寒さが感じられるこのごろ、コロナだけではなく風邪にも気をつけなくてはなりません!しかし、あなたが信じている風邪対策、実は意味がなかったかも……。医学博士の森田豊さんに、新常識を教えていただきました。これを読んで、風邪知らずの冬を過ごしてくださいね。
咳は他人の迷惑にならない範囲で積極的にしたほうがいい
新型コロナウイルスの影響で、公共の場で咳(せき)をすると周りからギョッとされ、咳を我慢してしまう人も増えているが……。
「咳によって、風邪の原因であるウイルスとともに、白血球の死骸である痰(たん)が排出されるので、特に風邪のひきはじめは咳をしたほうがいいです。ただし、激しい咳や疲れるような咳の場合には、この限りではなく、咳止めや医療機関への受診が必要です」(森田さん、以下同)
風邪をひいているときにお風呂に入ってもOK
「風邪のときはお風呂に入ってはいけない」と考えるのは、これは日本特有の考えだという。
「昔は日本のお風呂が屋外にあったので、行き来するときの急激な温度の変化が、風邪を悪化させると考えられていました。現在では屋内にあるのが一般的ですし、ある研究によると、風邪のときに入浴をした人としなかった人の間で、治りの程度に差がないということがわかりました。
ただし、高熱が出ているときや、身体がとてもだるく、動くのもつらいようなときには、入浴を控えたほうが無難でしょう。風邪をひいていても、汗を流したいのであれば軽くシャワーを浴び、冷えた足を温めたいときには足湯だけにするなどもよい工夫です。体力を消耗する長湯は避けてください」
ビタミンCと抗生物質が風邪に効くのかは疑問
風邪で病院に行ったとき、ビタミンCや抗生物質を処方されたことがある人も多いのでは?
「ビタミンCを多くとっても風邪の症状がよくなるという事実は確認できていません。ただ、風邪の治療には効果がなくても、予防に対しては、少なからず効果があると報告されています。ビタミンCは、毎日の食事で野菜や果物からとることができますので、過剰な摂取は控えてください」
日本呼吸器学会は成人気道感染症の指針のなかで《風邪に抗生物質は無効。細菌性二次感染の予防目的の投与も必要ない》としている。
「抗生物質は、細菌に対しては効果がありますが、風邪の原因であるウイルスに対しての効果はありません。抗生物質を飲んでも飲まなくても、風邪をひいている期間は同じだという調査結果もあります。患者さんは薬で風邪を治しているつもりでも、実際に風邪を治しているのは、人が本来持っている自然の治癒力、抵抗力なのです」
高熱が出たらおでこよりおへその下を冷やす
熱が出たらおでこに冷たいタオルをあてるのは実は間違い!?
「高熱が出たら、おでこではなく、大動脈があるおへその周辺を冷やすほうが効率的です。おでこには血管が少ないので、身体を冷やす効果は期待できません。首の横、鼠径(そけい)部、脇の下などにも太めの血管があるのでオススメできます。
最近では、手のひらを冷やすことも推奨されています。手のひらには動脈と静脈を結ぶバイパスのような血管があって、特に体温が高くなるとこの血管に血液が多く流れます。
そのため、手のひらを冷やすことで、効率よく血液を冷やし、身体の温度を下げることができると考えられています。氷水など冷たすぎると、血管を収縮させてしまうので、15度ぐらいの水が最も効果的。適度に冷えたペットボトルを手に握るのもよいでしょう」
熱が出たら温かくして発汗は×冷やして脱水を予防する
風邪で熱が出たら、身体を温めて汗をかいて治す。いわゆる発汗療法は、現代の医学常識では間違いだとされている。
「熱が上がりきったら、汗をかかせるために、無理に温かくする必要はありません。むしろ、太い血管の集まる脇の下や、首の周囲に冷たいタオルなどを置いて、身体の温度を物理的に下げるようにしたほうが、脱水状態の予防のためにもよいのです」
『家庭の医学』(時事通信社)での「風邪の対処法」の記載も、時代とともに変化が認められる。
「1949年版には、《体を温かくして就寝すると、発汗して気持ちよくなり、翌日からは熱が高く出ず》とあり、1969年版、1988年版のいずれにも、《かぜのひきはじめには昔から発汗療法(出典ママ、以下同)》と書かれてあります。
しかし2001年版では、《汗をかくと気化熱により体温が奪われるので熱が下がりやすくなります》と修正され、2005年版では、《かぜに対する特効薬はなく、一定の経過をとって自然に治癒していくもの。汗が出て脱水状態になることがありますので、水分を十分にとることも大切です》と記載されています」
ひきはじめは寝るより軽い運動をしたほうがよい
「風邪をひいたらとにかく寝て休むのがいい」と思っている人も多いが、必ずしもそうではないとか。
「倦怠(けんたい)感によって、寝たほうがいいのか動いたほうがいいのか決まるので一概には断定できません。
倦怠感がないのなら、特に寝ている必然性はなく、軽い運動をすることで、代謝も高まります。ただし、飛沫(ひまつ)感染、接触感染によって他人にウイルスをうつさないことは重要です。
一方、風邪予防には寝ることは大切です。睡眠時間が7時間以上では最も風邪をひきにくく、それより短くなればなるほど風邪をひく確率は高くなるという結果が出ています」
「風邪をひいたかも」と感じたら、すぐに寝るのではなく、ウォーキングやストレッチなどの運動をしたほうが治りが早くなるケースもある。
インフルエンザの予防にはうがい薬よりもお茶がいい
手洗いとうがいはウイルスを寄せつけないために推奨されるが、うがい薬は必要なかった!?
「うがい薬でうがいすると、薬の消毒効果が強すぎて、かえって風邪を悪化させる可能性もあります。昭和大学細菌学教授の島村忠勝先生によると、紅茶、緑茶、ウーロン茶などは、インフルエンザや風邪に対する予防効果があるそうです。茶葉に含まれているカテキンは、インフルエンザや風邪のウイルスに結合し、感染力を弱くしてくれます。ふだん飲むお茶の4分の1程度の濃さでも効果があります。
研究報告では、紅茶で1日2回うがいをすることで、インフルエンザの予防に効果がありました。人前では、なかなかうがいができないかもしれませんが、そのときはお茶を勢いよく飲むというのもおすすめです」
民間療法の信ぴょう性はイマイチ
民間療法として知られる「風邪のとき、焼いたネギを首に巻くと効果がある」はホント?
「答えはウソです。ネギ、特に長ネギは、辛み成分のアリシンの作用で血行を促進し、身体を温め疲労回復に効果があるといわれています。アリシンは、ビタミンB1の吸収を高めて、疲れを癒す働きも。ネギの白い部分は漢方でも風邪に効果があることで知られ、緑の部分はβカロテンやビタミンCが豊富です。
しかし、焼いたネギを首に巻いたからといって、ネギの成分が皮膚を通して、血液の中に吸収されるとは考えられません」
「風邪をひいたら卵酒が効く」も間違い!
「お酒は、粘膜を乾燥させたり、炎症を拡大させたり、風邪に対して、あまりよいことはありません。寝つきをよくする程度のアルコール量なら問題ないと思いますが、量が多い摂取は好ましくなく、むしろ風邪による炎症を悪化させてしまいます」
風邪をひきやすくなるこれからの季節、正しい情報をもとに対処しよう。
コメントしてくれたのは……医師・医療ジャーナリスト 森田 豊さん ●1963年、東京都出身。医師として医療に従事するとともに、メディアにてジャーナリストとして活動を行っている。近著に『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)がある。
〈構成/紀和 静〉