《バスに乗れなくて泣いた日》
元バレーボール選手で、日本代表では“パワフルカナ”の愛称で親しまれた大山加奈(38)が11月、このようなタイトルでブログを更新した。大山は現在、双子の母。双子用ベビーカーでバスに乗ろうとすると、1台目のバスは、ドアを開けてもらえず走り去られた。続いて来た2台目のバスは他の乗客が手伝ってくれたがバスの運転手は手伝ってくれず、なんとか《火事場の馬鹿力でベビーカーを持ち上げ》乗り込んだという。
ブログで名指し、同情の声と大炎上する批判
別日にもベビーカーを伴ってのバスへの乗車ができなかったという大山。彼女は次のようにブログで“名指し”をした。
《晒すようでちょっと気が引けますが前回は東急バス 今回は都バスでした》
同情する声が多数集まった一方、大山のブログやSNSには批判のコメントが殺到。
《ベビーカーだから特別扱いされて当たり前だと思うな》
《双子ベビーカーを乗せるには物理的に限界がある》
《晒しあげて私は正しいと認めてほしいのですか?》
「23区内を走る都バスは前の扉から乗車する“前乗り”です。大山さんはブログで“後ろのドアから乗り込もうとしたら”と書いてておかしいなと。前の扉から料金を支払って、ベビーカーと一緒であれば、本来は出口である後ろの扉から乗せてほしいと運転手に頼むのが一般的かと思いますね」(都内に住む女性)
大山はブログで“乗車拒否”と記したため、それは一方的だという声も集めた。炎上の10日後、大山はブログにて名指ししたうちの1社『東急バス』と意見交換会を実施したことを明らかにした。
《これを機に双子ベビーカーでも構えたり諦めたりすることなく安心してバスを利用できるよう》
《利用者とバス会社さんとの相互理解が深められれば》
《実際に運転士のみなさんに双子ベビーカーの重さを感じてもらったり バスへの乗せおろしや車内での転回がどのくらい大変なのかをぜひ体験していただきたい》
そういった大山の思いと東急バスの声かけから意見交換会が実現。双子ベビーカーでの模擬乗車を行った。バスの運転士は双子ベビーカーの乗車を“請け負った”。しかし、これがさらなる炎上を生む。
意見交換会をするも、さらに炎上
《「助け合う」ではなく数百円で全て「やらせる」…》
《相互理解ではなくどこまでも利用者側の意見だけ》
《自分の大変さを分かってもらうならバス会社の大変さも分かった方がいい》
《彼女、双子ベビーカーを乗せるにあたって何のサポートもしていない》
最後の意見はブログにアップされた大山の姿を受けて。中央で“見守っている”のが大山。ベビーカーを“担ぎ上げている”のがバス運転士。
「危ないから本当にやめたほうがいいと思います……」
そう話すのは、大山と同じく双子を持つ女性。運転士が持ち上げているベビーカーには双子が並んで乗っていた。
「子どもが乗った状態のベビーカーを大きく傾けるのはバランスを崩したりする危険があります。慣れているはずの双子親でも、です。慣れていないだろう運転手さんだったら……。手伝ってもらうときは、子どもは降ろしてやらないと」(双子を持つ女性)
女性は運転士に手伝ってもらおうとは思わないと言う。
「運転手さんに悪いとかじゃなくて、慣れていない人にお願いするのは、子どもが危ないからです。あと、大山さんはなんで見てるだけで何もしていないんですか?」(同・双子を持つ女性)
バスと同様に公共交通機関である鉄道。駅員は、ベビーカーの乗車を手伝うことがあるが、各社“子どもはベビーカーから降ろす”ことがマニュアルで定められている。乗ったままでは事故の可能性があるからだ。事実、'21年に駅の階段で駅員がベビーカーを運んでいた際、乗っていた乳児が転落し頭蓋骨を骨折する事故が起こっている。
「ブログの写真で運転手がベビーカーをバスに乗せていますが、前輪を上げてウィリー状態にするのは、メーカーによってはNGにしていますよ」(前出・双子を持つ女性)
ある双子ベビーカーの『取り扱い説明書』を見てみよう。『安全上のご注意』として以下の記述がある。
《お子様を乗せたままバギーを持ち上げないでください》
《階段などの大きな段差のある場所で使用しないでください》
理由は2つとも《バランスを崩して転倒し、操作者やお子様がケガをするおそれがあります》からだ。
双子を持つ親、メーカーの注意喚起を考えると意見交換会で示された乗車は避けるべきやり方に見えるが……。意見交換会を行った東急バスに運転士のベビーカーの担ぎ上げ方などについて問い合わせると、以下の回答があった。
本来NGな乗り方、大山たっての願い
「この意見交換会では、大山様よりユーザーの立場で乗降の大変さを乗務員に体感していただきたいとのご希望もあって、実際に乗務員が体感する様子がアップされたものです。お客様からお申し出があれば乗務員が乗車をサポートすることを基本としておりますので、実際には乗務員が単独で乗車応対することはございません」(東急バス)
1人での双子ベビーカーの乗車は、大山の“あえて”の願いだった。同じく名指しを受けた都営バスに、ベビーカーでの乗車を運転士が手伝わなかった理由について聞くと、回答は以下だった。
「他のお客様のお手伝いもあり、スムーズに乗車されているように見えたので、乗務員がお手伝いをしなくても大丈夫と判断しました。一方で、座席の跳ね上げやベルトによる固定の補助といった必要な対応を乗務員が行ってはおらず、適切ではなかったと認識しております」(東京都交通局)
今後の対策は。都営バスは全乗務員に指導を徹底し、利用者側にはホームページを見直ししたという。
「今後、乗務員の接遇研修を強化し、再発防止を徹底するとともに、双子用ベビーカーをご利用のお客様に乗車を体験いただくなど、さまざまな工夫を凝らしながら相互理解を深め、誰もが利用しやすい環境整備に努めてまいります」(同)
すべての未来ある子どものために、育てる親、それ以外の大人たち、このようなニュースにコメントする人たち、そして社会そのもの……。すべてが互いに思いやれるような世の中はいつの日か。