治療や介護が必要な人のためのケアブランドデザイナーとして活躍する塩崎良子さん(40)。彼女の作るアイテムには、自身の乳がん経験が活かされ、今や多くのがんサバイバーに支持されている。
そんな塩崎さんが乳がんに罹患したのはまだ33歳のとき。告知から1か月足らずでの抗がん剤治療だった。
病院の売店で買ったケア帽子“患者さん”姿がつらかった
「最初は体調の悪さもなく、病気がまだ身近に感じられていませんでした。それより、仕事など生活のほうが不安でした」(塩崎さん、以下同)
がんという病気の重さに直面したのは、目に見える形で抗がん剤の副作用が出始めてから。髪や眉毛が抜け、顔がむくみ、肌が黒ずんだ姿を鏡で見るたびに「自分が病気なんだと突きつけられるようでつらかった」と話す。
「わが家はいわゆる“がん家系”で、祖母も昔、がんで入院していました。病院の売店で買ったケア帽子姿の自分を見ると、まるで20数年前にがんで入院していた祖母そのもの。病院のスタッフの方からも、“患者さん”と呼ばれ、自分という存在が失われていくような感覚がありました」
“患者らしい”服装を受け入れているうちに、画一的な“患者”になっていく恐怖。
しかし、その気持ちと向き合ううちに、昨日と今日の自分は変わらないのに、病気の告知を受けたとたん、我慢や諦めが増えていくことに疑問を持つようになった。
「なるべく、治療前と同じ日常を過ごすように意識するようになりました。服装も自分の好きなものを身にまとって。
“患者さん”ではなく、私らしくい続けたいと思うようになりました」
好きなカラーのウィッグを選んだり、眉が脱毛したのを機に流行りの眉にイメチェンを試みたり、そのときしかできないおしゃれを楽しむようになった。
“自分らしさ”こそ真の美しさと気づいた
そんな塩崎さんに転機が訪れる。ファッション業界で働いていた経験を買われ、主治医から、がん患者が主役のファッションショーの開催を提案されたのだ。
「正直なところ、私たちのようなモデルではない人がショーに出るのは難しいと思いました。
でも、それは間違いだとわかった。大変な状況を抱えているなか、それぞれの方が“自分らしく今を生きる”という信念を持ってランウェイを歩いていました。その姿こそ美しいと感じたのです」
このショーをきっかけに、「女性の美しさの定義が変わった」と話す塩崎さん。
同時に、ファッションが人の心に与える力の大きさも実感。その思いを今、ケア・介護用品ブランドのデザインに込めている。
「“自分らしく”というと難しく思いがちですが、それは自分の好きなものの集合体でできていると感じています。自分の好きなもので装い、その人のアイデンティティーを保つことが治療中の支えになる。それは、当事者だけでなく、看病する側の心も明るくすると信じています」
(取材・文/河端直子)