「自衛隊について“変わらない、(謝罪は)表面だけだ”って言う人もいますが、私は変わると信じてます」
自衛隊内のセクハラ行為を防衛省が正式に認め謝罪
そう語ったのは元自衛官の五ノ井里奈さん。12月19日、自身が告発した自衛隊内での性被害について、日本外国特派員協会で記者会見を行った。
「五ノ井さんは‘21年8月に山岳地での訓練中に複数の男性隊員から性被害を受けました。『強制わいせつ罪』として被害届を提出しましたが、“目撃者がいない”として不起訴処分に。
自衛隊退職後の‘22年6月から“再発防止と直接謝罪”を求めてメディアやYouTubeで実名告発を行い、大きな反響を呼びました」(全国紙記者)
活動の甲斐あって、今年9月には一度出ていた不起訴処分について『不当』の議決が下り、性被害の再捜査がスタート。同月、防衛省も事実を認め謝罪し、12月15日に加害者5名は懲戒免職処分となった。
五ノ井さんは会見で近況について「検察庁が再捜査をしている段階」と話したが、
「加害者3名に弁護士がつき、示談を提示されています。その際、相手側の弁護士から“個人責任を問われるか疑問があるが、謝罪の意思を表すため”として、加害者1名につき約30万円、3名で約90万円の示談金を提示されました。この“30万円”は、痴漢と同等の金額だと聞いています」
弁護士が言い放った“無責任発言”
五ノ井さんは金額よりも、弁護士の発言に衝撃を受けた。
「“個人責任を問われるか疑問がある”という言葉は、非常に残念に思いました。直前までは被害届を取り下げて、速やかに示談に応じるつもりだったんですが、このひと言で“ことの重大さを軽く受け止めているのでは”と呆れ、驚きました」
今回提示されたという“30万円”は、妥当な金額なのだろうか。弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士に話を聞いた。
「示談金の相場としては安いと思います。性被害の示談金額は、性被害の内容、態様、継続された期間、身体的な接触の有無、セクハラにより退職や休職を余儀なくされたかどうか、被害感情等を考慮して決まることになります。
相場というのも各事情により変動しますが、全体感としては、低いものは10万円ほどから、高いものでは400万円を超えるような事案もあります」
安すぎる示談金の“真意”
五ノ井さんの場合、まず日常的に受けていた言葉でのセクハラについて、
「“おっぱい大きいね”や“しゃぶってよ”と声をかけることは、典型的なセクハラ行為に該当します。仮に身体的な接触を伴わずとも、継続的にセクハラ的な言葉を投げかけられ、休職や退職を余儀なくされている場合には、50万円~100万円ほどが妥当です」(正木弁護士、以下同)
今回、再捜査中である訓練中の性被害については、
「胸を揉まれ、頬にキスされ、下着の上から相手の股間を触らされる行為や、両脚を広げて、股間に自分の陰部をこすりつけて腰を振りながら喘ぐ行為などは、強制わいせつ罪に該当するため刑事処罰の対象となります。行為の悪質性が非常に高いので、100万円~200万円ほどが妥当であると思われます」
それではなぜ、加害者側は“個人責任を問われるか疑問”として、相場よりも低い“30万円”を提示したのか。
「この発言は簡単に言えば、“被害の補填をする義務はないのでそれはしないけれど、謝罪の意思は表したいから気持ちを示します”ということだと思います」
公務員の不法行為は個人の賠償責任がない!?
今回の案件は『国家賠償請求』に該当する可能性があるそうだ。
「判例上、国家賠償法の適用を受ける行為については国が賠償責任を負うべきで、加害者である公務員個人は民法上の賠償責任を負わないこととされています。
理由としては、公務執行の萎縮の防止や、国家賠償により金銭的な補填はされるであろうこと、当該公務員個人には国自身の自浄作用として懲戒処分等のペナルティが想定されていることなどが理由とされています。
加害者の弁護士は、本来であれば加害者3名は、個人的な賠償責任を負っていないことを前提に、上記の発言をしたものと思われますが、そのことと謝罪のためにお金を払うということはまったく別の話です」
五ノ井さんは会見で、
「加害行為をどう受け止め、どのように責任を取るのか。代理人を通して改めて質問していて、回答を待っています。その結果によっては、民事訴訟や国家賠償訴訟を検討したいと思っています」
と語っていた。賠償責任がなくとも、加害者は五ノ井さんを傷つけたことに変わりはない。今度こそ、誠意のある対応をしてほしいが――。
お話を伺ったのは……