「何の肉が健康によいか?」には多くの人が関心を寄せますが、「どう調理するのが健康によいか?」にはあまり注目が集まりません。愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也氏は、「肉を調理するとき、老化や病気の原因になるAGEsという物質が作られます。焼いたり、揚げたりすると、多くのAGEsが生成されるので、蒸したり、ゆでる/煮るのがオススメです」と言います。『100歳まで生きるための習慣100選』を上梓した伊賀瀬氏が解説します。
老化を加速させる「終末糖化産物」
近年、アンチエイジング医学の世界では、終末糖化産物(Advanced Glycation End Products=AGEs=エージーイー)が、老化を加速させる大きな原因の1つだと注目されています。AGEsは、体の中のタンパク質が糖類と結びつき、そこに体温の熱が加わって「コゲる」ことで生まれます。この現象を「糖化」といいます。
体のほとんどはタンパク質でできているので、「糖化」は全身のさまざまな組織で起き、AGEsが蓄積されていきます。AGEsは一度蓄積すると、何十年も分解されずに体の中にとどまり、老化や病気の原因になるのです。
AGEsが血管に蓄積すると心筋梗塞や脳梗塞、骨に蓄積すると骨粗しょう症、目に蓄積すると白内障や網膜症、腎臓に蓄積すると腎障害を引き起こすことがわかっています。また、私たちの研究では、AGEsの蓄積が多い人は、軽度認知障害(認知症の前段階)と評価されることも判明しています。皮膚にたまればシミになり、肌の弾力が失われるのでシワの原因にもなります。
AGEsはあらゆる組織や血管に入り込んで、その弾力性を失わせてボロボロにしてしまう、非常に恐ろしい物質なのです。AGEsは、加齢によって誰でも体内で作られていきますが、実は食べ物から取り込んでいるケースがとても多いです。
糖化を進める成分として真っ先に挙げられるのが、ジュースやお菓子などに使われている「果糖液糖」「果糖ブドウ糖液糖」など人工の甘味料です。これら人工の甘味料は、自然由来のブドウ糖の10倍の速さで体内のタンパク質と結びつき、AGEsを増やしていきます。
このような特定の食品だけがAGEsを増やすわけではありません。AGEsの量は、同じ食材でも、調理法によってその含有量が変化します。
あらゆる食品にいえますが、高温で調理された食品、つまり、「コゲ」がついている食品ほどAGEsが多くなります。食品のコゲが体内のコゲを増やすのです。
下の表を見てください。調理法によってAGEsに大きな差が生まれていることがわかるでしょう。怖いのは、加熱温度に比例してAGEsが増えるのではなく、揚げ物や炒め物など、高温で短時間調理すると、一気に増えることです。
一般的に、AGEsの量は、「生」→「蒸す」→「ゆでる/煮る」→「炒める/焼く」→「揚げる」の順番に高くなります。
たとえば魚だと、刺身→蒸し魚→煮魚→焼き魚→フライの順で糖化リスクが高くなるわけです。肉料理なら、ステーキよりしゃぶしゃぶ、焼き餃子より水餃子、からあげより水炊きのほうがAGEsが少なくなります。
水は加熱しても100度までしか上がらないのに対し、油は200度以上になるため、油での調理が最も糖化を加速させてしまうのです。なので揚げ物の二度揚げは最悪です。
AGEsの蓄積を防ぐために、調理法のバリエーションを増やして、油料理を少なくしていく、二度揚げをしない、コゲた部分は取り除くことを実践していきましょう。最近流行している「低温長時間調理」を試してみるのもいいでしょう。
また、酢にはAGEsの蓄積を抑制する効果があるので、揚げ物を食べるときは、酢の物を副菜にするのもオススメです。
コゲは体の「糖化」を加速させる
終末糖化産物(AGEs)が、動脈硬化などの老化を加速させる大きな原因です。食べ物から生まれるAGEsの量は、「生」→「蒸す」→「ゆでる/煮る」→「炒める/焼く」→「揚げる」の順番に高くなります。
つまり、食べ物の「コゲ」がAGEsのもとなのです。といっても、料理するときだけ気をつければよいわけではありません。AGEsは、さまざまな食べ物の中に潜んでいます。
たとえば、香ばしいにおいが食欲をそそる焼き鳥のコゲや、炊き込みごはんのおこげ。こんがり焼けた食パンや焼きおにぎり、カステラの焼き面さえもAGEsを含んでいます。
でも、これらの食品を厳密に控えていくと、食の楽しみが失われてしまいます。毎日の食生活では、「揚げ物や炒め物ばかり食べない」「二度揚げはしない」「コゲを食べすぎない」ことを意識しておけばよいでしょう。
AGEsは、体の中のタンパク質が糖類と結びつき、そこに体温の熱が加わって「コゲる」ことで、体内でも生まれます。
糖質の摂りすぎで血糖値が高いまま放っておくと、体の中では、血糖と体を構成するさまざまなタンパク質が結びつき、AGEsが生み出されます。AGEsは血管内に沈着して動脈硬化を促進します。そうして血流が悪くなれば、AGEsは排出されず、体のあちこちに蓄積してしまいます。
この悪循環に陥らないためにも、「糖質を食べすぎない」ことが大事なのです。
AGEsの多いソーセージ、ハムも食べすぎ注意
医学的に「絶対に体に悪い」と、エビデンス的に決着がついている食べ物があります。ソーセージ、ハム、ベーコン、フランクフルト、スパムなどの加工肉です。
WHO(世界保健機関)の付属研究機関であるIARC(国際がん研究機関)は、発がん性について食品のランクをつけています。
2015年、加工肉はグループ1(人に対して発がん性がある)に分類されました。グループ1には、がんの原因になる「ピロリ菌」や「喫煙」など、明らかに有害である因子が含まれています。加工肉は、これらと同レベルに発がん性があるというのです。
また、加工肉は突出してAGEsが高いのも特徴です。特に焼くとAGEsは急激に増えます。加工肉は生肉よりも保存される期間が長いため、調理する前からすでにAGEsが多い食品です。それをさらに焼いて調理すると、大幅にAGEsの量が増加してしまうのです。
加工肉ほどでないにしろ、牛や豚の「赤身肉」にも発がん性がある可能性が示唆されています。さまざまな研究結果により、「摂取量が1日65g増えるにつれ、子宮がん、肺がん、食道がん、大腸がん、糖尿病といった病気のリスクが高まる」と報告されています。
私も加工肉は好きですし、過剰に敏感になる必要はありません。しかしこれらの研究結果を考慮すると、やはり主食の中心は「魚」に移行していくことが、健康長寿のヒケツといえるでしょう。
伊賀瀬 道也(いがせ みちや)Michiya Igase
愛媛大学大学院 抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授、愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長
1964年愛媛県生まれ。1991年、愛媛大学医学部卒業後に第二内科(循環器)に入局。その後、公立学校共済組合近畿中央病院循環器内科(研修医)、米国Wake Forest大学・高血圧血管病センター(リサーチフェロー)、愛媛大学大学院老年神経総合診療内科特任教授などを経て2019年4月より現職。2006年に国立大学では当時珍しかったアンチエイジングを研究する抗加齢センター(現・抗加齢・予防医療センター)を開設後、約4000人の患者さんに指導を続けており、抗加齢医学研究のトップランナーとして知られる。