今年も1月から10月までの43週のうち、27週で個人視聴率3冠を獲得し、12年連続の関東キー局「個人3冠」へひた走る日本テレビ(同社2022年度第2四半期決算説明資料より)。
そんな同局が金曜19時というまさに家族の団欒のひとときに贈る番組が『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』だ。
佐藤隆太と劇団ひとりが司会を務め、問題レベルは文字通り「小学5年生」基準。正解ごとに賞金がプラスされていき、全問正解すれば賞金300万円獲得、しかし1個でも不正解ならその時点で0円となる「超プレッシャークイズショー」だ。
しかしこの賞金ルールには『ドロップアウト』と呼ばれる“抜け道”がある。問題正解から次の問題出題に移る間に、チャレンジをやめることができ、その場合は正解数に応じた賞金を獲得して去ることができるのだ。
この記事はまさにこの『ドロップアウト』をめぐるもの。
前週11月3日の放送(2時間スペシャル)では、チェアスキーのパラアスリートでパラリンピックで計4つの金メダルを獲得した村岡桃佳氏が最終問題直前でドロップアウトを選択し、賞金100万円を獲得した。ただし、この番組、行けるところまで行って不正解、賞金0円で帰るチャレンジャーが大半で、ドロップアウトを選ぶケースは珍しい。
一応、こちらで確認する限り今までドロップアウトを選んだのは11人。番組がレギュラー化されて約3年なのでその少なさがわかるだろう。
IT企業の役員も務める厚切りジェイソン(2020/8/28放送回出場)、子役の頃から芸能界で活躍してきた中川翔子(2021/2/19放送回出場)のように、明らかに“勝ち組”と思われる者も“降りて”いるが、スギちゃん(2021/7/30放送回出場)、フルーツポンチ亘健太郎(2021/8/27放送回出場)のように、コロナで営業が減ったなどで、金銭的に困っており、確実に賞金を持ち帰りたいのでドロップアウトを選ぶというケースが多い。
屈辱の「私は小学5年生より賢くありません」
正解数5問、賞金20万円で“スピードドロップアウト”した女性ピン芸人の吉住(2022/6/10放送回出場)は、別撮りのVTRで「今仕事をいただけていますけど、いつまでいただけるのかも正直わからない。冒険はできない」と述べていた。
問題は進むほど難しくなっていくし、300万円を賭けた最後の問題は大抵6項目で◯×を選ぶ超難問で、途中でドロップアウトを選ぶ心情は十分理解できる。
そんな中、番組であるセレモニーがなくなっていた。ドロップアウトを選択する場合、最後に「私は小学5年生より賢くありません」と宣言させられていたが、こちらで確認する限り、少なくとも2021/9/17放送回でドロップアウトを選んだ、ファーストサマーウイカ以降は「私は小学5年生より賢くありません」という宣言をしていないのだ。その代わり「ドロップアウトします」と宣言して回答する際のボタンを押す方式に変わっている。
スギちゃんがドロップアウト(2021/7/30)した回を見た人に聞くと「“私は小学5年生より賢くありません”って番組に無理やり言わされている感じでちょっと後味が悪かった」という。
番組としてはタレントは最後までチャレンジして盛り上げて欲しいし、(うがった見方だが)イージーに賞金を持ち帰られるのは予算的にも痛く、その意識がこの“罰ゲーム”的セレモニーにあらわれているように見えなくもない。
しかし、このセリフ単純に少し屈辱ではあるし、お笑い芸人やバラエティの常連が言うなら違和感はなくもないが、チャレンジャーには普段テレビに出ないような文化人系もおり、その人たちが言わされるとするとかなり違和感がある。
そんな後味の悪さや、金銭的に苦労している芸能人の存在を考慮して番組側がセリフを変えたのだろう。
そもそも賞金方式で、かつドロップアウトもある番組は、炎上含め、何かと話題になるもの。
「自首」でたびたび炎上が起きるフジテレビ『逃走中』
ウッチャンナンチャンが司会をつとめ、2005年以降レギュラーや単発で放送されてきた『ウンナン極限ネタバトル! ザ・イロモネア 笑わせたら100万円』(TBS系)は、「一発ギャグ」「モノマネ」「ショートコント」「モノボケ」「サイレント」の5分野でランダムに選ばれた観覧者の5人を笑わせるとクリアしていける仕組みだが、こちらもルール上ドロップアウトは許可されていた。しかし、お笑い芸人たちはプロ意識が高く、5分野を行けるところまで行き、途中降りたりしないのがいつの間にか暗黙の約束になっていた。
フジテレビ系の人気シリーズ『逃走中』はテーマパークなどのフィールドでタレントたちがハンターから逃げ回り、逃走時間が長いほど賞金が加算される企画。途中ゲームから降りる(「自首」と呼ばれる)ことで、スタートから自首までの時間に応じた賞金がもらえるが、今までに自首を成功させたドランクドラゴン鈴木拓やとろサーモン久保田かずのぶなどがSNSで炎上した。
『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』も、いざドロップアウトする者が出ると、掲示板やSNSでは「つまらない」「意気地なし」「もう二度と呼ばれない」などと心無いコメントが書かれることもある。
ドロップアウトするタレント側もそれを察してか、「すみません」と謝ることが多い。吉住も「(賞金を獲得できて)めちゃくちゃうれしかったんですけど、バラエティとして間違えちゃったのかな」とエンディングで述べている。
みのもんたが司会を務め、2000年から7年間放送されていた『クイズ$ミリオネア』もドロップアウトのある賞金クイズ番組だったが、当時はSNSが発達していなかったため、“炎上”のようなことはなかった模様。
以上、炎上含め悲喜こもごもを見せてきた「賞金番組のドロップアウト」。番組がルールにしている以上、もらうのが権利と言えるが、タレント側も炎上リスクを抱えており、ちょっと悩ましい問題といえそうだ。