“伊代はまだ……”と歌ったのは41年前のこと。現在、“少女”は57歳になっている。
「松本伊代さんがTBS系のバラエティ番組『オオカミ少年』に出演。クイズコーナーで不正解となったため“落とし穴”に落とされ、腰椎を圧迫骨折する重症を負いました。しばらく立つこともできない状態で、現在は入院中とのことです」(スポーツ紙記者)
「元どおりにならない」
松本は“深さ2.7メートル”の穴に落下したという。穴にはクッションのため、ウレタンを敷き詰めていたというが……。
TBSは《怪我をされたことに対し、松本伊代さんをはじめ関係者の皆さまにお詫び申し上げます》と謝罪。また、事故の経緯について以下のように説明している。
《この企画は過去に2回行っており、今回も事前にシミュレーションを繰り返し行い、着地する場所にはウレタンを大量に敷き詰め衝撃を吸収するなど安全対策に努めておりましたが、このような結果となり、大変申し訳なく思っております。今後、同様のことが起こらないよう、番組制作に際しての安全管理をさらに徹底してまいります》
「くり返し行ったというシミュレーションですが、“実験台”はおそらくAD。そうなると20代、年齢がいっていたとしても30代でしょう。そのような若者と57歳の女性を同じように考えるべきではないですよね……」(芸能プロ関係者)
腰椎圧迫骨折とはどのような骨折か。TBSによると全治は3か月と発表されている。
「元どおりにはなりませんよ」
腰椎圧迫骨折についてそう話すのは、医学博士の岡田正彦氏。中高年の女性を数多く診察し、圧迫骨折の症例を多数診てきた。
「腰の骨(腰椎)というのは、横からみると丸い缶詰のような形の部位と突起で形成されています。それが積み木のように5個連なっている。そしてバラバラにならないようにお互いが靭帯で結ばれています。腰椎と腰椎の間には椎間板というクッションがあります。これによって人間は柔軟に身体を回転させたり曲げたりできるわけです」(岡田氏、以下同)
圧迫骨折とは、ポキっと折れる普通の骨折とは違う。
「人間の身体は、いちばん上に重い頭があり首の骨、胸部分の骨である胸椎、そして腰椎で支えられています。たとえば骨の弱い人が転んで尻もちをつくと、重力で上下から圧迫されて骨が潰れてしまう。これが圧迫骨折となります。
潰れやすいのは腰椎の缶詰のような部分。ここを“椎体(ついたい)”といいますが、このお腹側が潰れやすい。靭帯や神経は背中側を走っていますが、重症な圧迫骨折ですとそこまで影響を及ぼします。神経まで圧迫されると、手足が動かなくなったり、激しい痛みが出て、手術する必要が出てきます」
治らない腰骨はどうなるのか
缶詰のような部分の椎体は横から見ると長方形となっている。圧迫骨折でお腹側が潰れた状態は、長方形の片側が潰れ、三角形のようになってしまった状態だ。
圧迫骨折の“原因”は。
「もちろん若い人でも何らかの衝撃を与えられたら圧迫骨折に至る可能性はありますが、“圧迫骨折に至りやすい”要因として、いちばん考えられるのは骨粗鬆症です。圧迫骨折となった人のレントゲン写真を見るとよくわかるのですが、骨のカルシウムが抜けてスカスカの状態となっていることが多い。骨粗鬆症が進んでしまっている人は、椅子にドスンと腰をかけただけで骨が潰れたりします」
圧迫骨折は“治らない”とはどういうことか。
「潰れてしまった骨は基本的には元に戻りません。元の缶詰のような形になることはないということです。手足などの骨折はギブスを巻いて時間が経てば自然につながって元に戻りますが、腰の骨は潰れたら元には戻りません」
治らない腰骨はどうなるのか。
「潰れた骨は戻らないので“完治”はしません。ただ、元には戻りませんが、潰れた骨はしばらく経つと、潰れたままそれなりに固まってきます。大切なのは最初の1〜2週間の安静。この間に無理をすると接着しようとしている骨が、またボロボロになってしまいます。そのため2週間くらいは安静が重要。その後、潰れてしまった骨がさらにズレないように腰の周りを固いコルセットでしっかりと固定してリハビリとなります。それがだいたい2~3か月程度かかります」
圧迫骨折を予防する方法
発表のとおり、“一般的に”3か月かかるのは間違いではない。しかし……。
「腰椎を横からみたときに、缶詰部分がぺしゃんこに潰れてしまったようなケースは、神経を圧迫し、麻痺が起こることもあります。そこまでの状態になるかどうかは怪我の要因、年齢、骨粗鬆症の進行具合などで変わります」
年齢以外に圧迫骨折に至りやすい人はいるのか。
「人間の身体は骨や関節だけで支えられているのではなく、骨がバラバラにならないようにじん帯が間を繋ぐように存在し、その回りを筋肉が守っています。そのため筋肉が弱い人も骨折を起こしやすいといえます」
松本は、昨年にも自宅でストレッチをした際、圧迫骨折している。このとき骨折したのは胸椎(腰椎の上に並んでいる胸部の骨)だった。
「特に女性の場合は、閉経後・更年期以降女性ホルモンが減ることで骨粗鬆症が進行しやすい。そのため骨折が非常に起こりやすくなります」
避けようのない事故はしょうがないとしても、圧迫骨折を“予防”するには?
「普段、慣れていない動きを急にしないことです。年を重ねても日ごろからテニスをやっているという人が、テニスで怪我をするといったことはあまりないと思います。しかし、慣れていない動きや、突然どこかから飛び降りたりすれば事情が違ってきます。
“落とし穴に落ちる”ということは、慣れていない動きの極端な例といえるでしょう。タレントさんでも高いところから飛び降りる、落とされるなんてことは、日頃は行わない動作です。身体を鍛え筋肉で身体を守れている若い人でもないと許される動きではないでしょう」
圧迫骨折に限らないが、タレントが番組収録で骨折してしまうというケースはあまりに多い。松本のほかに、ゆうちゃみ『サバイバル水鉄砲!一撃』(日本テレビ系)、ロッチの中岡創一『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、ジェラードンのアタック西本『アメトーーク!』(テレビ朝日系)、武田真治『新しいカギ』(フジテレビ)と、今年に入って明らかにされているだけで5件。
もちろん各番組がスタッフらによる“安全確認”を行っているだろうが、多すぎる数字といえよう。制作側は、事故を事故で終わらせてはいけないのではないだろうか。