トレーディング・カード・ゲーム(通称TCG)。専用のカードを用いて戦うカードゲームだ。世界初のTCGとされるアメリカの『マジック:ザ・ギャザリング』、日本では『ポケモンカードゲーム』、『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』(以下、『遊戯王カード』)などが代表とされる。
“転売ヤー”も狙う「トレーディングカード」
“トレーディング”の名のとおり、プレイヤー同士が互いに欲しいカードを交換(トレード)して楽しむというものだが、近年は、その“価値”に多額の金銭がやり取りされている。
「例えば『遊戯王カード』ですと、原作となる漫画『遊☆戯☆王』において主人公のライバルが使っていた人気カード『青眼の白龍』の初期版は1枚400万円以上で取り引きされています。それ以上の500万~700万円の価格で取引きされているカードもあります。
『ポケモンカード』も世界的に人気で“億”を超える値がつくこともあり、今年7月には『ポケモンイラストレーター』というカードが、約7億円で購入され、“個人売買の最高額”としてギネス認定されました」(TCGショップ店員)
なぜこれほど高騰するのか。
「大会やイベントにおいて、限定で配布されたカードは市場に出回っている数が少なく、配布数はだいたい数百枚といったところです。
“個人売買の最高額”でギネス認定されたカードは、『ポケモン』情報を発信していた雑誌で企画として行われた“イラストコンテスト”入賞者に配布されたものです。これは数十枚、少ないものでは数枚しか存在しません。
その他は、ゲームにおいて初期段階で制作され、かつゲームを象徴するようなカード。『遊戯王カード』ですと先ほど例にあげた『青眼の白龍』などですね。初期のものなので美品であれば金額は跳ね上がります」(前出・TCGショップ店員)
多くのTCGプレーヤーは『スターターパック』というゲームを始めるときに必要な用具一式が入ったセットを買い、それから『拡張パック』という5枚〜15枚ほどが入ったパックを買い、“より強力”なカードを求める。
「これだけ高い金額で取引きされるので、近年TCGは“投資”の対象にもなっています。高騰するのは限定カードだけではなく、通常販売しているパックに非常に低い確率で封入されている“レアカード”も同様です。
投資対象と考えている人の目的は“転売による利益”ですので、趣味のためにカードを買うプレーヤー以上の金額をつぎ込むことも多い。プレーヤー側も“もしかしたら上がるかも”と欲しくないカードでも購入するケースもあり、市場としてバブル状態が続いていますね」(同・TCGショップ店員)
もしかしたら信じられないような高騰を見せるかもしれないTCG。“それ”を求める人によるトラブルが起こったのは先日のこと……。
予約を求めて多数の客が店頭に殺到
《たまたま梅田にいたからヨドバシでポケカの予約できるかなと思って覗いたら、この世とは思えない地獄絵図で草。喧嘩や押し倒しは当たり前。おまけに救急車きたし民度低すぎ》
《ヨドバシの店員さんに聞いたんですけど、今ヨドバシカメラ梅田店で暴行事件あったみたいです #ポケモンカード》
《ヨドバシ梅田民度悪すぎて草 掴み合いの喧嘩してる奴おったけどこんなんと同類に見られるのもなぁ...》
《店員さんがポケカ並んでる人に殴られたみたいです……》
《ヨドバシ梅田撤退 狭い小部屋にぎゅうぎゅうに押し込まれ、暑さと息苦しさでこれ以上耐えられません 抽選と当日頑張ります ちなみに赤ちゃんだっこした主婦が並んでたのにビックリ》
このようなツイートが散見されたのは、10月28日のこと。大阪市の『ヨドバシカメラ マルチメディア梅田』(以下、ヨドバシ梅田)での出来事と伺える。
この日、ポケモンカード『公式ツイッター』により、新商品が12月2日に発売されることが発表されていた。そしてその新商品の予約がヨドバシ梅田で可能になるという“噂”が広まったのだ。ちなみにポケモンカードの『公式ツイッター』もヨドバシ梅田もそのような情報を発信していない。
公式情報はなかったにも関わらず、ポケモンカードの新商品の予約を求めて行列が自然発生、そして暴行などのトラブルが生まれてしまった、ということのようだ。実際にヨドバシ梅田の“現場”にいたポケモンカードユーザーの男性に話を聞いた。
「28日の14時時点では公式からの発表はありませんでした。ただ、“ヨドバシはいつも発表の当日14時から予約しているという噂が流れ、まとめサイトやポケカ情報Twitterに流れ、みんなそれに踊らされた結果です」(ヨドバシ梅田を訪れた男性、以下同)
具体的にどのような状況だったのだろうか。
「なんで並んでいる?」店員も困惑
「自分が到着したのは、12時半頃でカード売り場には人はまだまばらでしたが、明らかに待機しているなという人たちがいて、時間が経つにつれてその数は増えていきました。みんな14時前には列が作られるのではないかという思いで、その場から離れられない状況が続いていました。それもあり、先頭の人が(予約対応をするであろう)レジ前に並び出した途端、みんなが集まり、どんどん勝手に列ができていきました。もちろん自分も一応並びました」
ヨドバシの店員からは“注意”が入った。
「行列が30人くらいになったところで、店員が“ポケモンカードについては、現在公式から情報が入ってないため、予約は未定です。他のお客様にもご迷惑になりますので、列の解散をお願いします”と何度もアナウンスしていました。その放送で一度は列はなくなりましたが、近場に全員待機、また別の誰かが並びだしたら列ができる、その繰り返しでした。
ちなみに、一番最初に列ができた際は店員も理解しておらず、並んでいる人に、“みなさんなんで並ばれてるんでしょうか?”とお客さんに聞いて回っていたくらいです」
ヨドバシカメラの広報に当日の状況や事実関係について話を聞いた。
「12月2日発売のポケモンカード『ハイクラスパック VSTARユニバース』の予約について、非公式予約情報をネット情報などでご覧になった方々が、10月28日に多数店頭へお越しになりました。
その時点では、メーカーより正式な予約開始日時についての告知がされておらず、通常のお客様のご案内の妨げになるため、お集りになった方々は別の場所へご誘導させていただきました」(ヨドバシカメラ広報担当者)
一方、行列した人同士でのケンカや店員への暴行については、「そのような事実はございません」(同)と、否定した。
店を訪れた男性に行列以外のトラブルの有無について話を聞くと、
「自分の目の前で起こった出来事なので間違いありません。収集がつかなくなり、店員が “ポケモンカードでお集まりのお客様、現在公式からの情報が出ておらず、予約できるかは現時点で未定です。このままお待ち頂いても予約を受付できるかわかりません。お並び頂いても予約受付しない可能性もあります! それでもいい方はゲームコーナーに待機列を作るのでお並び下さい!”とし、そのアナウンス後に、みんなが殺到。かけっこ大会になりました。
店員も最初は“走らないで下さい、走らないで下さい”と丁寧に言っていましたが、あまりにみんなが走るので、最後には怒鳴っていました。先頭にいた方はみなさん聞いていると思います」(ヨドバシ梅田を訪れた男性、以下同)
男性は走る一団から離れつつ、遠巻きながら早足で追ったという。
デマに踊らされ、客同士でケンカも
「その際、自分を後ろから追い越して行った男が、その前にいる男性を“待てや”と追いかけ回していました。“ぶつかっといてなんやねん”と相手のバッグや服を掴み、通路で揉み合い、他の客がそれを避けて進むという状況でした。
結構激しめにつかみ合っており、当たりそうになったので、自分は巻き込まれないよう減速。その際、つかまれた方が手を振り解こうとして相手を殴ったのが見えました。つかんでいた方は“殴ったな”と激情し、数発ではありますが、お互い殴り合いになっていました。
服が擦れる音や殴る音を聞いた人もいるみたいなので、間違いなくほかにも目撃者はいると思いますが、店側からするとそういったトラブルは隠したいのでしょうね」
行列していた人ではない“一般客”が、「危ないだろう」と店員にクレームを入れる場面もあった。
ポケモンカードのユーザーとして、このような状況やトラブルをどう見ているのか。
「今回は、年に一度販売されるハイクラスパックということと、Twitterで散々流れた“14時に予約開始”というデマに踊らされ、集まり、このような状況になりました。ただ、当日は北海道のイオンで先着予約が開始されたり、19時過ぎには実際にヨドバシ梅田でも予約開始されたので、一概にデマとは言えません。
今回集まったのはほとんどが転売ヤーです。日本語以外の言語も多数聞こえました。ヨドバシ側も対応に苦労しているとは思いますが、今回については、店側も“予約できるかわかりません”と言うより、“本日は予約はしません”と言い切った方が正解だったと思います。
ただ、店員が言う、“予約しません、未定です”と言うのはまったく信用できないのをみんな知っています。現にこの騒動の前に自分が、ワンピースカードゲームのスタートデッキを予約しに行った際、他のヨドバシでは朝イチで予約開始していた店もあるなか、梅田店の店員に当日11時頃聞いたところ、“予約はしていません。未定です”と言われ、それを信じて、梅田店では予約しないのかなと帰宅した途端、当日の14時から予約受付していました。
こういうことがあるから、みんな店員の言うことを信じずに、ネットにある情報を信じて行動してしまうんだと思います。実際出回っている情報はかなり信ぴょう性があり、正しいので」
多くはユーザーではなく転売によって利益を求める者であり、ゲームのユーザーはごく一部であろう。人と争い、場合によっては傷つけてまで手に入れる利益もしくはカードで、幸福や楽しみは買えるのだろうか……。