秋から冬への季節の変わり目になると、気温がぐっと下がるだけでなく、空気も乾燥し、体調を崩しがちだ。そんなとき、つい不安になって薬をのんだり、病院に行って検査をしてもらったりすることも少なくない。
しかし、本当にその薬や検査は安全で、意味のあるものなのだろうか。その薬によってむしろ体調をおかしくしてしまったり、検査によって無用な不安を増やしてしまったりといったことが実際に起きているという。
「何となくで薬や検査を決めてはダメ!」
今年から団塊の世代が続々と75歳以上の後期高齢者になりはじめるが、後期高齢者になると医療や介護の費用が急増するともいわれている。医療費の削減が求められるいまだからこそ、患者やその家族自らが考えて判断することは、とても大切だ。
ここでは、医療現場の最前線に立って情報発信を続けているクリニック院長3人に、薬や検査、手術の知っておきたい真実を語ってもらった。
家族にのませたくない薬【せき止め薬】
「強い依存性でやめられなくなる」
冬が近づくこの時季、夜になるとせきが出て眠れなかったり、喉がいがらっぽくて外でせき込んでしまったりして、お守り代わりに市販のせき止め薬に手を伸ばす人も少なくないだろう。
しかし、谷口恭先生は、せき止め薬の安易な使用に危機感をいだく。「せき止め薬に日常的に頼ることで、深刻な依存症に陥ってしまい、生活が破綻するケースがあります。実際、当院でもそのような患者をみています」
誰でも買える市販のせき止めがそれほどの依存症を引き起こすとは、どういうことなのだろうか。
「昔からよく知られている『コデイン』や『ブロン』をはじめ、多くのせき止め薬には、麻薬成分や覚醒剤の原料となる成分が含まれているのです。これらの成分には当然、強い依存性があり、厚生労働省が『危険な成分』に指定しているほどです。
しかし、これらの事実を知らず、長期間ドラッグストアでせき止めを買い続け、『なぜか、せき止め薬がやめられない』と訴える患者さんが後を絶ちません」(谷口先生、以下同)
それでは、せきを止めたいときにはどう対処するのがよいのだろうか。
「せき止めよりもはちみつのほうがよっぽどおすすめですね。『飲み始めて3日までであればせきにある程度有効』という研究結果もあります。
そのため、せきで困っている患者さんには、まずはちみつを少量ゆっくり飲み込むことをおすすめしています。初診だと少しムッとする方もいますが(苦笑)」
厚労省が指定する6つの危険な成分
□ エフェドリン
□ メチルエフェドリン
□ プソイドエフェドリン
□ コデイン
□ ジヒドロコデイン
□ ブロムワレリル尿素
家族にのませたくない薬【アレルギー性鼻炎薬】
「知らない間に鼻炎薬の依存症に」
ホコリや花粉で鼻水やくしゃみに悩まされるアレルギー性鼻炎。このアレルギー性鼻炎に効く薬の多くには、せき止めと同様のリスクがあると谷口先生は次のように言う。
「例えば、アレルギー性鼻炎で処方されることが多い『ディレグラ』という薬には、極めて依存性の高い危険な成分『プソイドエフェドリン』が含まれています。当院を受診した患者さんにも、どうしてもディレグラを処方してほしいと言って聞かない人がいました。知らない間に依存症になってしまっているのです」
ディレグラは市販薬ではなく、医師の処方する薬のはずだが、どうしてこのようなことが起きてしまうのだろう。
「長期間ディレグラを服用している患者さんのほとんどは、医師から危険性を知らされておらず、医師も漠然と処方し続けていることが多いです。この依存症の治療は極めて困難。医師は薬に含まれる成分の危険性をしっかり認識すべきです」(谷口先生)
家族にのませたくない薬【胃痛や胸やけの薬】
「胃酸が減りすぎて消化しづらくなる」
多忙な年末にかけて、胃痛や胸やけなどに悩まされる人も少なくないだろう。これらの症状に使われるのは、おもに「制酸剤」と呼ばれる胃酸の過剰な分泌を抑える胃薬だ。胃痛や胸やけに制酸剤を処方しがちな現状について、寺田武史先生に話を聞いた。
「胃痛や胸やけは、さまざまな原因で起こります。胃酸の分泌が多いだけでなく、ストレスやピロリ菌、胃の粘膜の荒れなど、原因を慎重に見極めて対応すべきです」
では、原因がよくわからない場合、念のため制酸剤をのんでおくのは問題ないのだろうか。
「消化器内科で胃カメラを年間何百例もやっていますが、胃酸の分泌が多い日本人はほとんどいないように感じます。なのに制酸剤を使って胃酸の分泌を減らせば、ただでさえ悪い消化吸収の能力がさらに下がってしまいます。
消化不良を起こすと、胃の痛みやもたれ、吐き気などだけでなく、栄養の吸収もしづらくなります。栄養をとることこそ病気を防ぐ第一歩なので、これでは本末転倒です」(寺田先生)
とりあえずという気持ちで制酸剤をのむのは避け、まずは原因を探るのがよさそうだ。
家族にのませたくない薬【高血圧の薬】
「血圧を下げすぎると別のリスクも」
70歳以上の女性の2人に1人がのんでいる身近な高血圧の薬である降圧剤。しかし、降圧剤を使って血圧を下げすぎてしまうと別のリスクが生まれる、と寺田先生は言う。
「年齢や持病などによっては血圧を極力下げる指導をされることもありますが、降圧剤で血圧を下げすぎてしまうと、身体全体に血液を送るポンプである心臓に負担がかかります。心肥大につながったり、脳の血液の循環が悪くなり、逆に脳梗塞や認知症のリスクが上がったりすると考えられます」
では、血圧が気になりはじめたら、どのように対処するのがよいのだろうか。
「私は、安静時の血圧は上が130〜140mmHg、下が80〜90mmHg程度がベストと考えています。それよりも血圧が少し高めで血圧のほかに問題がない患者さんには、『にがり』をとることをおすすめしています。
にがりに含まれるマグネシウムは、血管を縮めたり、動脈硬化を引き起こしたりするカルシウムの働きを抑え、血管を広げてくれます。にがりは天然の降圧剤ということができるのです」(寺田先生)
「にがり」の健康効果 ※とりすぎには十分注意しましょう。
・高血圧の予防
・狭心症や心筋梗塞の予防
・生活習慣病の予防
・便秘の改善など
家族には受けさせたくない検査・手術【がんの遺伝子検査】
「検査をしてもただ不安が増すだけ」
うちの家系は胃がんが多いなどと聞くと、自分もなるのではと不安になり、がんのリスクがわかる遺伝子検査を受けたくなる人もいるかもしれない。しかし、遺伝子検査はあまり意味がないと、秋津壽男先生は話す。
「遺伝性のがんにかかるリスクが遺伝子検査で正確にわかるかというと、そうではありません。現時点ではデータ数が少なく、確率の予測精度が低すぎるのです。
『膵臓がんになる確率は40%』という検査結果が出ても、数値の裏付けが弱く、不安を募らせるだけです」
ちなみに、がんの種類によって検査の精度に違いはあるのだろうか。
「乳がんの発症に関わるBRCA1とBRCA2という遺伝子の変異を調べる検査は、精度の高い大切な検査でおすすめできます。
しかしこれも、ネットでできる通販型の簡易検査となるとおすすめできません。あと5年待って、サンプル数が増えて精度が上がれば、また違ってくるかもしれませんが」(秋津先生)
家族には受けさせたくない検査・手術【血管年齢検査】
「検査の精度が低く当てにならない」
血液サラサラ、血管年齢が低いといったフレーズは、芸能人の健康チェック番組でもおなじみだ。そんな番組を見ていると、自分の血管や血流の状態がつい気になってくるが、血管や血流の状態を手軽にチェックできる毛細血管検査は当てにならないと秋津先生は言う。
「この検査の結果がたとえよくても、血管美人とはいえませんね」
検査では、極めて明るい光を指などに押し当てることで、皮膚の内側の毛細血管の様子を観察する。採血不要なのが人気のポイントだが、デメリットがある。
「検査機器の押し付け具合で、結果が変わってしまうことがあります。まだまだ精度の低い検査です」(秋津先生)
家族には受けさせたくない検査・手術【美容外科手術】
「20代の美容外科医には要注意」
近年、美容整形に関するCMやニュースなどを見る機会が増えてきている。
「昨今、在宅勤務だったり、マスクで施術部分が隠せたりするため、美容整形手術を受けやすくなったと感じる人もいるようですが、手術は慎重に検討したほうがいいでしょう」と語るのは、谷口先生だ。
整形を公にする芸能人が増えたり、目元のプチ整形などお手軽な手術が生まれたりと、整形自体のハードルは下がりつつある。ただ、手術してもらう医師はしっかり選んだほうが身のためだという。
「実は、形成外科専門医の資格を持っていない美容外科医もいます。専門医資格がなくても手術すること自体は問題ありませんが、腕がちょっと心配です。というのも、若い医師に整形手術されて失敗した、といった話は珍しくないのです。
形成外科専門医資格の取得は、最速でも30歳。なので、少なくとも20代の美容外科医には関わらないほうがいいと個人的には思います」(谷口先生)
谷口 恭先生●太融寺町谷口医院院長。文系大学卒業後、社会人を経て医学部入学。どんな人のどんな症状も診察する総合診療にこだわりながら、ウェブなどで多数情報を発信している。
寺田武史先生●アクアメディカルクリニック院長。精力的に情報を発信し、新著『なぜ、人は病気になるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)は、Amazonでベストセラーに。
秋津壽男先生●秋津医院院長。テレビ東京系『主治医が見つかる診療所』では、「何でも解決スーパー町医者」として初回からレギュラー出演。出版物や講演、テレビ出演など多数。
(取材・文/高宮宏之)