事件発生から半年あまりがたっていた。
「埼玉県朝霞市にある内装会社のプレハブ建物が全焼し、中から同社の社長が遺体となって発見されたのが、5月14日のことでした」(全国紙社会部記者)
亡くなったのは、『長葭内装』代表の長葭(ながよし)良(りょう)さん(43)。殺人事件として捜査を続けていた埼玉県警は11月20日、内装業の大木渉容疑者(37)と元内装工の大西寿貴容疑者(31)を逮捕した。
「犯行の手口は、あまりにも残虐でした。
長葭さんの遺体上半身には複数箇所の骨折があったことから、工具などで何度も殴られたとみられます。しかし、死因は焼死。司法解剖で、炭化した遺体の肺からは一酸化炭素を吸い込んだ“すす”が検出されました。つまり、容疑者たちは長葭さんを鈍器で殴った後、内装会社の建物に火を放ち、まだ息のある被害者を殺害したのです」(同・記者)
長葭さんと2人の容疑者は、事件が起こる前日の夜から仕事をして、明け方に会社内の事務所で解散。その後、容疑者らは再び事務所を訪れて犯行に及んだとみられる。
容疑者らに“日当の未払いがあった”
「長葭さんと容疑者2人は、仕事を発注する“元請け”と発注された仕事をこなす“下請け”の関係。今年1月に知り合ってから、仕事をするようになったようですが、容疑者らは“日当の未払いがあった”と供述しています。
証拠を隠滅するために火をつけた可能性もありますが、そうとうな恨みがあったようにも感じます」(同・記者)
年齢も違えば、住む場所も違う3人の共通点は、同じ内装業ということだけ。命を奪うほどまでに、容疑者らは金銭的に困窮していたのか。
容疑者2人にはともに子どもがいて…
大木渉容疑者が住んでいたのは、事件現場から約45キロメートル離れた、埼玉県比企郡にある一軒家。自宅前にはベビーカーや子ども用の自転車が並んでいる。近隣に住む男性は、
「彼はあの家のお婿さんです。7~8年ほど前に、大木さん宅の次女と結婚しました。ふたりの間には小学校低学年と未就学児の娘さんがいたはずです。ご家族が本当に不憫ですよ」
と話して、肩を落とした。近隣住民の女性は、
「大木さん宅は、お婿さんと次女の家族、その姉のお子さん、高齢のご両親が住んでいます。姉夫婦には3人のお子さんがいるのですが、姉夫婦は2人とも亡くなってしまった。高齢のおじいさんは数年前から病気になって車イス生活に。年金はもらっているでしょうけど、一家の大黒柱はお婿さんでした。お婿さんの奥さんも働いて、姉夫婦の子どもたちの面倒も見ていたんです。支えなければいけない家族がいるのに、なんでこんな事件を起こしたのか……」
容疑者の家族に同情するが、顔をしかめてこうも続けた。
「でも、近くに住む人間が殺人事件を起こしていながら、何食わぬ顔で暮らしていたかと思うと怖くって……」
自宅に帰ってきた大木容疑者の義母に声をかけたが、
「何もお話しできることはありません。私たちも、何もわからないんです」
と言って、自宅へ入った。事件後、大木容疑者が早朝に子どもを車に乗せて出かける姿も目撃されており、家庭では“いいパパ”だったよう。
それは、もう1人の容疑者も同じだった。事件現場から約20キロメートル離れた埼玉県越谷市の賃貸物件に住んでいた大西寿貴容疑者。
「本当ですか? 嘘でしょう、信じられません……」
話を聞いた近隣住民女性は、事件を聞いて驚きを隠さない。
「すごく仲のいい家族で……。大西さんは二軒長屋のひと部屋を借りて、妻と、中学生と小学生の娘さんに未就学児の長男がいる、家族5人暮らしです。ゴミ出しのときに些細なことで近隣の方に注意されたときは“すみません! すぐ直します!!”と謝ってゴミを出し直していました。悪いことをする人に見えませんでしたし、夏には家族で花火をしていて幸せそうだったのに……」(同・女性)
話を聞こうと大西容疑者の自宅インターホンを押したが、応答はなかった。幸せな家庭を築いていた容疑者らが、どうして凶行に及んでしまったのか─。
被害者の長葭さんを知る、内装会社関係者はこう話す。
「長葭さんは18歳のころに同級生の父親が経営する内装会社に入り、数年後には独立していました。とにかくまじめで、人から恨まれるタイプではありませんでした」
ただ、今回の事件について話が及ぶと、顔が曇る。
「長葭さんは“2次請け”か“3次請け”の仕事をしていたはず。いわば“下請けの下請け”です。当然のことながら、下に行けば行くほど報酬は少なくなる。1社挟むごとに、だいたい3000~5000円は“ピンハネ”されます。うちは主に“1次請け”で仕事をしていますが、1件あたり2万5000円から3万円で受注したら、下請けさんには2万円以上は払います。でも、それが2万円未満にされるのはザラですよ」
と説明し、今回の事件の背景について、こう推測する。
「長葭さんが請け負っていた仕事の場合、容疑者に入る金額は、おそらく日当にして1万6000円から1万8000円ぐらいだったはず。それを、さらに下げていたのでは。ただし、まったく払わないわけではなく、1万円とかに……。長葭さんにとって“実入り”の少ない仕事をすれば、経営が苦しくなります。“今月は、この金額で頼むよ”なんてことが続いて“おまえ、いいかげんにしろよ”となったのでは……」(同・内装会社関係者、以下同)
さらに、こうした業界の“闇”も明かす。
数百万円単位で未払いがあった人も
「内装業界では、未払いなんていうのも当たり前。数百万円単位で未払いがあった人もいます。工事現場に職人が乗り込んできて“いいかげんに金を払えよ!!”とケンカになっているのを見たこともあります」
一家の大黒柱として、収入減少は死活問題。そうとうな額の未払い金があったならば、容疑者たちも追い詰められていたのかもしれない。
しかし、“パパ”だったのは、容疑者たちだけではない。
埼玉県内にある長葭さんの自宅周辺ではこんな話が。
「お子さんは3人いて、下の2人はまだ高校生。長男はバイク好きだったお父さんの影響か中型バイクに乗っています。家族はすごく仲よしで、庭でよくバーベキューをしていました。羨むぐらい明るくてすてきな家庭だったのに……」(近隣住民の女性)
容疑者たちの身勝手な犯行で、ごく当たり前だった“日常”が奪われ、遺族は悲しみに暮れる。“パパ”が突然“殺人犯”となった容疑者らの家族も、苦しみを抱える。犯行前、悲しむ家族の顔が浮かばなかったのか─。