かもめんたる・岩崎う大が注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人はロングコートダディ。
踏み荒らされていない土地を探す、さすらいの芸人
ロングコートダディ、なんでしょう、このコンビ名。カッコいいような、そうでもないような、怪しげな雰囲気がありそうで、ポップな雰囲気もある、この人を食ったようなコンビ名の印象どおり、『お笑い』をまるで研究材料のようにイジくったり、時にオモチャのように転がして観客を笑わせる2人組。略してロコディ。
第一印象は、シュールな大阪のコンビ。お笑いをやっているとたまに「面白すぎるネタしかできないコンビ」という存在に出会いますが、彼らがまさにそうでした。こっちのキャパを超えてきますから、やはりその印象はシュールになりがちです。やりたいお笑いがコンビという2人の人間の身体には収まり切らず、ガスのように噴出し、霧のように2人の存在をベールに包んでいるような印象すら受けます。
面白すぎて2人の実体がつかめない。実際2人には漫才師とコント師という2つの顔があります。そして、M-1グランプリでもキングオブコントでもファイナリストに残った経験がある稀有(けう)な存在なのです。
『しくじり先生』という番組でやっている「キングオブう大」という僕が1人で審査員をするキングオブコントのパロディー企画があるのですが、ロングコートダディはその大会の二代目キングでもあります。
彼らがそこで披露したネタは、万引きをした主婦をバックヤードでスーパーの店長が注意するネタなんですが、なぜか店長が主婦の「スリルが欲しくて……」という犯行理由に納得しない。噛み合わない会話を紐(ひも)解いていくと店長が「スリル」という言葉を単純に知らないという突き抜けたコントでした。
これは、ネタの発想としてもオリジナリティーがありますが、それよりも、これを一本のネタに仕立て上げるというのはなかなかの荒技で、リアリティーの担保などが恐ろしく難しいネタです。
「スリル」って言葉を知らない大人がいるわけないでしょ?という状況を徐々に外堀から埋めて、観客に説得させながら同時に笑いを起こす……難易度MAXです。この時に確信したのですが、やはり彼らはパイオニアスピリットにあふれた芸人ですね。お笑いというフィールドの中で踏み荒らされていない土地を探す、さすらいの芸人とでもいいましょうか。
彼らの披露するネタは、漫才にしろコントにしろ常に同業者である芸人が惚(ほ)れ惚(ぼ)れするような手つかずのアイデアにあふれています。「手つかずのアイデア」ってまるで下手な翻訳アプリで翻訳したような表現ですが、そんな表現がぴったりです。
そんなアイデアを表現していくために、2人はボケとツッコミの役割がネタによって変わっています。彼らがお笑いにおける発想やアイデアを大事にしている証拠でしょう。常に発想ありきで、そのネタに自分たちの身体を貸すような感覚なのではないでしょうか。
堂前くんも兎(うさぎ)くんも地味なようで実は味わい深く、華もある2人。
ルックスは全然違うけど、なんか同じ文化の中では育ってそうな、クールな眼差(まなざ)しが似た2人。親友同士も演じられれば赤の他人も演じられる、漫才にしても同じ意見を持った2人、対立した2人どちらもハマる。この2人なら世の中の大半を表現することができる。
あふれる発想を恐れず体現していくロングコートダディはこれからもお笑いの世界にいろんな旗を立てていくことでしょう。今は面白の霧に包まれた2人の真の姿が全国的に日の目にさらされるのも案外近い未来かもしれません。