10月クールの秋ドラマは早くも後半戦に突入。今期はいつにも増して話題作が多く、ドラマ好きにはたまらない実りの秋となった。世の女性たちはどの作品に胸を躍らせ、どの作品に失望したのか、全国の20~60代女性にアンケート。秋のハマった&がっかりドラマ中間選挙、はたして結果は……?
絶賛の声多数の“泣ける”ドラマが堂々1位
栄えある1位に輝いたのはとにかく泣けると話題の『silent』(フジテレビ系)。
「毎回、幸せと胸をつかまれるような切ない気持ちになる」(兵庫県、41歳)
「出演者全員に物語があり、泣ける」(東京都、46歳)
と絶賛の声多数。メールで突然別れを告げられた高校時代の恋人と8年後に再会したヒロインは、そのとき初めて彼の耳が聞こえなくなっていることを知り……。
障害がある人たちをテーマの1つにした恋愛ドラマはこれまでにも多々あった。しかし、オーソドックスともいえる設定の本作がこれほどまでに視聴者の心をつかんだのは、近年の恋愛ドラマに対するある種の“飽き”があったのではとドラマウォッチャーであり漫画家のカトリーヌあやこさんは分析する。
「最近の恋愛ドラマってキュンのテンプレ化が著しく、キュン要素で回していく作品が続いていたんですけど、『silent』はそれに対する強烈なカウンターなんです。壁ドンや顎クイなどのキュン要素でエピソードが作られるのではなく、きちんと言葉で物語が紡がれていく。
原点回帰のなか、新しいなと思うのはメインカップルに対してライバル的なポジションの人たちの心情もものすごく丁寧に描かれていて、全キャラが切ないという点。過去と現在を行き来する構成もキャラに厚みを持たせています」
演出面でも光る部分があるとカトリーヌさん。
「Snow Manの目黒蓮さん演じる想は耳が聞こえないため、音に対しての演出も丁寧で、普段意識しない生活音がちゃんと聞こえる。静謐な世界観のなか、Official髭男dismの主題歌がかかるともう涙腺崩壊という、この感覚も懐かしい(笑)。
脚本の生方美久さんはこれが初の連ドラであり、テレビ局が新しい才能を発掘している点も、野島伸司さんなど次世代の脚本家を起用していった'90年代のトレンディードラマブーム初期を思い起こさせます」
新しい風を感じさせる作品が生まれるなか、2位に『相棒』(テレビ朝日系)、5位に『孤独のグルメ』(テレビ東京系)、7位に『科捜研の女』(テレビ朝日系)がランクインするなど老舗も強さを発揮した。
『相棒』では初代相棒だった寺脇康文演じる亀山薫の復活を歓迎する声が多く、『孤独のグルメ』に関しては
「コロナ禍を乗り越え、日常が戻ったことへの安堵感を五郎さん(松重豊)と一緒に噛みしめています」(東京都、56歳)
という意見も。やはり、安定した面白さが保証されているドラマは強い。
予期せぬ騒動によりドラマに影響が!?
3位はKing & Prince脱退騒動で話題の平野紫耀主演『クロサギ』(TBS系)がランクイン。実はこの作品、がっかりドラマのほうにも入っており、賛否が分かれてしまっている。
「山下智久さん主演の前作が好きなのでどうしても見比べてしまう」(兵庫県、54歳)
という視聴者も多いのだろう。
「やはり皆さん、山P主演の前作への思い入れが強いのかなとは思いますが、暗号資産やアプリ関連など詐欺の内容がアップデートされ、ちゃんと今の時代の『クロサギ』になっているんですよね。
平野さんは本人のキャラクターもあって、明るい青年のイメージが強いですが、こういう陰のある役もすごく似合う。黒崎の生き急ぐ感じと今の彼の状況が重なって、なんだか切なくなってしまうんです。
それがキャラにハマっていると感じるのか、見ていてつらいとなるのかで賛否が分かれるのかも」(カトリーヌさん)
予期せぬ騒動に見舞われたのは4位の『アトムの童』(TBS系)も同様だが、本作はそれが良いほうに転がった。
「香川照之さんの不祥事でオダギリジョーさんにキャスト変更になりましたが、それがすごくハマった。主演が山崎賢人さんで相棒に松下洸平さんというフレッシュ感のある組み合わせでのゲーム作りという今日的なパッケージですが、内容的には“ザ・日曜劇場”という勧善懲悪のベタな世界観の作品です。
そこに悪役で香川さんが出てきたら、かなり胸やけしたと思うんです(笑)。オダギリさんのスタイリッシュさはまさに若きIT企業のリーダーという感じだし、日曜劇場にも新しい風が吹いたんじゃないでしょうか」(カトリーヌさん)
そして6位は、これまた話題作の『エルピス─希望、あるいは災い─』(フジテレビ系)。冤罪事件というテレビ局ではタブー視されている問題をスキャンダルで落ち目となった元人気女子アナが追うという骨太なテーマに果敢に挑んだ社会派サスペンスだ。
「映像や演出が映画のようで脚本もいい」(兵庫県、53歳)
「長澤まさみの演技力がすごいし、物語に引き込まれる」(埼玉県、55歳)
とストーリー、役者、演出すべてに高い評価を得た。
「素晴らしいですよね。テレビ局を舞台に自己批評的な目線もありますし、コンプライアンス重視の今、ものすごく攻めた内容には好感しかないです。
あと長澤まさみさんと鈴木亮平さんの関係性がとにかくエロい。恵那(長澤)の部屋に上がり込んだ斎藤(鈴木)が急に顔を近づけてきて『なんでベッド買ったの?』というセリフは今年のパワーワード大賞に選びたい(笑)。
彼を怪しみつつも抗えない……大人の女のリアルな恋愛描写はたまらないです。長澤さんのバディ役の眞栄田郷敦さんも空気の読めない若者をすごい目力で好演していて、この作品で一皮むけたなと思います」(カトリーヌさん)
実りのある秋ドラマが目白押し
8位の『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)は中井貴一と岡田将生が毛色の変わった看護師を演じる医療ドラマ。
「凄腕の男性看護師2人の性格の違いが面白い」(神奈川県、57歳)
「中井貴一さんの謎の男キャラがとても気になる」(神奈川県、31歳)
とキャラクター人気も高いが好評の最大の理由は……。
「脚本が中園ミホさんでテレ朝といえば……そう、このドラマは『ドクターX』のフォーマットで作られたナースもの。というわけで新作ではあるけど、シリーズもののような安定感がある(笑)。
しっかりしたフォーマットのうえに、男性看護師のバディものという新機軸を据え、見やすさと新鮮さを両立させています」(カトリーヌさん)
9位の『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)は寂れた漁港を改革したシングルマザーの悪戦苦闘の物語。実話を基にしたドラマだということに驚きの声も多かった。
「実話だとは思えない痛快なサクセスストーリーで、この女性はすごいと毎週思ってしまう」(神奈川県、37歳)
「頑固なおじさんVSできる女たちという構図で、ヒロインの奈緒さんを筆頭に松本若菜さんや志田未来さん演じる強い女性たちに挟まれ、いい年のおじさんたちがオロオロする。悪しき慣習に満ちた組織に切り込んでいくという意味では『エルピス』と通じるものがありますが、こっちはコメディー要素が強いのでとても見やすいですよね。
ヒロインと漁師役の堤真一さんとの関係性もいい感じですけど、何より奈緒さんの感情豊かな演技が素晴らしい。日テレさん、よくぞ抜擢してくれました」(カトリーヌさん)
10位には『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)が滑り込み、人気枠月9の面目を何とか保った。北海道における緊急小児医療をテーマに、小児科医役の吉沢亮がみずみずしい演技を見せている。
「北海道の雄大な自然と地域医療のシビアな現実との対比がいい。主人公の一生懸命な姿はつい応援しちゃいます」(長野県、45歳)
「どのクールにも必ずあるといっていいくらい医療ものは人気ジャンル。それ故、切り口が重要で、この作品は子どもの救急医療で北海道を舞台にしたところが面白い。ドクターヘリでも運べないほど北海道は広いというのを改めて知って、驚きました。
上野樹里さん主演『監察医 朝顔』のチームが制作しているので、何げない日常もきちんと描かれた丁寧な作りのドラマで、今期のフジテレビはやるなと。フジの復権はドラマ好きにとってはうれしいニュースです」(カトリーヌさん)
【女性1000人が選んだ! ハマった秋ドラマTOP10】
〈1位〉silent……129票
フジテレビ系 木曜夜10時 出演/川口春奈 目黒蓮 鈴鹿央士
〈2位〉相棒season21……103票
テレビ朝日系 水曜夜9時 出演/水谷豊 寺脇康文 森口瑤子
〈3位〉クロサギ……84票
TBS系 金曜夜10時 出演/平野紫耀 黒島結菜 井之脇海
〈4位〉アトムの童……54票
TBS系 日曜夜9時 出演/山崎賢人 松下洸平 岸井ゆきの
〈5位〉孤独のグルメSeason10……48票
テレビ東京系 金曜深夜0時12分 出演/松重豊
〈6位〉エルピス ―希望、あるいは災い― ……42票
フジテレビ系 月曜夜10時 出演/長澤まさみ 眞栄田郷敦 鈴木亮平
〈7位〉科捜研の女 2022……33票
テレビ朝日系 火曜夜9時 出演/沢口靖子 内藤剛志 小池徹平
〈8位〉ザ・トラベルナース……31票
テレビ朝日系 木曜夜9時 出演/岡田将生 中井貴一 菜々緒
〈9位〉ファーストペンギン!……30票
日本テレビ系 水曜夜10時 出演/奈緒 鈴木伸之 堤真一
〈10位〉PICU 小児集中治療室……28票
フジテレビ系 月曜夜9時 出演/吉沢亮 安田顕 木村文乃
思わずガッカリな秋ドラマ3選
さて、期待していたのにがっかりという意見の多かったドラマのほうを見てみると、『君の花になる』(TBS系)、『クロサギ』(TBS系)、『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジテレビ系)などの作品に票が集まった。
「『silent』が否定した恋愛ドラマのフォーマットで作られているのが『君花』で、がっかりの理由はそれに尽きると思います。ツンデレのイケてる男子と同居して、ラッキースケベで萌え……みたいなものには、もう視聴者は飽きてしまった。
ヒロインの本田翼さんの演技について言及されることも多いですが、少し前に放送されていた『オリバーな犬』(NHK総合)ではそんな声は聞こえなかった。演技というよりも役柄の問題で、テンプレ的なヒロイン像が鼻につくのでしょう」(カトリーヌさん、以下同)
今はガッカリでも「期待感の高い」作品
一方で、がっかりの意見が多かったものの、この先まだ期待感の高い作品が。
「『親愛なる』が否定された理由も明らかで、序盤の残酷描写がひどすぎて、そこで脱落した視聴者が多かった。でも中盤以降このドラマ、すごく面白くなっています。
Hey! Say! JUMPの山田涼介さん扮する主人公の二重人格の逆転や門脇麦さん演じる恋人の裏の顔、佐野史郎さんの冬彦さんばりの怪演など見どころ満載の極上のサスペンスになっているんです」
【女性1000人が選んだ! がっかり秋ドラマ】
■君の花になる
TBS系 火曜夜10時 出演/本田翼 高橋文哉 宮世琉弥
■クロサギ
TBS系 金曜夜10時 出演/平野紫耀 黒島結菜 井之脇海
■親愛なる僕へ殺意をこめて
フジテレビ系 水曜夜10時 出演/山田涼介 川栄李奈 門脇麦
秋クール全体を通して見ると、『silent』を筆頭に原作のないオリジナルドラマの良作が目立ち、ドラマ業界全体にも新たな流れが垣間見えた有意義なクールだったとカトリーヌさんは語る。
「原点回帰と新機軸の両方があって、収穫はとても多かった。特に恋愛ドラマは『silent』のヒットでガラッと流れが変わりそう。
『エルピス』みたいに社会的なテーマに深く切り込んでいく作品があってもいいし、『霊媒探偵・城塚翡翠』(日本テレビ系)みたいにバディ役の瀬戸康史さんが真犯人というどんでん返しが中盤にあって、そこからキャラも作風もタイトルも変わるというドラマの新たな形を探ってて面白い。
'90年代のドラマブームから30年を経て、ようやく新しい芽が出てきた……そんな希望を感じました」
お話を伺ったのは……
漫画家、ドラマウォッチャー。『週刊ザテレビジョン』にてイラストコラム「すちゃらかTV!」、『週刊朝日』にて「てれてれテレビ」を連載
取材・文/蒔田陽平