなど)がいる場合のみと条件が厳しいが、厚生年金保険の被保険者に支給される遺族厚生年金は子どもの有無にかかわらず支給がある。
ただし、支給額は夫がもらう予定だった老齢厚生年金の4分の3で、夫の収入により金額が変わるため、意外と少ないと感じる場合も。
「夫の死後、年金事務所や年金相談センターに電話すれば、具体的な金額を教えてもらうことができます。また、すでに夫が老齢年金をもらっている年齢で亡くなった場合は、『未支給年金』があるかどうかの確認も。受け取っていない年金があれば、もらうことができます」
何より忘れてはいけないのは、申請には“時効”が存在すること。
「申請期限のほとんどが、夫が亡くなって2~5年。特に、葬祭費や死亡一時金は知らずに逃している人が多いと感じています。市区町村役場だけでなく、年金事務所など申請先もさまざまで、必要書類も少なくないので、余裕をもって申請を行ってください」
一方、もらえるお金だけでなく、戻ってくるお金も。夫が亡くなる前に病気やケガなどで高額な医療費を払っていた場合は、「高額療養費制度」により、自己負担限度額を超えて支払った金額が払い戻される。介護サービス費を自己負担額の上限額を超えて支払っていた場合も同様。
「限度額は所得や年齢などにより異なりますが、申請期限は共におよそ2年。返金があるかどうかわからない場合でも、念のため申請して損なしです」
申請しないともらえない公的なお金
【葬祭費・埋葬料】
〈条件〉
・夫が国民健康保険、あるいは健康保険の被保険者として死亡し、葬儀を行った場合〈金額〉
・1万~7万円
※夫が加入していた保険による。上記は国民健康保険の場合
〈申請期限〉
・国民健康保険は葬儀の翌日から2年
・健康保険は死亡日の翌日から2年
〈申請場所〉
・国民健康保険は市区町村役場の国民健康保険課
・健康保険は夫の勤務先の協会健保、または健康保険組合
【死亡一時金】
〈条件〉
・夫が国民年金保険料を“3年以上”納めており、かつ老齢基礎年金・障害基礎年金のいずれも受け取らずに亡くなったとき、故人と生計を共にしていた遺族に支給
〈金額〉
・12万~32万円
※国民年金保険料の納付期間による。最大は35年以上の場合
※付加保険料を納めた月数が36か月以上ある場合は、8500円が加算される
〈申請期限〉
・死亡日の翌日から2年
〈申請場所〉
・市区町村役場の国民健康保険課、年金事務所、年金相談センター
【遺族基礎年金】
〈条件〉
・国民年金の被保険者、または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある人が死亡したとき、故人によって生計を維持された子のある配偶者もしくは子に支給
※子は、18歳年度末または障害等級1、2級状態の20歳未満
〈金額〉
・年間77万7800円+子の加算額(国民健康保険の場合)
※子の加算額は、1~2人目は年間各22万3800円、3人目以降は年間各7万4600円。
〈申請期限〉
・死亡日の翌日から5年
〈申請場所〉
・市区町村役場の国民健康保険課、年金事務所、年金相談センター
【遺族厚生年金】
〈条件〉
・厚生年金の被保険者が死亡したとき、もしくは被保険者が病気やケガが原因で初診日から5年以内に死亡したときなど、故人によって生計を維持されていた遺族に支給
〈金額〉
・故人が年間でもらう予定の厚生年金の4分の3
※子のない30歳未満の妻の受給は5年間のみ
〈申請期限〉
・死亡日の翌日から5年
〈申請場所〉
・年金事務所や年金相談センター
では、もらえるお金、返ってくるお金、共に申請のために、どんなものを用意しておくべきか。
申請するために「用意するもの」「捨てないもの」
「大事なのは、領収書。葬祭費には葬儀にかかった費用の領収書、高額医療費の返金には病院に支払った金額が証明できるものが必須なので、捨てずにきちんと保管しておきましょう。
特に、高額医療費の返金には、領収書のほかに診療報酬点数が書いてあるものも保管しておくと安心」
また、「死亡一時金」や「遺族基礎年金」、「遺族厚生年金」の申請には、夫の年金手帳など夫の基礎年金番号がわかるものを準備。
戸籍謄本や住民票については、申請時に直近のものの提出を求められることが少なくないので、必要に応じて発行するのが望ましい。
「公的機関に申請してもらえるお金は、夫と死別後の家計不安を和らげるための大事なお金。夫がきちんと健康保険料や年金保険料を納めてきたからこそ支給されるものなので、“夫が遺してくれたお金”として、しっかりと受け取りましょう」
夫が会社員なら労災保険の遺族(補償)年金がもらえるかも
会社員の夫が勤務中や通勤中に死亡した場合、夫に生計を維持されていた妻は、夫が生きていたらもらえた給与の153日分のお金を「労災保険の遺族(補償)年金」として、死ぬまで毎年受け取ることができる。
子ども(18歳の年度末まで)がいる場合は加算あり。申請は、死亡診断書や戸籍謄本などを用意し、夫の死亡日の翌日から5年以内に労働基準監督署へ。正社員だけでなく、アルバイトや派遣社員も対象となる。
過労などが原因で、自宅で亡くなった場合など、会社が労災だと認めてくれないなどで申請の協力を得られない場合は、労働基準監督署に相談を。また、前払いの一時金(給付基礎日額の1000日分を限度)として受け取る請求も可能(申請期限は死亡日の翌日から2年)。
一方、夫が失業保険の受給中に亡くなった場合、未受給の失業手当(亡くなる前日までの分)があれば「未支給失業等給付」として受け取れる。申請は、死亡日の翌日から6か月以内にハローワークへ。
受け取れないこともある!?夫の生命保険の落とし穴
「生命保険は、受取人を指定して確実に渡すことができる金融商品。相続問題が起きづらいという面でも、死後に残すお金としてメリットが大きいと思います。でも“もらえると思っていたのに、もらえなかった!”という声が非常に多いのも現実です」
契約更新や死因によりもらえる額が大幅ダウン
生命保険のプロとしての経験から現実を教えてくれた齋藤さん。アテにしていた生命保険金が受け取れない状況に陥る主な理由は3つ。
1つ目は、保険期間が過ぎていること。終身保険以外は保障期間が決まっているので、何歳までか把握しておくこと。
2つ目は、“更新”により保障額の値下げや消滅が起きていること。
「80歳や85歳で死亡保障が消滅したり、もらえても少額になっていたということは少なくありません」
3つ目は、そもそもすでに保険金をもらっていて保険が消滅していたという驚きの理由。
「死亡保障付き三大疾病保険は注意が必要です。よくある保険商品ですが、この保険の場合、がん・心筋梗塞・脳卒中になって保険金を受け取ると、その時点で保険は消滅。
しかし、加入者側が死亡保険金ももらえると勘違いするトラブルが多いです。疾病で保険金をもらったら、死亡保障は受け取れません」
また、受取人が誰なのかも確認を。
「自分が受取人だと思っていたら夫の親や子どもだったというケースは意外と多いです。ただ、夫の保険金の受取人が自分である場合は、高齢になり病気や認知症を罹患することも考えて、成人した子どもなどへの変更を検討しておくとよいです。夫婦で元気なうちに保険内容を確認しておくことが安心につながります」
夫の保険がわからない!「生命保険契約照会制度」の活用を
令和3年7月から、故人が加入している生命保険契約の有無を一括で紹介できる「生命保険契約紹介制度」がスタート。親族等が申請すれば「生命保険協会」を通じて、生命保険会社42社に一括照会できる。
「夫がどこの生命保険に加入しているかが簡単にわかります。生命保険を契約しているかどうかすらわからないという場合でも、1回3000円で照会できます」
知らなきゃソン!夫の死後のお金Q&A
Q.再婚したら遺族年金はどうなるの?
A.夫の死後に再婚すると、遺族基礎年金も遺族厚生年金も支給停止に。
「しかし、遺族厚生年金は子どもを受給者にすることで、子どもが18歳の年度末(障害がある場合は20歳)までもらうことができます」
また、遺族基礎年金も子どもが再婚した母と生計を別にする場合であれば、子どもを受給者にすることにより、引き続きもらうことができる。
「事実婚でも支給停止されるので、年金事務所や年金相談センターで子どもに受給権を移す相談を」
Q.会社員だった自営業の夫。遺族厚生年金はもらえる?
A.会社員として1か月以上厚生年金に加入していれば、老齢厚生年金は受給可能。
そのため、会社員経験があれば遺族厚生年金をもらえると思っている人が多いが、実は勘違い。
「そもそも遺族厚生年金は、現役かそれに近しい会社員に対して支払われる年金。亡くなった時点で会社員でなければ、残念ながら受給は難しいと思っておいたほうがよいと思います。25年以上の会社員時代がなければならないなど、受給のハードルは高いです」
Q.死亡一時金と寡婦年金どっちがお得?
A.「寡婦年金」とは、妻が60歳から65歳の間にもらえる年金で、亡くなった夫がもらう予定だった老齢基礎年金額の4分の3が受給できる。
「死亡一時金との重複受給はできないので、夫の死亡後にいずれかを選択する必要があります。60歳から5年間もらえるなら寡婦年金のほうが多くなる可能性が高いですが、64歳で受給期間が残り半年ほどしかないなら、死亡一時金を選ぶほうが得。年金事務所などで具体的な年金額を教えてもらうのが得策です」
教えてくれたのは……
保険ショップ勤務を経て独立。FP2級、AFP TLC(生命保険協会認定FP)取得。お金で損するのが大嫌いな2児の母。「FPかぴさん」の愛称で、お金のことをわかりやすく発信している。
取材・文/河端直子