関西生まれではない人も「なんでやねん」などの関西弁を日常的に使うようになった昨今。「よく知らないけど」を意味する「知らんけど」、「とても」を意味する「めっちゃ」を家族や友人との会話で使う人も多いのでは。かつては「うるさい」と言われたこともある関西弁が人気の方言になったのはなぜか? お笑い芸人の影響なのか、それともーー。
『ユーキャン新語・流行語大賞2022』のノミネート30語が、11月5日に発表された。「宗教2世」「きつねダンス」など、今年の世相を表すことばが並ぶ中には「知らんけど」という関西弁由来のフレーズも。「あの店、最近人気らしいよ。知らんけど」といった具合に、自分の発言した内容に責任や確証が持てないとき、会話の結びとして言い添えるのが主な使い方だ。関西圏以外でも、若年層を中心にSNS上のやりとりや日常会話において重宝されている。
「思わず“知らんのかい!”とツッコみたくなるようなおもしろみがあるし、軽いノリを表すのにも便利なのでよく使います。ほかにも、相づちとして“それな”を使ったり、“今日の授業サボっても、ゆうて(そうは言っても)なんとかなる”みたいな感じで、関西弁っぽいことばは普段の会話でもよく出てきます。あとは、高校生になったときぐらいから母親を“お母さん”と呼ぶのが恥ずかしくて、なぜか“おかん”と呼ぶようになったりしました(笑)」
そう教えてくれたのは、都内の大学に通う山本悠太さん(20歳・仮名)。生まれも育ちも東京都だが、友人との会話では自身も関西弁風のことばを多用しているという。また、千葉県で会社員として働いている奥寺友梨佳さん(24歳・仮名)も次のように語る。
関西弁は“ネットスラング”感覚
「好きな俳優が出ているドラマの感想に“(尊すぎて)しんどい”と言ったり、デートで行ったお店の写真をSNSにアップするときに“焼き肉おごってもろて”と書き添えたり……お願いするときにも“早く行くお店決めてもろて(決めてください)”と使ったりします。関西弁というよりは、ネットスラング(インターネット上で使われる俗語)を使ってる感覚ですが、標準語では置き換えにくいニュアンスも出せる気がしますね」
日常でも関西弁を耳にする機会は多く、いわゆるZ世代の若者たちの間では関西弁風のことばがより肯定的に広がっているようだ。では、なぜこれほど関西弁が広がっているのだろうか。国立国語研究所で日本語を研究している鑓水兼貴さんにお話を聞いた。
「こういったことばの流行を見ていると、たしかに関西弁が日本中に広がっていると思えるかもしれません。ただし、大前提として、日本中でことばの“共通語化”が進んだという状況があります。もともとその土地で使われていた“方言”に対して、“共通語”は日本中どこでも通じることばを指します。教育やメディアなどで使われる標準的なことばとして、東京で話されていたことばを基準にした“共通語”が全国的に広く普及した現状がまずあって、そのうえで日常のくだけた表現として関西弁を使ってみたり、ほかの方言を取り入れたりということも行われるようになりました。そういったことばの仕入れ先のひとつとして、大都市である関西は影響力がとても大きいので、関西弁が広がっているように見えるのではないでしょうか」(鑓水さん、以下同)
実際に関西弁から全国的に広がったことばも数多くある。近年では「めっちゃ」がその代表格といえるだろう。
「2000年ごろは東京の人がよく知っている関西弁の代表として“めっちゃ”が挙がっていました。それが2010年ごろには全国の若者に普及し、現在では“めっちゃ”が関西弁だと思わない若者も多いくらい一般的に使われることばとして定着しています」
「なんでやねん」も今や全国区に
また、漫才のツッコミでおなじみの“なんでやねん”も関西から日本中に広がりつつあることばのひとつだ。
「国立国語研究所の『国民の言語使用と言語意識に関する全国調査』のデータを見ると、“なんでやねん”が徐々に広がっていくようすがわかります。1920~1940年代生まれでは“なんでやねん”を使うのは主に近畿周辺の人でしたが、1950年~1960年代生まれでは首都圏でも使う人が急増し、1970~1980年代生まれになると全国的に使っていることがわかります。“めっちゃ”のように“なんでやねん”が関西弁と意識されずに使われる日もくるかもしれませんね」
では、なぜ関西弁が好んで使われているのだろうか。前出の大学生・山本さんは自分や周りの友人が関西弁風のことばを使う理由について、次のように考えている。
「僕にとっては、関西弁はお笑い芸人さんのことばというイメージが強く、その場のノリやおもしろさを壊さないために自分も使うようになった気がします。友達がボケたときにも“なんでだよ”とツッコむより“なんでやねん”と言うほうがトゲがなくて自然な気がするし、“本当か”と尋ねるより“ほんまか”と聞くほうがマイルドな印象があります。何か頼まれたときも“いいよ”より“ええで”と言ったほうがしっくりくる場面もあったりして、状況に応じて関西弁のコスプレをしているような感覚ですね」
さらに、前出の奥寺さんも関西弁を交えることで会話がスムーズに進むという。
「普段から漫才やコントで関西弁を浴びているので、そういったテンポのいい会話を友達とするときに関西弁はちょうどいい。顔の見えないメールやLINEで本音をやりとりするときも、キツくなりすぎないように“それはイヤやな~”なんて表現したりして柔らかさを出せるので、けっこう便利なんですよね」
関東人の“エセ関西弁”にむずむず
一方で、こういった“エセ関西弁”を聞くとムズムズするという関西人も多いようだ。大阪府出身の友永悟さん(24歳・仮名)はこう語る。
「東京の人が話す関西弁を聞くと、少しバカにされているような気がして、正直あまりいい印象はありませんでした。ただ、“なんでやねん”や“知らんけど”みたいな関西の会話スタイルごと取り入れられているような表現を聞くと、関西を身近に感じて使ってくれているなと、それはそれで悪くはないなと思いますね」
昔は「きつい」「うるさい」「怖い」といった印象を持たれがちだった関西弁も、世代によってそのイメージは変化してきているようだ。
「関西弁が好きか嫌いかを東京の人に尋ねた調査が2000年ごろにありました。当時の40代くらいまでの人は関西弁に苦手意識があった一方で、若い世代になるほどマイナスの印象を持つ人は少なくなっていて、当時の30代以下の方のあいだでは関西弁を肯定的に捉える人のほうが多いというデータでした。20年ほど前の調査ですが、この傾向はおそらく今も変わらず、若い世代ほど関西弁を受容しているのかもしれません。関西弁だけに限りませんが、テレビで方言を使う芸人さんなどの影響もあってか、昔に比べると方言を肯定的に捉える人も増えているのではないでしょうか」(鑓水さん、以下同)
その時々の気持ちをうまくのせられる表現を探す中で、関西弁をあえて使う楽しさもあるのかもしれない。
「ことばの共通語化が進む中で、いつもとちょっと違う関西弁を使って別のニュアンスを付け加えたり、会話を円滑に進めたりということは日常生活の中でも大いにありうると思います。ある意味では言語文化の豊かさといえるかもしれませんね。一方で、ただおもしろがって使うだけでなく、方言はその土地の文化や生活の中で大事に使われている日常の生きたことばだという意識や敬意も忘れないでほしいなと思います」
共通語で伝えづらい思いも関西弁ならうまく伝えられるかもしれない。知らんけど。
よく使われる関西弁
「あかん」「おかん」「おとん」「ええ」「 〜してもろて」「知らんけど」「しんどっ」「せやな」「それな」「なんでやねん 」「ほんまに」
「ほんまに(本当に)」のようなコテコテの関西弁から「~しか勝たん」といった流行語的な若者ことばまで、日常で耳にする関西弁は多い。関西の代表的な親族呼称の「おとん(お父さん)」「おかん(お母さん)」は、特に若い世代ほど使う人が多いというデータも。
取材・文/吉信 武
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