伊藤武司容疑者(SNSより)

《良い、悪い。美しい、醜い。同じものでも個人の意識によってそう分類されていく。意識は知性、感性、知恵が作り出すものだ。私はその意識を装置として使う……》

 芸術家を名乗る容疑者は、ホームページでそんなご託を並べる。原文は英文だから世界を意識しているのだろう。

 しかし、かかる嫌疑はどのような意識で見ようと卑劣としか言いようがない。

「8月9日のこと。経営する三重県津市の美術教室に通う10代の女子生徒に、スマートフォンで裸の写真や映像を撮影・送信させた疑い。女子生徒が最近ふさぎ込んでいるのを心配して両親が話を聞いたところ、美術教室の先生から繰り返しそのような要求をされたと打ち明けたため警察に相談し、犯行が発覚した。要求を断れない状況をつくっていた」(全国紙社会部記者)

拒否したら希望の学校に合格できない

 県警津署が11月1日、被害者を抵抗できない状態にさせてわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつの疑いで逮捕したこの芸術家兼美術教室経営者は、『ヒーロー伊藤』の名前で活動する伊藤武司容疑者(57)。

「美術の感性を高めるには、奴隷として命令に従う必要がある。拒否したら希望の学校に合格できない」

 と女子生徒に迫ったという。

 容疑者が主宰する『ヒーロー伊藤スタジオ美術研究所』は、芸術大学や美術大学、デザイン科のある高校へ合格者を多数輩出しており、ホームページで「県で進学実績ナンバーワン」と謳うほどその道では知られていた。

「画家やイラストレーター、漫画家などを志す生徒にとって、“ヒーロー先生”の教室に通うのは夢をかなえる近道なんです。ハイレベルな生徒が集う環境は刺激になりますし、熱血指導のおかげで実力をつける生徒も多く、カリスマ的な存在でした」(現役生徒の保護者)

 そうした立場を利用し、合格したい気持ちにつけ込むとは許しがたい。

経営する美術教室は閉まったまま=津市

「容疑者は“画像を送りなさいとは言っておらず一方的に送ってきた”などと容疑を否認している。“私は関係ない”と。しかし、画像や映像を送らせたのは1回きりでなく、複数回のわいせつなやりとりを確認している。具体的な回数は捜査中だ」(捜査関係者)

 美術教室は津駅前の古びた建物の1階にある。

「大勢の小・中・高校生が通っていましたが、ヒーロー先生は近寄りがたいオーラを放っていました。堂々たる体格にヒゲづら、髪をうしろで束ねたちょんまげスタイルで、赤いブルゾンとはき古したデニムで周辺をプラプラ歩いていました」(地元住民)

 教室の募集要項によると、月謝は週1コマ授業の場合、小学生は6596円、美術系高校を受験する中学生は9200円、高校生は9900円。芸大・美大受験の週10コマのコースは、月額5万1300円と負担は大きい。ほかに入学金がかかったり、実技模試や夏期講習もあり、子どもの才能を伸ばすためでも保護者には金銭的にキツイだろう。

 それほどの月謝を取るヒーロー伊藤は地元・津市の出身。県立高校を卒業後、上京して法政大学文学部の日本文学科へ。芸術の道に進んだのは意外な角度からだった。

“ヒーロー伊藤”を名乗るようになって

「東京で芸人になったんですよ。大道芸系のパフォーマンスアート芸人で、そのころから“ヒーロー伊藤”と名乗るようになったみたいです。大学の学園祭でお笑いバトルの審査員を務めたこともある。三重に帰ってから美術教室を開くなどアートに軸足を置くようになった」(都内の知人)

 つまり、独学で美術を学んだということ。

 美術教室で生徒を指導する一方、国内外の小規模の絵画コンテストに出品して賞を獲得したり、個展を開くなど主に油絵画家として活動を続けてきたという。

 かつて容疑者が個展を開いた画廊の男性オーナーはこう話す。

「逮捕には首をかしげるばかりです。ヒーローさんとは数十年の付き合いになりますが、外見は異質に見えても根はまじめでおとなしい性格ですから。女性絡みの噂は聞いたことがありません。生徒思いで、時間外指導をしてあげたり、生徒が展覧会に出す作品を自分の車で運んで会場に並べてあげるなど熱心でしたよ」

 パフォーマンスアートも封印していないそう。音楽に合わせ逆立ちして絵を描いたり、半裸状態にラップを巻いた身体で絵を描くなどショー的要素の強い内容らしい。

「一度、ラップを助手に取ってもらうタイミングが遅れて“しんどかった”と苦笑いしていました」(同・オーナー)

 一方でネガティブな評判も。《高い月謝を払って毎回トイレ掃除をさせられる》《発言がコロコロ変わる完全ワンマン主義者》などと生徒の保護者が書いたとみられるインターネット上の口コミがある。

 前出の保護者は「変わり者で独善的な側面はあったようです」と認める。

 変わっているのは絵画のタッチも同じ。対象物を抽象化して描く技法で、作品には女性の奇妙な裸体画が目立つ。

「女性を卑わいに描いた作品が多い」

 比較的大きな胸を描くケースが多く、乳首を黒く塗りつぶしてみせたり、左右の乳輪を異なる色にしたり。寝ている女性にグロテスクな化け物が手をかける作品もある。

伊藤武司容疑者(SNSより)

「女性を卑わいに描いた作品が多く、購入する気にはなれませんでした」(知人女性)

 私生活は平凡だ。津市内の閑静な住宅街にある中古住宅を約34年前にローンを組んで購入し、妻と3人の子どもがいる。近隣住民らによると、今は独立した子どもを除く家族で暮らしている。

「お子さんが小さいころは、正月に庭先で一緒に餅つきするなど子煩悩に見えました。家事は共働きの奥さんがこなしていましたが、洗濯を手伝うこともあり、家族仲はよさそうでした」(近所の住民)

 犬が好きで、まめに散歩させたり、一緒に寝ることもあったらしい。

 どれが本当の顔なのか。前出の画廊オーナーは言う。

「周囲から見れば独善的とうつる部分はあったかもしれません。芸術家は人と違うことをやって初めて認められるところがあり、独自の世界観を持っていますから。結構、彼のファンはいるんですよ」

 常人と異なる感性を持つことじたいは罪ではない。その感性を少女に押しつけ、「奴隷」とまで言って傷つける行為を強いた事実が問われている。警察は余罪についても調べる方針という。

 
『おんな』と題した油絵。左右の乳輪を赤と青に塗り分けている((伊藤容疑者がHPに掲出する作品集より)

 

タイトルは『agirl』。裸の女性が座って膝を立てている構図か(伊藤容疑者がHPに掲出する作品集より)

 

『asleepinglady』。全裸で横たわる女性に不気味な化け物が手をかける(伊藤容疑者がHPに掲出する作品集より)

 

伊藤武司容疑者(SNSより)