36歳で起業し、年商7億円の会社社長に上りつめた松田裕美さん(55歳)。300坪の自宅は地元でも有名な豪邸。
室内には特注の滑り台があったり、約100坪の庭園には噴水があったりなど、ユニークなことでも話題に。
16歳でアパートを借り仕事を掛け持ちして働く
現在は成功をおさめ、億女として悠々とした暮らしを送っているが、じつは壮絶な過去がある。
「16歳で家族と疎遠になり、高校に通うことを諦めました。常に仕事を3、4つ掛け持ちし、病気も抱えていたから生きるためにもう必死。
アパートを借りるのに友人の姉が保証人になってくれたり、お金がなくて食事を抜いていると、周りの人がよく『ご飯、食べてる?』と声をかけてくれて。あのとき助けてくれた人には本当に感謝しています」(松田さん、以下同)
21歳で結婚し、翌年に長男を出産。通院や手術を繰り返していたので、夫の給料だけでは生活は苦しかった。
「そんなころ、小学校の保護者会の手芸教室で『クラフトバンド』を知りました。当時、専業主婦だった私のお小遣いは月5千円。参加費0円、材料代500円と安かったので、息抜き代わりにと」
これが人生を変える転機となった。
「クラフトバンド」とは再生紙からできた“紙ひも”のこと。もともと米袋などを縛るのに使われていたが、最近では籠やバッグの手芸材料として広く使われている。
「籐などと比べて加工しやすく、材料費も安いし、しかも軽くて丈夫。バッグを作っているとつらいことも忘れられて夢中になりました。今までこんな達成感を味わったことがなかったんです」
クラフトバンドをママ友に教えるように
作ったバッグや籠を周囲にプレゼントしていたら評判となり、ママ友から「私も作りたい」と言われるようになる。
「口コミで参加者が増えていき、公民館を借りて、教室を開くようになりました」
しかし、当時はネットショップも少なく、材料のクラフトバンドが思うように手に入らない。近くのホームセンターには茶色い米袋用のひもしかなく、女性ならもっとかわいい色が欲しいのでは、と気づいた。
「きっと需要があるはず、と36歳のときにクラフトバンドのネットショップを作りました。今から19年前のことです」
起業資金は、ヘソクリ7万円。義母が生活の足しにと、こっそりくれていた小遣いを充てた。
「無知だったので、仕入れ先の見当もつかない。全国のタウンページを取り寄せ、何百件も電話しましたね(笑)。3人目の乳児をおんぶし、静岡の製紙工場まで押しかけて交渉したこともありました」
競合会社が少なかったこともあり、売り上げは右肩上がりだったが、思いもよらない壁にぶち当たった。
「私だけでは手が足りず、ママ友が何人か教室を手伝ってくれていたんです。そのうちの1人は生活に困っていたので、アルバイト代に少し色をつけていました。
でも彼女は『見下された』と感じ、私の陰口を周りに言うだけでなく、彼女の娘が私の娘をいじめるようになって。私への妬みもあったのかもしれません」
狭いコミュニティーの中での主婦同士のトラブル。本人に「主婦のくせに先生みたいなまねをして」と言われたことがすごく悲しかった。
「自分ができることをやってようやく自信を持てたのに『〇〇のくせに』と言われて傷つきました。『じゃあこの道を極めてみよう』と、株式会社化したのです」
「クラフトバンドエコロジー協会」を立ち上げ、講師の養成を始めると、さらに商品が売れた。
「最初は知らないことばかりでしたし、私は深く考えるのに向いていないので、悩んでもしょうがない。調べてわからないことは、すぐ商工会議所の受付の女性に何度も聞きに行きました」
最近ではコロナ禍の巣ごもり消費が追い風となり、年商7億円を突破。やり手社長として注目を集めている。
生徒と同じ主婦目線が今の成功につながった
40代で夫と離婚。上の子ども2人は独立し、今は大学生の息子、保護犬と暮らす。
「食材や生活用品、ペット用品は、できる限りふるさと納税の返礼品で賄うようにしています。ただ税金を払うのはもったいないですからね」
納豆や卵などの定番食材はだいたい週1回、近所のスーパーで購入している。
「使う金額は3千円ぐらいです。息子が好きな冷凍食品がある業務用スーパーも活用し、ムダなお金は使わないがモットー」
経済的に苦しい時代が長かったので「あるもので暮らす」生活が身についている。
「常に『本当にそれが必要か』を考えてから買います。クラフトバンド1本の売り上げで、どのぐらい利益が出るのか、社長になってからのほうが金銭感覚はシビアになっているのかもしれません」
松田さんが使うペンも、量販店で1本20円のものだ。
「私にとってのお金は『お客様からいただいたお金』で、とても貴重なもの。クラフトバンドを買ってくれる主婦目線は大事にしていますね」
会社で使う文房具も付箋などは、100円均一で買うよう指示しているという。
「自宅にはお金をかけましたが、今しているイヤリングは千円ですし、いつも持ち歩いているバッグは自分の作品です。大事なのは、外側ではなく中身。内面を磨けば、見た目もそれなりに見えると考えています」
髪のお手入れはしているが、美容院は年に1回程度。メイク道具もドラッグストアなどで買っており、メイクにかける時間も1日5分程度だ。
「健康のためにちょっといい食材を使ったり、年をとっても清潔感はキープしたいので美容皮膚科でのシミ取り治療などにはお金を使います。貯金が趣味というわけではなく、今は買いたいと思うものがないんですよ」
ブランド品には全く興味がないと語る。
「子どもたちにブランド品を買い与えることもしませんでした。分不相応なものは似合わない。どうしても欲しいなら自分で買ってと言います」
財産も子どもたちに残さないので、自分の死後は寄付するつもりと話す。
「よく成功を収めている経営者の自伝を読むのですが、社会貢献をされている人が多いんです。私もこの世に生まれてきた意味や価値を考え、できることをしていきたいと思っています」
◆億女の金言「一番好きなことを極めてみる。外側ではなく中身にお金をかける」
(取材・文/宇野美貴子 協力/熊谷和海)