芸能から政治までどんなジャンルのニュースでもSNSによって拡散される時代。軽い気持ちで上げた投稿でも、気づけば炎上の火種になることもある。今年もさまざまなニュースが炎上し、世間を騒がせた。
そんな炎上ニュースのなかで最も燃え盛った事柄を『週刊女性』編集部が徹底調査。20代〜70代の男女1200人アンケートの結果に基づき、SNSの炎上事例に詳しい大学研究員の小木曽健氏、一般社団法人SNSエキスパート協会代表理事の後藤真理恵両氏とともに大賞を選んだ。企業、政治家、社会など、部門別に炎上ポイントや傾向などについて伺っていく。まずは、アンケートでも回答が多かった企業部門から見ていこう。
企業部門
《大賞》 「生娘シャブ漬け戦略」発言 吉野家
〈次点〉 “おとり広告”などトリプル炎上 スシロー、「マイメロ・ママ」毒舌が炎上 サンリオ
アンケートでもとにかく不快だったとの声が多かったのが吉野家ホールディングスの役員の発言に端を発した騒動。
早稲田大学の社会人向け講座において、登壇した「吉野家」の常務取締役企画本部長(当時)が講義の中で自社が行っている女性向けのマーケティングを「生娘をシャブ漬け戦略」と称したもの。
「女性をバカにしている発言にあきれました」(52歳・女性・京都府)、「普段から、女性をそういう感覚で見ているんだろうな、と思った」(54歳・女性・愛知県)と発言を嫌悪する意見が男女問わず多く上がり、不名誉な大賞受賞となった。
「こうした女性蔑視などジェンダーに関する問題は、特に炎上しやすい傾向にあります。以前からこういった表現を使っていたのかもしれませんが、閉ざされた場での少人数の集まりでも今はSNSで拡散されてしまいます」(後藤氏)
「インターネットの持つ、何でも見える化されるという特性が顕著に表れたもの。これまでだったら世間に知られずに終わったようなことも、デジタル機器の普及ですべて記録されてしまうため、発言をなかったことにできず、あっという間に拡散されてしまう。これからもこういったケースはますます増えていくのでは」(小木曽氏)
次点として挙がったのは、「好きなお店だったのでガッカリした」(42歳・女性・千葉県)という声が多かったスシローの“トリプル炎上”。キャンペーンで提供している寿司がおとり広告ではないかと指導を受けたことで6月に炎上。その後7月に生ビール半額キャンペーン広告で再び炎上。全国31店舗で誤って開始前にポスターを掲出したことが原因。さらに8月にはマグロの種別が偽装ではないかということで炎上。その結果、株価まで下落した。
「行きすぎた表現に走ってしまう事例自体は、実際は前からあったのではないかと思うのです。これもSNSの発達で不祥事を隠せなくなった例ですね」(後藤氏)
同じく次点に挙がったのは、1月に発売予定だったサンリオの人気アニメ「おねがいマイメロディ」関連グッズ。アニメに登場するマイメロディのママの「名言」を使ったバレンタイン向け商品について。
名言の中にあった「女の敵は、いつだって女なのよ」などの表現がジェンダーの固定観念を助長するという批判を受け、商品は販売中止に。小木曽氏はこのバッシングは大きな問題だと警鐘を鳴らす。
「サンリオに非はなく、単なる好みの問題でしょう。それなのに、自分が嫌いだからやめさせる、がまかり通れば、最終的に表現の自由も消失します。『好き・嫌い』と『正しい・間違い』は全く違う。このことを社会全体で理解する必要があります」(小木曽氏)
実際にアンケートでも「ママの毒舌キャラが好きだったから、騒動は残念だった」(28歳・女性・東京都)という声も。小木曽氏によるとこういった行きすぎた反応が起きる傾向は年々強くなっているそう。
政治家部門
《大賞》 「法務大臣は死刑のはんこを押したときだけニュースになる地味な役職」自民党:葉梨康弘元法務大臣
〈次点〉 「顔で選んでくれれば一番」日本維新の会:石井章参院議員、「女性も、男の人に寛大になっていただけたら」自民党:桜田義孝元五輪相
続く政治家部門は、失言で炎上した事例が独占。炎上常連からフレッシュな顔ぶれまで多様なラインナップとなった。
大賞は「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職」などと発言し猛批判され、与野党からも辞任を求める声が続出した葉梨康弘氏。まだ記憶に新しい11月上旬の発言だ。アンケートでも「人の命の大切さがわかっていないのでは」(68歳・男性・埼玉県)、「品性のない発言に愕然とした」(57歳・男性・東京都)、「こんな人に判断してほしくないと思った」(29歳・女性・神奈川県)と批判の声が相次いだ。
次点は日本維新の会の石井章参院議員の失言。アンケートでも「恥ずかしい」(56歳・女性・兵庫県)、「ふざけていると感じた」(40歳・男性・茨城県)と同性からも批判の声が上がっている。
「最近増えているジェンダーやルッキズム関連の炎上のまさに典型ともいうべき事例です。以前の価値観のまま発言してしまうと、あっという間に炎上してしまいます。ちょっと前だったら褒め言葉だった「美人〇〇」とか「美人すぎる〇〇」という表現も今はアウトと考えられています」(後藤氏)
他にも参院選の応援演説で「女性も、男の人に寛大になっていただけたら」と発言した桜田義孝元五輪相、「これから新しい事実が出てくる可能性はある」などと発言し経済再生相を辞任した山際大志郎氏などもアンケートでは名前が多く挙がった。
「IT化が進まない業界として挙げられるのが政界、警察、マスメディア、学校の4業界です。コロナ禍で学校とマスメディアはかなりデジタル化が進みましたが、政界はまだ相当な周回遅れ状態にあり、これらの炎上は、過去の成功体験からアップデートできない人がやらかしている印象を受けます」(小木曽氏)
社会部門
《大賞》 秀岳館高校サッカー部暴行動画流出
〈次点〉 山口県阿武町における給付金4630万円の誤送金、個人情報が入ったUSBを兵庫県尼崎市が紛失
「前代未聞のありえない事件だった」(60歳・男性・和歌山県)、「自分の子どもが通っていたらと考えるとぞっとする」(43歳・女性・静岡県)と、アンケートでもシリアスな批判が集まったのは秀岳館高校サッカー部の炎上騒動。
強豪サッカー部のコーチが、男子部員を殴る蹴るする動画がSNSで拡散された。いったんは部員の“顔出し謝罪動画”がアップされ、暴行を受けた部員らが暴行の常態化を否定したが、それは段原一詞監督(当時)の指示によるやらせ謝罪だった。さらに監督本人がテレビ出演し「謝罪動画は部員が自発的に撮った」などと釈明したが、虚偽証言であることが後に発覚。その後も上級生の暴行が原因で入学辞退してしまう生徒がいたなど、次々と問題が明るみに出て世間を驚かせた騒動だ。
「まさにネット時代を象徴するような事件。学校という閉鎖的な場所で行われていた暴力行為がSNSの投稿であっという間に拡散されました。さらにその後の謝罪動画、本来守るべき子どもを盾にして自分たちを守ろうとした卑劣な大人の姿も浮き彫りになりました」(小木曽氏)
次点には「送金側のチェック体制の甘さに驚いた」(53歳・男性・愛知県)と送金した銀行や役所への辛口の意見が多かった山口県阿武町の誤送金問題。また、
「個人情報をUSBで管理するのは時代遅れ」(30歳・女性・岐阜県)と旧態依然とした姿勢を問う意見が見られた尼崎市のUSB紛失事件などが選ばれた。
いずれも自治体の管理の甘さが露呈した事例。市民から預かった税金をずさんに取り扱ったというニュースは、多くの国民を失望させた。これを機に、管理体制を強化してほしいと願うばかりだ。
番外編
ちむどんどん反省会ハッシュタグ
'22年は炎上によって、想定外の盛り上がりが生まれた例もある。今年4月から9月に放送されたNHKの朝ドラ『ちむどんどん』の脚本にツッコミを入れる投稿だ。
「ハッシュタグが盛り上がっていたので、つい毎回見てしまった」(74歳・女性・三重県)、「あそこヘンだよね〜!と友達と一緒に盛り上がれた」(36歳・女性・福島県)。ドラマとSNSをセットで楽しんだという声が多かった。
「昨今、テレビとネットの同時視聴を楽しんだり番組の感想を投稿し合って盛り上がることを楽しみにしている人が増えてきています。ドラマについて視聴者がSNSで盛り上がった『ちむどんどん』は、本当に今の時代を象徴するような作品ではないかと思います」(後藤氏)
『ちむどんどん』の公式アカウントのコメント欄はほのぼのとしているし、ドラマのファンだった人も多かったのでは、と後藤氏。ツッコみながらSNSで盛り上がることによってネットメディアが取り上げ、話題性を生み視聴率が上がるので、メリットになることもある。
小木曽氏も後藤氏も今後ますますデジタルデータによって隠し事ができない社会になっていくと声をそろえる。
「PCやスマホがどんどん高性能化されていますから、やがて見たものすべてが記録される時代がやってくると思っています。隠したいものこそどこかで記録されそれがネットで暴露される時代だと思って行動したほうがいい」(小木曽氏)
「匿名だから大丈夫というのは大間違い。処罰も厳罰化していますから、受け取る相手の立場になってみる想像力を働かせてほしい」(後藤氏)
絶対バレない、というものは今やないと思っていいのだろう。火種の大小にかかわらず炎上はするということを肝に銘じたい。
【アンケートで回答が多かった炎上ニュースTOP15】
吉野家「生娘シャブ漬け戦略」発言
スシロー “おとり広告”など相次ぐ炎上
「就活の教科書」が「底辺職業ランキング」を発表
ディズニーの「リトルマーメイド」アリエル役について
石井章氏「顔で選んでくれれば一番」
桜田義孝氏「女性も、男の人に寛大になっていただけたら」
山際大志郎氏「これから新しい事実が出てくる可能性はある」
葉梨康弘氏「法務大臣は死刑のはんこを押したときだけ」
巨人・坂本勇人 中絶騒動にだんまり
椎名林檎のアルバム特典にヘルプマーク酷似で物議
秀岳館サッカー部の男性コーチ暴力問題
サンリオ「マイメロ・ママ」の毒舌が炎上
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山口県阿武町における給付金4630万円の誤送金
個人情報が入ったUSBを兵庫県尼崎市が紛失
(20代から70代の男女1200人を対象にインターネットアンケートFreeasyにて11月21日に調査)
小木曽健(おぎそ・けん)●国際大学GLOCOM客員研究員。青山学院大学経済学部卒。IT企業現職。著書に『今日から使える企業のSNS危機管理マニュアル』(晶文社)、『13歳からのネットのルール』(メイツユニバーサルコンテンツ)、『ネットで勝つ情報リテラシー』(ちくま新書)など。
後藤真理恵(ごとう・まりえ)●一般社団法人SNSエキスパート協会代表理事。東京大学文学部卒。「SNSエキスパート検定」の実施や、企業・自治体での講演等を通じ、SNSを効果的・安全に活用できる人材の育成に努める。著書に『SNSマーケティングはじめの一歩』(技術評論社)など。
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