『“推し”ドラマ大賞2022』(左から)菅田将暉、目黒蓮、小栗旬、上白石萌音

「これはもう文句なしです。脚本、キャスティング、演技、話題性……すべてひっくるめて今年のナンバーワンドラマだったと思います」とドラマウォッチャーで漫画家のカトリーヌあやこさんも太鼓判を押す大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が1位に輝いた。

2022年“推し”ドラマ大賞!

「とにかくキャラクター全員が魅力的。びっくりするような展開に目が離せなかった」(鹿児島県・46歳)、「重い物語の端々にちょこっと笑いが入るのがいい。キャストの演技力が抜群」(大阪府・67歳)など三谷幸喜の脚本と役者たちの演技の両方に絶賛の声が上がった。

小栗旬

「三谷さんは3作目の大河ドラマになりますが、そのなかでも最高傑作だと思います。『新選組!』では疑似家族、『真田丸』は父子の物語と、大河では一貫してファミリーを描いてきた三谷さんですが、今作はその集大成的作品。

 北条家と坂東武者という2つのファミリーを描きつつ、主人公自らがそのファミリーをぶっ壊していくという劇作家・三谷幸喜の真骨頂が発揮された作品で、鎌倉幕府成立までの前半は軽妙なコメディータッチで描きつつ、そこから一転してシェークスピア的な重厚な悲劇へと様変わりしていく。このドラマチックな展開は見事というしかありません」(カトリーヌさん)

 主演の小栗旬はもちろん、頼朝役の大泉洋、時政役の坂東彌十郎、義経役の菅田将暉ら主要キャストに加え、小池栄子、宮沢りえ、新垣結衣ら今までの“三谷大河”とは違い女性陣の存在感も際立った。

「ダークサイドに落ちるにつれ、小栗旬さんの目からどんどん光がなくなっていくんですけど、その演技力がすごい。和田義盛役の横田栄司さんみたいに『鎌倉殿』で演技が光った名脇役もたくさんいましたし、キャスト全員が本当に素晴らしかったです」(カトリーヌさん)

 2位には菅田将暉のアフロヘアも話題を呼んだ異色ミステリー『ミステリと言う勿れ』がランクイン。「あまり周りにいないような性格の主人公で面白かった」(東京都・60歳)、「整君の言うことすべてが腑に落ちて、見ていて気持ちよかった」(北海道・56歳)というような意見が多く、ルックスだけではなく今までのドラマの主人公にはいなかった特異なキャラクターが高く評価された。

キャストが発表された直後は原作のファンから不満の声も上がっていた『ミステリと言う勿れ』

「ミステリーとしても非常に面白かったんですけど、この作品はやはり菅田将暉さんに尽きるなと。原作の整くんは絵柄的に柔らかさがあるのに対し、菅田さんが演じる彼はとにかく奇妙で面白かった。

 毎回のゲストの方との演技合戦も見応えがあって、私は柄本佑さんが演じた、記憶をなくした爆弾犯との会話劇の回がとても好きでした」(カトリーヌさん)

 主人公は強烈なキャラクターにもかかわらず、どこか傍観者的な立場にいて、最終回に至っては、多くの伏線を残したまま整がほぼ登場しないという攻めた構成で視聴者を驚かせた。

「縦軸にひとつ大きな謎があって、そこから各エピソードが複雑に絡んでいくという構成も面白いし、挑戦的な仕掛けもずいぶんありました。映画化が発表されましたけど、原作も続いてますし、シーズン2も作ってほしいですね」(カトリーヌさん)

SNSでドラマを楽しむ新たな形が普及

 3位はこの秋の話題作『silent』(フジテレビ系 木曜22時)。聴覚を失った想(目黒蓮)と彼を思うヒロインの紬(川口春奈)、そして周りの人々の切ない恋物語に日本中が胸を焦がした。「物語が深く、毎回涙を流さずには見られません」(新潟県・32歳)、「回が変わると視点も変わって、いろんな登場人物に感情移入できるのが新鮮」(神奈川県・21歳)。

川口春奈主演ドラマ『Silent』

 テンプレ化されたキュン要素ではなく、登場人物ひとりひとりの心情を丁寧に描き、恋愛ドラマの原点に立ち返ったことが成功の要因とカトリーヌさんは分析するが……。

「とはいえ、その分リスクもあり、丁寧に描くゆえに展開が遅いという弱点が後半に見えてしまったのは残念。ただ恋愛ドラマにおいてはヒロインや周りの女優さんが大切なんだということを再認識させてくれました。

 川口春奈さんの泣き顔の説得力やひと言もセリフを発しないのに手に取るように感情が伝わってくる夏帆さんの表情など、女優さんの演技が際立つとラブストーリーはより輝きますよね」(カトリーヌさん)

 意外な作品が4位に飛び込み、これにはカトリーヌさんも驚いたようだ。

「強いですねぇ、『孤独のグルメ』。こんなにサステナブルなドラマはほかにないですよ(笑)。これは10位の『家政夫のミタゾノ』にも言えるのですが、型があるというのはものすごく強い。

 テレ朝だったら、『ミタゾノ』のように強烈なキャラを持った主人公と周りを囲むおなじみのメンバー。そこに悪者らしい悪者が現れ、ピンチを経てのスカッとする結末という型。

 テレ東だったら『孤独のグルメ』のような手を替え品を替えてのグルメドラマという型。フォーマットが決まっているから、あとは素材を変えるだけでいい。で、うまくハマればシリーズ化という流れができあがっているんです」(カトリーヌさん)

『孤独のグルメ』

 昔ながらの代表格ともいえる朝ドラからは2作がランクイン。5位の『カムカムエヴリバディ』は上白石萌音、深津絵里、川栄李奈で祖母、母、娘三代のヒロインをバトンタッチしていくという新機軸が好評を得た。

 一方で、9位の『ちむどんどん』は“#反省会”がネットのトレンドに入るなど、逆の意味で盛り上がった珍しい朝ドラで、「ツッコむことがいつしか楽しみになっていました。これって術中にハマってたの?」(東京都・33歳)という人も意外に多かったのだろう。

 SNSとの親和性ということでいえば、7位の『マイファミリー』だろう。次々と起こる新たな誘拐事件と増殖していく謎に視聴者は振り回されっぱなしだった。

「いわゆる考察系ドラマの本年ナンバーワンです。考察系ドラマってほぼほぼ最終回にはがっかりするような結果が待っているんですけど(笑)、そこに至るまでにいかに視聴者を振り回すかという意味では『マイファミリー』は素晴らしかったと思います」(カトリーヌさん)

 自分なりの謎解きを披露したり、他人の考えを「なるほどねぇ……」と楽しむ考察系ドラマは、まさにSNSの普及で生まれた連ドラならではの新ジャンル。原作もののミステリーのようにしっかりと謎を構築していない分ツッコみどころも多いが、それすらも楽しめてしまうのが魅力でもある。

『ちむどんどん』の反省会もそうだが、’22年はドラマをネタにSNSで盛り上がるという視聴スタイルが確立した年でもあったのかもしれない。

話題作がランク外&次の期待作は?

 一方、木村拓哉の『未来への10カウント』、竹内涼真の『六本木クラス』、松本潤の『となりのチカラ』(いずれもテレビ朝日系)など人気俳優主演で話題を呼んだドラマがランク外に。

木村拓哉が主演のドラマ『未来への10カウント』(公式HPより)

 木村拓哉は『教場』で高評価を得た若者への指南役というポジションだったが、「キムタクの恋愛パートがいらなかった」(大阪府・48歳)という声もあり、中途半端に主役感を出したのが仇となったか。

『六本木クラス』に関しては韓国版の出来が良すぎ、「どうしても比べてしまう」(神奈川県・29歳)との意見が多く、票が伸びなかった。そんな今年のドラマをカトリーヌさんに総括してもらうと……。

「恋愛ドラマの原点回帰と配信の普及による視聴者の見方の変化という転換期が’22年で、それを象徴するドラマが『silent』だったんじゃないでしょうか。

 視聴率はそれほどでもないのにあんなに話題になるというのは、ドラマ視聴が新たなフェーズに入ったという証明ですよね。ドラマの在り方が大きく変化することで、今までの『広くあまねく』から『届く人に深く』へと作り手の意識も変わっていくような気がします」

 年が明けて’23年。1月クールは復権を果たした恋愛ドラマに注目とカトリーヌさん。

「『星降る夜に』(テレビ朝日系)の大石静さん、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)の北川悦吏子さん、『100万回言えばよかった』(TBS系)の安達奈緒子さんと恋愛ドラマの神様みたいな脚本家がそろい踏み。

『星降る夜に』は北村匠海さんが聴覚障害とまさかの『silent』とのネタかぶり(笑)。『夕暮れ~』は広瀬すずさんが恋愛ヒロインをどう演じるのか。

『100万回~』はヒロイン(井上真央)の亡くなった夫(佐藤健)が幽霊となって……というファンタジー要素あり。彼女たちが新時代のラブストーリーをどう描いていくのかにはすごく興味が湧き、注目したいと思います」

2022年『“推し”ドラマ大賞』TOP10

1位 鎌倉殿の13人  137票
2位 ミステリと言う勿れ  129票
3位 silent  102票
4位 孤独のグルメ  73票
5位 カムカムエヴリバディ  60票
6位 クロサギ  56票
7位 マイファミリー  49票
8位 妻、小学生になる。  48票
9位 ちむどんどん  43票
10位 家政夫のミタゾノ  40票

カトリーヌあやこ●漫画家、ドラマウォッチャー。『週刊ザテレビジョン』にてイラストコラム「すちゃらかTV!」、『週刊朝日』にて「てれてれテレビ」を連載

(取材・文/蒔田陽平) 

『2022年“推し”ドラマ大賞TOP10』

 

両脇に女性と囲まれてダブルピースをする小栗旬(東谷義和氏のTwitterより)

 

泥酔しているような女性を抱える小栗旬(東谷義和氏のTwitterより)

 

新婚旅行先のロンドンから帰国した菅田将暉(2022年9月)

 

小学生時代の菅田将暉(写真上)と弟たち。面倒見の良さがうかがえる