《皇室に入りましたのが平成5年6月9日、ちょうど29歳半の時でした。本日の誕生日で、その時からちょうど29年半になります。いつの間にか人生のちょうど半分ほどを皇室で過ごしてきたことに感慨を覚えております》
12月9日、59歳を迎えられた雅子さまは、誕生日に際してのご感想を文書に綴られた。
外国訪問への複雑なお気持ち
《本当に様々なことがあり、たくさんの喜びとともに、ときには悲しみの時も経ながら歩んできたことを感じます》
これまで歩んでこられた道程をそう振り返られたが、今後は民間人として過ごした時間よりも“皇族人生”のほうが長くなっていく。
「外交官として仕事をするのも、皇族として仕事をするのも、国のためには同じ」
外務省のキャリアウーマンだった雅子さまに皇室入りを決意させたのは、そんな陛下のプロポーズだった。しかし、
「皇太子妃時代の雅子さまが正式に海外を訪問される機会は限られていました。'06年のオランダご静養を除けば、外遊は、ご成婚直後の'94年と'95年の中東諸国、'02年のニュージーランド、オーストラリアご訪問のみ。
'99年にベルギーのフィリップ皇太子殿下の結婚式にご参列、'13年にオランダ国王、'15年にトンガ国王の戴冠式に出席されていますが、式典などの目的を伴う単発の海外訪問は、公務という側面が強いです。国際親善という意味では、'02年が最後といえるでしょう」(皇室ジャーナリスト)
'02年の外国訪問に際して、陛下とともに記者会見に臨んだ雅子さまは、こう語られた。
「外国訪問をすることがなかなか難しいという状況は、正直申しまして私自身、その状況に適応することに、なかなか大きな努力が要ったということがございます」
'04年7月に『適応障害』と診断されてからは、国内の公務も“ご体調次第”で出欠を判断されるように。思うように公務をこなすことができない皇太子妃に、心ない批判の声が上がることも少なくなかった。
「日本とマレーシアが外交を樹立して60周年だった'17年には“皇太子ご夫妻でマレーシアを訪問される”と囁かれましたが、結局、雅子さまはいらっしゃらず、皇太子さまのみでした」(宮内庁OB)
雅子さまのお言葉に“変化”が
'19年5月、お代替わりに伴い国母となった雅子さまは、アメリカやフランス、トルコの大統領夫妻やアフリカ諸国首脳らなどと、通訳なしでコミュニケーションをとられた。
「両陛下は'20年5月、イギリスのエリザベス女王の招待で、即位後初の海外訪問をされる予定でしたが、コロナ禍で延期に……」(皇室担当記者)
こうした中、7年ぶりの海外訪問となったのが、今年9月に行われたイギリスのエリザベス女王の国葬だった。突然の訃報を受けて、両陛下は2泊4日の“強行日程”でロンドンへ足を運ばれた。
「片道15時間に及ぶ長距離移動や、ノーマスクが浸透しているイギリスでの感染対策、雅子さまのご体調を考慮したうえで、宮内庁の西村泰彦長官は記者会見で“決して容易なご訪問ではなかった”と振り返っていました」(同・皇室担当記者)
今秋までは東京都外での公務を約2年8か月にわたり控えていたが、訪英を皮切りに、地方訪問を再開。10月には栃木県での『国民体育大会』と沖縄県での『国民文化祭』、11月には兵庫県で行われた『全国豊かな海づくり大会』に出席し、1泊2日の日程で県内の各所を視察された。
《各地で大勢の方に笑顔で温かく迎えていただいたことは、想像以上に嬉しく、また、有り難いことでした》
雅子さまは、前述の誕生日文書でそう振り返られた。
「療養に入られて以降、お誕生日のご感想文書には、“快復に努めていきたい”といった文言が入っていることが多く、特に平成23年以降は毎年そのような文言が入っていました。それが今年はありませんでした。ご真意はわかりませんが、私は皇后陛下が自信を深められている証左ではと思っています」(宮内庁OBで皇室解説者の山下晋司さん)
まもなく迎える令和5年は、両陛下にとって“ご結婚30周年イヤー”。コロナ禍が収束に向かえば、国際舞台でのご活動も見込まれるという。
「イギリスご訪問はコロナの影響で延期中ですが、来年は実現する可能性があります。国際親善を目的とする即位後初の外国公式訪問先は、新国王になったとはいえ、延期中のイギリスとなるのが自然だと思います」(山下さん)
キャパシティを模索されている
ある宮内庁関係者はアジア地域へのご訪問を示唆する。
「2023年、日本とASEANの友好協力関係が50周年を迎えるタイミングで、ASEANの本部があるインドネシアのジャカルタ周辺を外遊されるのではないかという見方が強いです。実現すれば、雅子さまにとって初のアジアご訪問となります」
今年7月、両陛下はお住まいにインドネシアのジョコ大統領夫妻を招かれた。雅子さまは、お見送りの際に両手を合わせたインドネシアの挨拶を披露されるなど、約2年7か月ぶりとなった“皇室外交”をまっとうされた。
「来年はベトナムとの外交関係が樹立して50周年の年でもあります。'09年2月には、前年に外交関係樹立35周年を迎えたことを記念して、当時の皇太子さまがベトナムを訪問されましたが、今回こそおふたりで足を運ばれるのでは」(同・宮内庁関係者)
上皇ご夫妻は即位中、マレーシアやフィリピンなどを訪問し、太平洋戦争中の犠牲者を悼まれた。
「戦争を体験されていない現在の両陛下が、アジア地域を訪れることは“継承”という面でも非常に大切です。日本から比較的距離が近いエリアですし、雅子さまへの負荷を鑑みても、現実的といえるかと」(前出・宮内庁OB)
令和の国母として国際的なご活動に期待が集まる一方で、不安の声も上がっている。
「この1年、雅子さまはコンスタントに公務をこなし、自信をつけられたと拝察します。ただ、依然としてご体調には波があり、時折お疲れのご表情が垣間見えることもありました」(前出・皇室ジャーナリスト、以下同)
海外訪問は、国内の公務とはケタ違いのご負担を伴う。
「一般人の旅行や出張でも異国となれば疲れがたまりますが、“国賓”として過密なスケジュールをこなされる両陛下の気苦労は計り知れません。皇室外交に強い使命感をお持ちの雅子さまは、“今までできなかったぶんも”と意気込みつつも、一進一退のご体調と向き合いながら、ご自身のキャパシティを模索されているのではないでしょうか」
心痛の種は尽きない。
山下晋司 皇室解説者。23年間の宮内庁勤務の後、出版社役員を経て独立。書籍やテレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている