オフシーズン真っ只中のプロ野球“ストーブリーグ”が熱を帯びている。各球団と選手による契約更改が進む中で、今年はまさかの“反乱”が起きた。
12月14日に『東北楽天ゴールデンイーグルス』との契約更改に臨んだ島内宏明選手(以下、敬称略)が、現状維持の年俸1億2000万円プラス出来高払いでサインした後、記者団に「FAさせてほしい」と球団に掛け合ったことを明かしたのだ。
2020年のオフシーズンに、国内FA権を行使せずに楽天と4年間の複数年契約を結んだ島内。当時は「こんなに評価してくれるチームは他にない」と笑顔をのぞかせていたのだが、残り2年間の契約を残した中で2023年シーズンを終えた時点での“契約破棄”を申し出たのだ。
「球団側が算出した年俸査定に納得がいかずに保留や越年、年俸調停を申し立てる選手は珍しくありませんが、1度は合意した“複数年契約を短縮させろ”と直訴したケースはちょっと記憶にありません。
今シーズンは142試合に出場してほぼ全試合で4番に座り、打率.298にホームラン14本、77打点、161安打を放って『最多安打賞』のタイトルも獲得する活躍ぶり。本人も会見で触れていた通りに、近藤選手に影響されたのは明らかでしょう」(スポーツ紙・野球担当記者)
国内FA権を行使して、『北海道日本ハムファイターズ』から『福岡ソフトバンクホークス』への移籍が決定した近藤健介選手。球界を代表するヒットメーカーは、30歳を迎える来シーズンから7年総額50億円ともされる大型契約を結んだ。
片や、来季で33歳と、現役生活も終盤に差し掛かろうとしている島内。今季は99試合の出場に終わった近藤と比較しても、チーム貢献度ははるかに高いように思える。それだけに、大きすぎる年俸差に不満を覚えたとしても無理はないーー。
一転して「自分は悪い」謝罪した島内
「個人事業主であるプロ野球選手は、現役のうちに1円でも多くのお金を稼ぎたいのは当たり前」と、前出の野球担当記者は前置きしつつ、
「しかし、島内選手の理屈がまかり通ってしまえば、仮に成績が悪かった場合には、球団側から逆に複数年契約を短縮されても文句が言えなくなってしまう。それでは契約自体が意味のないものになってしまいます。
世間からの批判を浴びたことで“軽率だった”“自分が全部悪い”と一転して謝罪、石井一久監督にも頭を下げたという島内ですが、はっきり言って印象は良くない。球団だけでなく、彼を応援してきたファンとの間にも“しこり”が残りそうな騒動でした」
そんな炎上した“島内の乱”も冷めやらぬ12月20日、こちらも球団の“カネ事情”に関する発言をしたのが『埼玉西武ライオンズ』今井達也投手。この日、自身のインスタグラムライブにてファン交流をはかっていたのだが、チームメイトの高橋光成投手の話に及ぶと次第に熱が入っていったようで。
2022シーズンを12勝8敗、防御率2.20の好成績を収めた高橋は、同日に7000万円アップの1億8000万円で契約を更改。会見では当面の目標をチームの優勝、日本一としつつも「自分の夢」である、早期のメジャーリーグ挑戦を球団側に伝えたことも明かした。
この双方で交わされたという“約束事”について、《優勝させたら(メジャーに)行かせてくれそうってことは、ピッチャーだけじゃなくなってくるよね問題が、結局ね》(ライブ配信を実況したファンのツイッターより引用、以下同)と、残された投手陣、チームに負担がかかってくることを問題提起した今井。
事の成り行きを注視していたというスポーツ情報サイト・ライターによると、
「またNPB(日本プロ野球機構)が定める、国内FAを取得するのに大学や社会人で7年、高卒で8年。海外FAは一律9年と、高卒の場合は30歳近くになって初めてメジャー挑戦が可能になるフリーエージェント現制度にも、“長すぎる”“キツい”と苦笑い。
そして、エース格に成長したと思ったらメジャー挑戦の循環を問われて、“でも、エースって言われる人がどんどん抜けてる球団だから”と、国内外を問わずに主力選手が移籍していくチーム事情にも触れたのです」
国内球団とメジャーの査定の違い
この10年間を見ても涌井秀章投手(『千葉ロッテマリーンズ』に移籍)、岸孝之投手(『楽天』に移籍)、野上亮磨投手(『読売ジャイアンツ』に移籍)と3人の主力投手がチームから去った。また森友哉捕手が『オリックスバファローズ』に移籍したように、野手においても毎年のように主力がFA権を行使する印象がある西武。
さらに今井は、国内球団とメジャー球団との年俸査定の差についても言及する。
《アメリカと日本って評価の仕方が違うんですよ。日本は何勝して何敗して何イニング投げて防御率がいくつでって所でアナタはこの成績だからこのくらい払いますって契約だと思うんですよね。米国は選手一人のステータス、能力というかそういうものにお金を払うんですよ》
一連のインスタライブを視聴した、また拡散された“実況”ツイッターを見たネットユーザーからは、
《西武はエースがいなくなる球団ですか… それを西武の現役投手が言っちゃったんですね 今井は熱い漢で好感持てたんですけど、この発言はマズイですね》
《今井はもう少し考えてからSNSで発信してほしいわ。あれでは球団批判してるように思われてもしょうがないだろ》
《どう見ても球団批判に私には聞こえてしまう。 他の人にはどう聞こえるかは人それぞれだから分からないけど。 私は批判に感じてしまうから、自分は西武ファンだから見るのが辛くなってきて離脱してきた》
西武ファンからも“球団批判”と受け取られたようだが、それでも“批判ではなく、イチ意見”と主張。その後も“メジャー挑戦を応援しているファンもたくさんいる”“本場で野球したいですよね”などと、高橋が置かれている立場を慮りつつも、FA制度に縛られた「プロ野球選手」という職業の選択自由のなさを嘆く今井だった。
優勝するために引き留めてほしい
パ・リーグやイースタン・リーグを中心に取材を重ねてきたスポーツジャーナリストは、「球団批判の意図は全くないでしょう」と擁護する。
「グラブに“無双”の刺繍を施しているように、元来は強気のピッチングでバッターを攻める、気持ちを全面に出す熱いタイプ。やんちゃな面も少々あるだけに、ライブ配信で少々気持ちが昂ったのでしょう。
それにコロナ禍でもオンラインミーティングを開催して一人一人と対話したり、ネットツールやSNSで交流の場を設けたりと、常にファンを大切にしてきた選手でもあります。そんなサービス精神もあってこその、ファンを前にしての本音だと思いますよ(苦笑)。
そして誤解してほしくないのですが、誰よりもチームのことを考えていますし、西武を優勝させたい思いが強い。それだけにエース格として、共に投手陣を引っ張ってきた(高橋)光成にチームに残ってほしい、球団が何としても引き留めてほしい気持ちでいっぱいだったのでは?」
自身の契約更改では、度重なる故障によってチームに貢献できなかった悔しさからか、入団時から背負った背番号「11」を自ら返上し、来シーズンは「48」への変更を申し出た今井。
その熱すぎる思いを胸に、自身がエースとなって投手王国を再建してほしい。