「なぜ、このような不当な扱いを受けなければならないのでしょう……」
デンマークのタブロイド紙『B.T.』に対し、憤りを隠せない様子でそう語ったのは、同国のヨアキム王子だ。
王族数は増加の一途
「今年9月、マルグレーテ女王が、“今年中に4人の孫たちから『王子』と『王女』の称号をはく奪する”と発表しました。4人の父親であり、女王の次男にあたるヨアキム王子は、この決定について“5日前に通知された”と激怒。メディアを通じて、不快感をあらわにしたのです」(現地ジャーナリスト)
世界には27の王室がある。その1つを担う日本の皇室では秋篠宮家の長女・眞子さんが、昨秋、儀式を行わない“異例の結婚”を強行した。
「'17年5月に眞子さんとの婚約が内定した小室圭さんの母・佳代さんが、約400万円の金銭トラブルを抱えていることが、後から報じられました。その後、宮内庁は結婚を延期。'21年10月までの約4年半にわたる騒動に発展し、皇室全体へ影響を及ぼしました」(皇室担当記者)
海外での生活を始めた“日本の元プリンセス”を、世界中のメディアはこぞって取り上げた。
「日本ではあまりイメージがありませんが、海外王室にはスキャンダルがつきもの。イギリス王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃に代表される家庭内トラブルや金銭トラブル、泥沼離婚劇など、枚挙にいとまがありません。そんな中、現在“内輪モメ”が公然となるトラブルに発展しているのが、デンマーク王室です」(前出・現地ジャーナリスト)
同国のマルグレーテ女王が着手したのは、ヨーロッパ諸国で進められている“王室のスリム化”だ。
「皇族数の減少という課題を抱える日本とは異なり、男女共に王位継承権を持つ国々では、王族数は増加していく一方。王族数を少なくすることで公費を削減し、国民の不満を抑える狙いがあります」(世界の王室に詳しいジャーナリストの多賀幹子さん)
イギリスのチャールズ国王は、皇太子時代から、王室の役割を縮小する意向をほのめかしているという。
「成功した例もあります。'19年10月、スウェーデン国王は、当時1~5歳だった5人の孫を正式な王室から除名しました。王族数の増加に伴い、“公費がかかりすぎる”という国民の声を受けての措置で、孫たちは、税金を財源とする王室の手当を受け取れなくなりました」(前出・現地ジャーナリスト)
トラブルとなった原因
そのような背景を受けて、孫4人から称号をはく奪すると発表したデンマークのマルグレーテ女王。決断に際し、こうコメントを寄せた。
「この調整は王室を永らえるためには必要不可欠であると捉え、私の在位中に行いたいのです」
マルグレーテ女王には、長男のフレデリック皇太子と次男のヨアキム王子という2人の息子がいる。それぞれ4人の子どもに恵まれたが、ヨアキム王子の子どもたちだけが称号を奪われることになる。
「女王は、“王室の一員であることに伴う特別な配慮や責務に制限されず、より広い世界で自分たちの生活を築いていけるように”と、願っていましたが、残念ながらヨアキム一家には響いていないようです」(前出・現地ジャーナリスト)
ヨアキム王子は、冒頭のインタビューで、子どもたちの苦悩についても言及していた。
「彼らは何をよりどころにすればいいのか、何を信じればいいのかわかりません。なぜ、彼らのアイデンティティーが奪われなければならないのでしょう……」
前出の多賀さんは、一連のトラブルを引き起こした原因について、こう見解を示す。
「本来ならば、話し合いを重ねて、ヨアキム王子を納得させるべきでした。王族のスリム化は、いずれ誰かがやらなければいけないこと。ヨアキム王子への通知が5日前だったのは、本人からの抵抗や反発を予想していたからだと思います」
称号を奪われる孫たちの最高年齢は23歳。突然の発表に戸惑うのも無理はないだろう。しかし、事の発端は、ほかならぬヨアキム王子にあるという。
「過去に泥沼の離婚劇を繰り広げたことでも知られるヨアキム王子は、独身時代より“パーティー・プリンス”と揶揄されてきました」(多賀さん、以下同)
初婚の相手は、英語、ドイツ語、広東語の3か国語を話し、投資会社の副部長を務めていた、香港生まれのアレクサンドラ女伯だった。
息子に対するマルグレーテ女王の本音
「'95年、アジア系の女性として初めてヨーロッパ王室に嫁いだアレクサンドラ女伯は、結婚して1年でデンマーク語を完璧に習得。公務にも積極的で、デンマーク国民からは絶大な支持を得ていました」
ニコライ王子とフェリックス王子という2人の息子が生まれたものの、夫婦仲の悪さがたびたび報じられ、'05年に離婚。ヨアキム王子の素行不良が原因だと囁かれた。
「'08年には、現在の妻にあたるフランス人のマリー妃と再婚し、ヘンリック王子とアテナ王女を授かりました。'19年には“王室に居場所がない”と一家でフランス移住。マリー妃はデンマークに帰りたがらず、王子も今はデンマーク王室の公務を、ほとんど行っていません」
今回の称号はく奪に関するデンマーク国内の世論調査では、50・3%が賛成を表明しており、反対は23・3%にとどまる。
「ヨアキム王子は、これまでの醜聞により、国民からの人気があるとは言い難いです。もしも人望があれば、もっと惜しむ声が上がったはず。昨今はSNSが発達し、国民と王室との風通しがよくなったこともあり、スキャンダルを隠せない環境です。
マルグレーテ女王にとって、王室をスリム化する表向きの理由は“孫たちの自由”や“公費の削減”ですが、本音は、ヨアキム王子の母親として、王室への敬愛を損ねかねない息子と距離を取りたかったのではないでしょうか」
王室を揺るがす“親子ゲンカ”の行方や、いかに─。
多賀幹子 ジャーナリスト。元・お茶の水女子大学講師。ニューヨークとロンドンに、合わせて10年以上在住し、教育、女性、英王室などをテーマに取材。『孤独は社会問題』(光文社)ほか著書多数