多くの人がスマートフォンやパソコンを活用する今、連絡手段としてはがきや封書を選ぶ人は減少している。
相手に思いを伝える人生最後の年賀状
特に年賀状は大量のはがきを必要とし、費用もかかる。年齢を重ねるにつれ、「そんな大量のはがきと向き合う気力がない」「億劫に感じだした」という人が、身辺整理のひとつとして年賀状じまいに踏み切るケースが増えている。
「年賀状をやめることが失礼にあたらないか、と迷われる方が多いですね」と教えてくれたのは、マナーコンサルタントの西出ひろ子さん。
「マナーは『こうしなくてはいけない』という決まりごとではありません。自分の選んだ行動が相手にどう伝わるか、きちんと考えていれば問題ありません」(西出さん)
マナーはお互いへの思いやりの気持ちから生まれる。年賀状のやりとりが相手に喜ばれているか、一考してみることも必要なのかもしれない。
また、年賀状のネット通販を行う「おたより本舗」の顧問で年賀状研究家の高尾均さんによると、年賀状じまいをする人の年代別の割合は、60代以上で53%にのぼるそう。
「弊社のサイトの『年賀状じまいの仕方』に関する記事へのアクセス数は、毎年増えています。郵便局の年賀状引き受け通数もここ数年、約10%ずつ減少しているのが現状です」(高尾さん)
年賀状じまいを終活の一環ととらえる60代以降に比べ、それより下の世代は紙でのやりとりそのものを「手間」「コスパが悪い」と感じている人が多いようだ。
年賀状に対する実態調査では、やめたいと思っている20~30代が15%、40~50代が32%いる。「若い層にも年賀状じまいを決断する人が増えてきています」と、高尾さんは話す。
年賀状じまいは若い層にも増加中
「ただ、若い方にとっては、正式な年賀状じまいをすることが必ずしもよいとは限りません。まだ先は長く、数年たって気持ちが変わることもあるかもしれませんから。年賀状じまいをするのは、シニア世代が適しているのではないでしょうか」(西出さん)
終活年賀状を送るのであれば、受け取った人に納得してもらえるような文面にしておきたいもの。西出さんに教えてもらった、書くときのポイントを紹介する。
「やめる理由は必ず入れましょう。年賀状じまいのタイミングは、長寿祝いをする区切りの年齢や人生の節目は理由にしやすいです。今後の交友関係は続けたい旨を入れておけば、失礼になりません」(西出さん)
スマートな「年賀状じまい」のコツQ&A
Q.最後の年賀状を出さずにラインやメールのみで伝えてもいい?
A.「12月頭には連絡を。『私事で恐縮ですが諸事情により、来年から年賀状によるご挨拶を控えさせていただきます』などの文章とともに、『今後はこちら(ラインまたはメール)へお気軽にご連絡ください』といったフレーズを」(西出さん、以下同)
Q.終活年賀状を送った翌年に、年賀状が届いたら?
A.「例外をつくってしまうと、どこかで他の方に“実は年賀状じまいをしていない”など、あらぬ誤解を生む可能性も。寒中・余寒見舞いをお返事として送り、そのなかで再度、年賀状じまいについて伝えるのがいいでしょう」
また、年賀状じまいは企業単位でも増えている。
「環境志向」「デジタル化」の影響で“年賀状じまい”
「年賀状じまいの考え方は企業から始まりました。紙の大量消費を回避しようという、『SDGs』に端を発するものだと考えられます。HPやメールなどで年賀状じまいの発表をする企業が増えていますね」(高尾さん)
たしかに、スマホが台頭してからは、挨拶の手段が紙からデジタルに移行している。この時代の流れも年賀状じまいを後押ししているのだろう。
「若い世代からは、年始の挨拶をメールやSNSでしていいものか、という質問が多いのですが、挨拶の方法は時代によって変化していきます。
デジタルツールのほうがコミュニケーションをしやすい相手なら、ツールがなんであれ問題ありません。気になる人は“メールで失礼します”などとひと言添えておくと丁寧ですね」(西出さん)
ただし、事前にやめることを知らせるなら、相手が年賀状の準備を始める12月上旬までに連絡をしておこう。
高齢な親の年賀状、どうする?
文字の読み書きが難しくなった親の代わりに、終活年賀状を送らなくてはいけない子ども世代もいるだろう。親の健康状態によって書き方を変えてみては。
「とにかく大切なのはコミュニケーションです。親には事前に“私に何かあったら連絡してほしい人”の名簿となる住所録を作ってもらっておくといいですね」(西出さん)
親の健康状態が良好な場合の代筆
子どもである自分が代筆していることは伏せてOK。文面は、本人の特別な思いがないようなら例で挙げているような内容に。年齢を理由にするなど、当たり障りのない理由と今後の連絡先などを親の名前で送ろう。
親とコミュニケーションが難しい場合の代筆
文面で親の状態を説明し、それを理由として「今後は控えさせていただきます」とするのがベター。結びには必ず、相手を気遣う気持ちである「ご健康とご多幸をお祈り申し上げます」の言葉を。
取材・文/長江裕子