更年期以降、特に気をつけたい骨の病気“骨粗鬆症”。発症者の約8割が女性といわれ、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」(2015年版)によれば、60歳代女性の5人に1人、70歳代女性では3人に1人が骨粗鬆症を発症している。
1年半で20代並みの骨密度に!
そんな中、還暦目前にして20代並みの骨量を実現したのが料理研究家の今泉久美さん(59)。実践したのは食事に気をつけることと、軽い運動を取り入れるというなんともシンプルな方法。
ではどんな食事にすればいいのだろう? 牛乳や小魚、豆類にカルシウムが多いのは知っているが、それらを積極的に食べればいいの?
「カルシウムは単体だと吸収率があまり高くありません。なのでビタミンKやD、タンパク質と一緒にとるのがポイント」(今泉さん、以下同)
ビタミンDはカルシウムの吸収を促進し、ビタミンKは吸収されたカルシウムを骨に取り込むのをサポートする。そしてタンパク質のコラーゲンが骨を強くする。これらが三位一体となったとき、骨が強化されるという。
かといって食材ごとに何の栄養素が含まれるかをチェックするのは至難の業。そこでおすすめなのが、米を中心とした献立にすること。
「お米と肉か魚のメイン料理と汁物、副菜といった具合です。これだと自然といろいろな食材を使うので、必要な栄養素が摂取しやすくなります。栄養素が複合的に作用して、カルシウム単体でとるよりもはるかに吸収がよくなるんです」
1日に1食は、野菜たっぷりのみそ汁と主菜、副菜という献立にしたい。
さらにプラスしたいのが運動習慣。骨は運動などの負荷をかけるとより強くなる。
「毎日しているのはウォーキングやスクワットなどのごく簡単なものです」
買い物がてら1日30分は歩くようにし、スクワットは歯磨き時などに10回程度を1日2回やっているそう。あとは1回2分程度ステッパーをしている。
「食事も運動も続けることが重要なので、頑張りすぎないのがミソ。シンプルだけど、これらを1年半続けたら同年代の人に比べて骨密度が111%に上がり、20代並みになりました。骨折すると歩行困難になって寝たきりリスクも上がってしまいます。“骨づくり”をぜひ今日から始めてみてください」
骨を育てる3本柱
【1】食事
カルシウム単体では吸収率がよくないので、吸収率を高める食材を合わせた献立に。ご飯を中心とした献立で、いろいろな食材をとるのがポイント。
【2】運動
骨は運動などの負荷をかけると強くなり、負荷をかけないと弱くなるという性質がある。ウォーキングやスクワットなど、無理なく毎日できる運動を取り入れて。
【3】日光浴
カルシウムの吸収を助けるビタミンDは日光浴でも得られる。日中や朝など、太陽が昇っている時間にウォーキングをすれば運動と日光浴ができて一石二鳥。
骨を育てる食事術
カルシウムを多く含む食材とおすすめの調理法、食べ合わせ方などをさらに深掘り。今泉さんが毎日欠かさず食べている食材も要チェックだ!
足りないものを補うように食材を選んで
今泉さんが毎日食べるようにしているのは、乳製品、卵、肉か魚、大豆類、野菜、果物の6つ。
「乳製品と大豆製品はカルシウムが豊富なので毎日食べるようにしています。量は牛乳なら1杯半、豆腐なら半丁くらいで十分。ヨーグルトや納豆もいいですね。2回くらいに分けて食べるといいと思います」
さらに欠かさないのが卵とメイン食材になる肉か魚。
「年齢を重ねると食が細くなって、タンパク質不足になりやすい。60~80gでいいので、毎日いただきたいものです」
そして野菜類も十分にとる。できれば朝昼晩と毎食いただきたいところだ。
「特に小松菜や青梗菜などの青菜はカルシウムの吸収を促してくれるので積極的に食べましょう。ビタミンDが豊富なきのこ類も欠かせません」
デザートには果物をそえて。果物に含まれるビタミンCがコラーゲンの生成を促して骨を丈夫にしてくれるためだ。食べるべきものがいろいろあって混乱しそうだが、今泉さんは「足し算で考えると簡単」と言う。
「朝は納豆を食べたから夜は厚揚げにしよう、卵をまだ食べてないから昼に卵焼きを食べよう……という具合に、毎日食べたい6つの食材を足し算する感じで、食材を決めています。食べていないものを探しつつ、献立を考えればバランスよく摂取できます」
また骨づくりで気をつけたいのが塩分のとりすぎ。
「過剰な塩分はカルシウムの吸収を阻害するといわれているので、基本は薄味がいいですね。納豆なら付属のタレは半分だけ使うなどひと工夫を。加えてアルコールやカフェインもとりすぎるとカルシウムの吸収を阻害するそう。なんでも適量を心がけて」
今泉流・毎日食べる食材と食事ポイント
【1】乳製品を1日2回とる
カルシウム量が多く、吸収率も高い牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は1日2回欠かさずとる。ただしチーズは塩分と脂肪分が多いので20g程度に抑えて食べすぎないで。
【2】肉と魚を1日に60~80gとる
タンパク質もしっかり補給。タンパク質は、骨の質を高めるコラーゲンの材料になるのに加え、筋肉を育てるので骨折予防にもなる。栄養が偏らないよう、肉と魚、卵を食べよう。
【3】豆腐などの大豆製品を1日2回とる
豆腐や納豆などの大豆加工品は、タンパク質に加えてカルシウムも豊富で、その吸収を助けるマグネシウムも含まれている優秀食材。2~3日で豆腐一丁くらいを目安に食べて。
【4】野菜をたっぷりとる
理想は朝100g、昼夜で各150g以上の野菜を食べること。特に青菜はカルシウムの吸収を助けるビタミンK、コラーゲンの生成をサポートするビタミンCが豊富なので毎日とって。
【5】果物は1日1回とる
果物に多く含まれるビタミンCは骨を育てるのに必要なコラーゲンの生成を促し、タンパク質と相まって骨づくりをサポート。
【6】主食は米。パンや麺は避ける
おかずがなくても食べられるので栄養バランスが崩れがち。食べても1日1食まで。また塩分のとりすぎはカルシウムの吸収を阻害するが、パンや麺は塩分が高めなので要注意。
【7】アルコールや甘いものは注意
アルコールは過度にとるとカルシウム吸収の阻害要因に。甘いものも食べすぎないよう注意を。食べるならカルシウムなどのミネラルを豊富に含む黒糖を使ったおやつがおすすめ。
骨を育てる6大栄養素の入った一汁二菜の献立例
骨づくりに欠かせないのはカルシウム、ビタミンK、ビタミンD、タンパク質、ビタミンC、マグネシウム。あれこれ作らなくても昔からある一汁二菜で、十分、必要な栄養を補うことができる。
■『かぶと厚揚げのみそ汁』
……【カルシウム】【マグネシウム】【ビタミンC】
■『きのこのごまポン酢あえ』
……【カルシウム】【ビタミンD】
ごまを振るとカルシウムが手軽に補給できる。ビタミンDが豊富なきのことの相性もばっちり。
■『豚の生姜焼き』
……【タンパク質】【ビタミンK】
玉ねぎ入りにして味つけは控えめに。付け合わせの野菜を水菜にするとカルシウムとビタミンKの補給に。
今泉さんのリアル食卓
今泉さんはブログやインスタ(kumi_imaizumi0115)で日々の食事を紹介している。今回はその中から1日分の献立を拝見。3食でとれるカルシウム量は、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」で推奨されている650mgの約2倍! 1食しかまねできないとしても効果てきめんだ。
【朝】一日の計は朝にあり!しっかりバランスを考えて
パンやおにぎりだけ、と簡単にしがちな朝食だが、1日トータルで十分に栄養をとるためには、朝食もバランスのいい献立にするのがベスト。
梅納豆とじゃこと野菜のみそ汁
じゃこを入れてだしに使い、ねぎと小松菜の具だくさんみそ汁で、カルシウムやビタミンK、ビタミンCをたっぷり補給。納豆は梅干しを少し添えて、タレはなし。白菜漬けは減塩でさっぱりと。
オートミール豆乳おかゆご飯
かぶなどの野菜を鶏がらスープで煮て、ミネラルが豊富なオートミールと豆乳を加えてひと煮立ちさせたやさしい味のおかゆ。ぬか漬け、ザーサイと食べれば、味のアクセントに。デザートに梨を添えて。
【昼】単品料理でもOK、でも具はたくさん入れて
惣菜パンや麺類だけでは栄養不足。単品料理にするとしても、具はたくさん入れるように心がけて。栄養もとれるし、手軽に食べられて一石二鳥。
米粉の具だくさんチヂミ
いかゲソと桜エビ、ニラ、かぶの葉、卵などの具材がたっぷりのチヂミ。タレは酢じょうゆにすると、酢の酢酸効果でカルシウムの吸収がよくなる。減塩野菜ジュースと一緒に。
納豆チャーハン
カルシウム、ビタミンK、葉酸が豊富な納豆はほぼ毎日いただいている。チャーハンに加えてうまみたっぷりのひと皿に。抗酸化作用の高いらっきょうなど、残り野菜を付け合わせに。
【夜】メイン料理でタンパク質をしっかり補給
毎日食べたい6つの食材から、まだ食べていないものをチョイスして献立に盛り込んで。メイン料理に肉か魚を必ずとって、タンパク質もしっかり補給。
サンマの塩焼きと野菜のオイスター炒め
サンマは、ビタミンDが豊富なまいたけと一緒に焼き、梅おろしを添える。長芋、ピーマン、とうもろこしはオイスターソースでさっと炒め、インゲンはゆでてごまとポン酢で味つけ。
牛アスパラ炒めご飯
オイスターソースで味つけした牛肉の炒め物は、アスパラ、にんじん、玉ねぎも加えて彩りも栄養もばっちり。ビタミンCやミネラルを多く含むサニーレタスのサラダをたっぷり添えて。
教えてくれたのは……
料理研究家、栄養士。大病をし、薬の副作用に骨粗鬆症があることがわかり、年齢的にも“骨づくり”が必要と、食事と生活習慣を見直す。ブログで発信したところ話題に。『いくつになっても「骨」は育つ!』(文化出版局)など著書多数。
取材・文/樫野早苗