(左から)本田翼、平野紫耀、田中みな実

 '22年も残すところわずか。10月にスタートした連ドラが続々と最終回を迎えている。テレビドラマに詳しいライター&コラムニストの吉田潮さんに、今期のドラマについて聞いてみると……。

「私は個人的に、けっこう面白いドラマが多くて。今期は豊作だったなと思っているんです」

 辛口で知られる吉田さんから、ちょっと意外なお褒めの言葉。

「フジテレビ系はほぼ全部面白かったですね。その筆頭は『エルピス-希望、あるいは災い-』(月曜22時~)。『Silent』(木曜22時~)もすごくよくて。まず、この2作が飛び抜けていいし、『PICU 小児集中治療室』(月曜21時~)も吉沢亮さん演じる主人公・志子田武四郎が泣いてばかりなんですけど、医者が子どもを救えない現実を描いていて。よかったかなとは思っていて」

 そんな中、フタを開けてみたら“あれ?”“何かちょっと思ったのと違う”といった違和感、残念感があった作品は?

アイドルの寮母に若い女性 そりゃ、そうなるって!

 ワーストは『君の花になる』(火曜22時~TBS系)。元高校教師の仲町あす花(本田翼)が、ボーイズグループ“8LOOM(ブルーム)”の寮母になるところから始まった。

「アイドルグループの成長、そして栄光を掴むまでの物語で。8LOOMはすごいんですよ、YouTubeでPVとかも作っていて。実際、ドラマの外側でも宣伝していましたから。あの8LOOMの子たちの負担は半端ないわけないですよ。ドラマの撮影に加えて、PVで振り付けを覚えて歌って。そこは評価したい。“役者に2倍くらいギャラ払ってね”って思います(笑)。仕掛けはすごい。ただ、ドラマの中身がお粗末で」

 吉田さん自身、アイドルに興味があるほうではないため、その分辛口になるかもしれないと前置きをしたうえで、

そもそも、寮母に本田翼さんはないでしょう。第9話は、佐神弾(高橋文哉)とのスキャンダル発覚という回でしたが、“そんなの最初からわかってたじゃん!”みたいな(笑)。教師時代に弾の曲を褒め、“目指すべき”と夢を与え、励ましてくれた恩人という設定はわかりますが、どう考えたってアイドルの寮母に若い女性はないでしょう。“リスクマネージメント、どうなってるの?”というツッコミはまずありますね

高橋文哉

 そして、主演の本田翼に残念ながら矛先が。

「本田さんはとても可愛いですよ、しゃべらなければ。CMを見ていると『ZOZOTOWN』で買い物したくなるし、『ニチガス』もいいねって思うし。彼女の宣伝におけるキャラクター性はすごくいい。個人攻撃になってしまったら申し訳ないけど、物語の中でキャラクターを演じるとなると、とたんにウソ臭くなる気がして。本人はちゃんとした笑顔のつもりでも、なんだか愛想笑いに見えてしまうようなマイナス面があって

 しかしながら、本田の過去の出演作の中では『わにとかげぎす』('20年)はよかったと振り返る。

「見てみたら、ぴったりだったんです。明るい子ではなく、暗~い子の役だったんですが。うーん……だからやっぱり、あんまりしゃべらない役ほうがいいのかな。『君の花になる』において、本田さんだけが浮いていると思ったのは私だけではないはずです。仲町あす花役は合っていなかった

 とはいえ、本田翼はあちこちの作品に引っ張りだこ。人気女優だ。

「そうなんですよ。ずっと起用され続けているということは、すごく本人がいい子なんでしょうね。それに『君の花になる』の女性ファンは、仲町あす花に自分を当てはめながら見ている人が少なからずいると思います。もし、演技派女優がこの役をやってしまっていたら、自己投影は難しかったかもしれません。もし、そこが狙いだったとしたら、本田さんの起用はすごいなと思いますね」

継続視聴の気力を与えなかったレア作品

 次なるがっかり作品となってしまったのは、『ボーイフレンド降臨!』(土曜23時30分~テレビ朝日系)。記憶喪失となった現代美術家・漆畑澄人(髙橋海人/King & Prince)が、茶谷かしこ(桜井ユキ)と佐藤渉(田中みな実)の2人の女性に“アサヒ”と呼ばれる中で展開されるトライアングル・ラブコメディー。

全然ぱっとしなくて、途中で見るのをやめちゃったから語れないんですよね。がっかり以前に、継続する気力が湧かなかったんです。美しい青年が女性に拾われて……みたいな。よくある内容で、その魅力がわからなかったですね。髙橋海人さんの魅力を全面に出す、という作品としてはよかったのかもしれませんが、継続して見る理由が見出せませんでした

高橋海人

 “?”マークが浮かぼうとも、基本的に連ドラは最後まで見る。そんなスタンスの吉田さんがギブアップしてしまったという意味では、かなりレアな作品となってしまった……。

詐欺師なのに 光を放って目立ちすぎ!

 そして、がっかりドラマとしてもうひとつ挙げるのであれば、

「『クロサギ』(金曜22時~TBS系)ですね」

 詐欺被害によって家族を失った黒崎高志郎(平野紫耀/King & Prince)が選んだ生き方は、詐欺師を騙す詐欺師“クロサギ”。そのターゲットは、人をだまして金銭を奪う詐欺師“シロサギ”だ。

「『クロサギ』は話題作りが上手かったと思うんです。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演した名役者たちが、レギュラーやゲストで次々に送り込まれていましたよね」

 (『鎌倉殿の13人』で)三浦義村を演じた山本耕史、北条時政を演じた坂東彌十郎。第2話ゲストに阿野全成を演じた新納慎也&北条時政の娘・きくを演じた八木莉可子。第3話ゲストに大江広元を演じた栗原英雄らが出演した。“キャスト泥棒”感を感じなくもない。

『鎌倉殿の13人』頼みでしたね。それは悪いことではないと思うんです。やっぱり好きな人は“おや?”と思って『クロサギ』も見ちゃいますよね。山本耕史さんは白石陽一を演じていて、こちらでも食えないタイプの男。詐欺のスキーム以上に、そっちに目が行ってしまって。私自身、この秋は『鎌倉殿の13人』と『Silent』に関する取材依頼がとても多くて、外からくる熱、うねりをすごく感じました。普段ドラマを見ない人ですら、『鎌倉殿の13人』の話をしていましたから。そんな中で、至らないドラマは余計に目立ってしまう部分はあったとは思います」

 また平野紫耀が演じた黒崎についても、

すごくキレイな顔をされているがゆえに、とにかく目立つ。詐欺師には向いてないと思うんですよ。光を放ちすぎ(笑)。いろんなスーツを着たり、いろんな役柄を演じていたりしたのはわかるんですが、ちょっと着せ替えごっこに見えしまい、リアリティに欠けた。また“これってすぐ捕まる案件じゃん”と思えるケースも散見されて。ドラマとしての深みはあんまりなかったなという気がします

 また、ヒロイン・吉川氷柱を演じている黒島結菜もぱっとしなかった印象。

11月中旬、『クロサギ』ロケ中の平野紫耀と黒島結菜

「『ちむどんどん』からの悲劇というか(笑)。彼女の持っているものが生かされていなかったかな、という気がします。私、黒島さんはすごく好きな女優で。NHKの『アシガール』('17年)ではとてもいい演技をしていました。可愛らしかったし、うまかった。その後のテレビ東京の『死役所』('19年)でも。素朴だけど小生意気、でも女性から嫌われない……はずの黒島さんが『ちむどんどん』ではボロクソ言われましたからね。またTBSは朝ドラのヒロインをやった女優を、すぐに引っ張る傾向はありますよね。『まれ』('15年)の土屋太鳳さんを『下町ロケット』('15年)に出すとか。黒島さんに関しては『クロサギ』でもしっくりこなかった。次の作品に期待するって言うしかないですね、エールを送りつつ」

 もうすぐ'23年。新たな年を迎えてほどなく、1月期のドラマがスタートする。もちろん良作への期待はやむわけはなく、心からのエールをお送りしております!

<プロフィール>                                                                                                         吉田潮さん  ライター、コラムニスト。主要なドラマはすべて視聴。『週刊新潮』での「TVふうーん録」など連載多数

 
川口春奈、目黒蓮、鈴鹿央士のオフショットは“すてきすぎる”と大反響(番組公式インスタグラムより)

 

(左から)目黒蓮、川口春奈、鈴鹿央士

 

『silent』のロケ地・世田谷代田駅はファンの聖地になっており、平日でも多くの女性の姿が

 

タワレコ店内にはスピッツコーナーが(ドラマ『silent』ロケ地)