今年8月、那覇市にある『おでん東大』の店主、長浜美也子さん(58)が首を絞められて殺害された事件で、11月6日、娘の許田美香容疑者(34)と夫の盛哉容疑者(34)が殺人の疑いで逮捕された。
捜査関係者によると、事件のあった時間帯に娘夫婦が現場を出入りする様子を防犯カメラで確認されたのだという。長浜さんの首には、ひものようなものが巻かれた状態で、警察は娘夫婦が彼女の自殺を装った可能性もあるという。
長浜さんが営んでいた『おでん東大』は約70年続いた老舗店でグルメレビューサイトで「3.56」の評価がつくほどの人気ぶり。満席で外に列ができることも茶飯事だったという。地元で愛された名店の店主が亡くなったことで地元紙に訃報も掲載されていた。店にも突如「閉店」の張り紙が出されることに。
芸術夫婦に起きた“事故”
12月7日、『沖縄タイムス』のWEB版は「夫婦は被害者から資金援助を受けながら、身の丈に合わない高級マンションに住んでいた」との捜査関係者の話を紹介。財産目的の犯行を視野に捜査を進めていると報じている。夫婦に一体、何があったというのか──。
夫の盛哉は2017年、宜野湾市真栄原にある風俗店の店舗を改装し、アートギャラリー『PIN-UP』をオープンさせている。県内外、海外のアーティストたちに個展の場を提供、アートの発展に活発的だったことから、地元紙やテレビ局などから取材を受けることもあった。
妻の美香容疑者も点描画家として活動、『おでん東大』の2階をアトリエにしており、地元では“芸術夫婦”として知られていたという。しかし、その活動に向かい風が。それが2020年9月に起こったある“事故”だった。
ギャラリーの再建と「資金難」
「ギャラリーが原因不明の火災で全焼してしまったんです。再建を目指してクラウドファンディングで支援を募っていました。その当時は地元のテレビ局からも取材を受けるなどして取り上げられていました。しかし、目標金額500万円に対し、集まったのは100万円ちょっと。162人から支援を受けたのですが、目標には遠く及ばなかった。
クラウドファンディングを募るチラシを多くの地元のお店に置かせてもらったり、個人の口座番号まで公開していましたが、どうやら資金繰りには難航していたみたい……」(夫婦の知人)
集まった資金の使い道のなかには、「火災で作品を失った作家への補償・支援」も含まれていたという。火災が起きた当時に開催されていた写真展の全作品、そして館内で保管していた数々の作品がすべて燃えてしまっていたというのだ。
「その後も自分のギャラリー以外の会場やオンラインのイベントなどで展示を続けていた許田さんですが、やはりお金の面ではうまくいかなかったようですね。“自費で少しずつ頑張る”と言っていたそうですよ。火事が起きる前から運送業の深夜ドライバーと清掃業を掛け持ちするなどして、“自転車操業”でなんとかギャラリーを回していたから心配でした」(同前)
そして、ようやく再建が始まったのは今年5月のこと。場所は那覇市の中心部にあり、30年ほど前は料亭だった場所が新たなギャラリーになるのだという。
「再建が決まったことについては許田さんもギャラリーの公式フェイスブックで発信していました。『PIN-UP』開業5周年である5月28日に着手すると聞いていたのですが、その投稿を最後に続報はなかった。こういった(殺人事件の)報道があった後だと、やはり義母との間にお金のトラブルでもあったのではないかと思ってしまいますよね」(同前)
長瀬智也とCM共演……?
捜査関係者の声として「身の丈に合わない高級マンションに住んでいた」と報じられた盛哉容疑者。彼の知人がアートギャラリーを運営する以前の素顔についてこのように語る。
「カッコつけというか見栄っ張りな部分はあったかと思いますが、まさかこんなことになるとは……。20代中盤のころは建築業の事務や商品管理の仕事をする会社員のかたわら、モデル事務所に所属してモデルや俳優の仕事も受けていました。イケメンでしたし、何度かテレビドラマやCMに出たりしていましたよ。TOKIOの長瀬智也さんとビールのCMに出たこともあるとか。
とはいえ、エキストラのような端役でしたので、それで稼いでいたということはなかったと思います。酒とアート好き、当時から『PIN-UP』の構想はあったようで、自作のステッカーを親や周囲に配っていましたね」(許田の知人)
今年の4月。事件が起こる4ヶ月前に、許田容疑者は写真展を主催している。そこに参加したあるアーティストはTwitterでこのように感想をつぶやいていた。
《実はオレも搬入、設営、搬出まで全部許田さんにお願いしてました。写真を見てもらおう、と言う許田さんや〇〇〇(編集部註:アートギャラリーの名前)の心意気を感じて足を運んでくれた方々に感謝を》
アートへの情熱は殺人の動機にならない。