柿澤勇人(撮影/伊藤和幸)

「『東京ラブストーリー』は漫画原作(作・柴門ふみ)があり、日本中が熱狂したトレンディードラマ版もある。比較もされるでしょうし、また恋愛もののミュージカルはあまり経験がないので、そういう意味での不安はあるかもしれません」

 ミュージカル『東京ラブストーリー』でカンチこと永尾完治を演じる柿澤勇人(35)。

「今まで日本で上演されてきたミュージカルの多くは海外で成功した作品を、日本のお客さんに喜ばれる形で和訳したもの。すでに世界が“面白い”と評価したものをやるのも、もちろんひとつだと思います。

 でも、言い方は変ですが“受け身の状態でいいのかな?”という疑問は、僕の役者としての考えには常にあったので。今作はすべてを自分たちで作り上げないといけないので負荷もかかる。だけど、“ミュージカルってやっぱり海外のものでしょ”という感覚を少しでも変えられたらいいなと思っています」

 王道ラブストーリーにしのばせているのは、多大なる挑戦と野望。

「冒頭から数分で、ドラマの感覚とは全然違う『東京ラブストーリー』になっています。名台詞&名シーンを舞台上で生で見られるのは魅力のひとつ。笑っちゃってもいいし、滑稽に思われてもいい。一緒に楽しんでもらえたらうれしいですし、“新鮮で面白い”“もっとミュージカルを見てみたい”と思ってもらえたらいいなと思います」

結婚願望、もちろんあります

 奔放なリカと、初恋の相手であり家庭的なさとみ。カンチは2人の女性の間で揺れる。ぶっちゃけ、どっちがタイプ?

柿澤勇人(撮影/伊藤和幸)

「うーん、どっちなんだろう? 若いときは積極的でガンガン引っ張っていくほうだったんですが、最近は全然恋愛していなくて(笑)。どんなに忙しくてもエネルギーになるのが恋愛なのに、そのエネルギーがない状態で(笑)」

 改めて、好きな女性のタイプや恋愛観を尋ねると、

「35歳になりましたし、激しい感じの恋愛はもういいかな。居心地がよく穏やかに生きていきたいし、自分の本音を言い合える関係がいいですね。最近、役者という仕事をする中で、健康は本当に大事だなと感じていて。ささいな喉の痛みもパフォーマンスの低下につながりますし。なので、身体のことを考えてくれる人だったらうれしいかな」

 となると、リカではなくさとみでは?

「かも(笑)。結婚願望、もちろんありますよ。昔から子どもが欲しいと思っていたし。生まれたらきっと違う景色が見られて、役者としての幅も広がると思うので。いつかは、という思いはありますが、まったく焦ってはいないです」

実朝の死を悲しんでくれるといいな

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では三代将軍・源実朝を好演している。

柿澤勇人(撮影/伊藤和幸)

「反響の大きさには驚きました。“ここまでみんな見てるんだ!!”と。僕は今まで能動的で積極的な役が多かったので、実朝のような静かな役は初めてで。何より、役者として“実朝にかけたい”という思いがありました」

 病弱キャラゆえに体重を5キロ落とし、撮影の5か月間は他の仕事を入れずに挑んだ。

「実朝に近づけるように、“これ以上、自分にやれることはない”っていうくらい追い込んで。また現場は、キャストとスタッフのものすごい熱量で回っていて。なかなか経験したことのない、本当に幸せな時間でした。クランクアップして数週間がたちますが、急に撮影に行かなくなったのがすっごく寂しくて。若干、ロスですね(笑)」

 物語は終盤戦を駆け上がっている段階だが、

「史実として、最終的に実朝は死ぬわけですが、そのときに“柿澤の芝居、大したことなかったな”ではなく、一緒に悲しんでくれる人が多いといいなと願っています。実朝ロス? あははは(笑)。そんな現象が起きたらうれしいですね」

ミュージカル“だけ”の俳優には絶対なりたくない

30代も後半に突入。描いている役者像を尋ねると、

「今は、とにかく芝居をしたいです。『鎌倉殿の13人』のチームは本当に最高だったので。またそんなエネルギーをかけられる役と出会いたいです。なので、ジャンルや場所は問いません」

 “舞台の貴公子”とも呼ばれる柿澤のキャリアと実力は折り紙つき。てっきり、主軸はミュージカルなのかと思いきや、

「まったく思ってないですね。『劇団四季』を退団した22歳のときから、ミュージカル“だけ”の俳優には絶対なりたくないという思いは強かったので。ストレートプレイだろうと、映画だろうと、ドラマだろうと何でもいいので、最高の作品と役に出会える30代後半になればいいなと思っています」

ミュージカル『東京ラブストーリー
11月27日~12月18日、東京建物 Brillia HALLにて。その後、大阪、愛知、広島公演あり。