尾上菊之助

「コロナ禍で大変な日本、そしてエンターテインメントの世界に少しでも元気を届けられればなと思っています」

 11月29日に行われた『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX(以下、FFX)』製作発表会見の冒頭で、この舞台の企画・演出・主演を務める尾上菊之助はこのように意気込んだ。

「彼は音羽屋の名跡を継ぎ、歌舞伎界の将来を背負うひとり。これまでも伝統芸能の継承に励んでいましたし、彼が創作歌舞伎に取り組む際はシェイクスピア劇など格式の高い題材や、ジブリ作品の『風の谷のナウシカ』など国民的知名度のある作品を選んでいました。そんな彼がゲーム『FFX』を歌舞伎化するとは驚かされました」(松竹関係者)

『FFX』は2001年に発売され、世界累計出荷・ダウンロード本数が約2110万本を記録した大ヒットゲーム。

「主人公のティーダが召喚士のユウナや仲間とともに冒険の旅に出る物語です。感動を呼ぶストーリーは世界的にも高く評価されています」(ゲームクリエイター)

 舞台の公演時間は前・後編合わせて8時間、ステージが客席全体を取り囲み、客席自体も360度回転する舞台で行われるが、歌舞伎評論家の中村達史氏はキャスティングにも注目している。

「記者会見を見る限り、どの配役も雰囲気や芸風が合いそうです。音羽屋と縁が遠い中村獅童さんや上村吉太朗さんらにも直々にオファーをしていることから、いかに菊之助さんが“いい舞台を作ろう”と考えているかがうかがえます」

菊之助がFF歌舞伎に込めたメッセージ

 期待が高まる舞台だが、この企画には菊之助の秘めた思いがあるようだ。

「菊之助さんは芸への姿勢も真摯で人格も申し分ないのですが、“優等生すぎて役者としての魅力に欠ける”という声もありまして……。実際、菊之助さんって集客力がいまひとつなんです。破天荒だけど集客力は抜群の市川團十郎さんとは真逆ですね。このFF歌舞伎には“自分はゲームを題材にするほどの柔軟性を持ち、集客力も見込める役者なんだ”という、菊之助さんのメッセージも込められているんです」(音羽屋に近しい人)

 彼がそんなアピールをできる機会はこの先どんどん少なくなるようだ。

菊之助さんはあと2〜3年以内に音羽屋のトップである菊五郎を襲名するといわれています。格式のある名跡を継ぐと、若者向けの創作歌舞伎などを企画することが難しい立場になりますからね」(同・音羽屋に近しい人)

 壮大な冒険譚である『FFX』を演じきれば、菊之助も一皮むけるかも!?

『FFX』ヒロイン・ユウナを演じるのは若手女形の中村米吉

 

ヒロインのユウナ役は若手女形である中村米吉が演じる(右から2人目)
2019年11月、一夜限りの『スターウォーズ歌舞伎』に出演した市川海老蔵

 

2019年11月、一夜限りの『スター・ウォーズ歌舞伎』に出演した市川海老蔵と息子の勸玄