新谷嘉朗容疑者(SNSより)

「あの家の息子さんはひょろっと背が高く、すれ違うと軽く会釈する程度。早朝に帰宅するのを何回か見かけたけど、乱暴なタイプには見えなかった」

 と近所の男性は絶句する。

 神奈川県平塚市にある築約37年の木造2階建て住宅。外壁や門構えは鮮やかなグリーンで塗装され、屋根裏などの白色が緑地に映える。この家に住む70代夫婦の遺体が室内で発見されたのは12月13日午後1時ごろのこと。

「きっかけは、母親の知人から“連絡がつかない”と警察に安否確認を求める届け出があったから。警察官が自宅を訪ねると、亡くなってそれほど時間が経過していないとみられる高齢夫婦の遺体があり、同居する息子の行方がわからなかった。周辺の防犯カメラを確認すると、遺体発見の約5時間前に車で出かける姿が映っていた」(全国紙社会部記者)

 自宅に両親の遺体を放置したとして県警捜査1課と平塚署が翌14日、死体遺棄の疑いで逮捕したのは息子の職業不詳・新谷嘉朗容疑者(50)。県警によると、遺体の身元は会社役員の父・哲男さん(76)と、体操講師の母・清子さん(75)で、死因は頸部圧迫による窒息死と判明した。

「浜松市役所の駐車場で嘉朗容疑者がひとりでいるところを静岡県警の警察官が発見して身柄を確保。神奈川県警の取り調べに“遺棄はしていない”と容疑を否認している。両親が死亡した経緯を知っているとみて調べを進めている」(同記者)

容疑者は“引きこもり中年“

 嘉朗容疑者はブラジルのサッカー名門クラブチーム「パルメイラス」の熱心なサポーターだ。ブログやSNSで職業を「パルメイラススポーツ協会東京領事」とブラジル公用語のポルトガル語で明記する。しかし、該当する組織は確認できず、領事という呼称も怪しげ。チームの戦績や近況、個人的意見などを勝手にブログに綴っていただけとみられる。

「息子さんがサッカー関連の仕事をしていると聞いたことはない。引きこもり中年だと思っていた」

 と自宅近所に住む女性。

 嘉朗容疑者はブログの記述などについて《収益化をはかる》(SNSより=以下同)と宣言し、税務署に「著述家・翻訳業」として開業を届け出たとする。しかしブログ有料化などの痕跡はなく、届を出しただけで安定収入につながるはずがなかった。

 将来はブラジル・サンパウロ州と東京の両都市に居を構えたいと構想していた。《北米や欧州でもビジネスを展開したい》などと話を広げるが、肝心のビジネスモデルが不明瞭で“夢物語”の域を出ない。

父親と容疑者が怒鳴り合う声が外にまで…

 一家は3人暮らし。両親は、50歳になる息子とたびたび衝突するようになった。

「昨年ごろから、自宅で父親と息子が怒鳴り合う声が外まで聞こえてくるようになった。“うるさい!”とか“何をしてるんだ!”などと口論が20〜30分ぐらい続き、ときおり母親が“やめて”と仲裁に入るものの“おまえはあっちに行ってろ”などといなされていた。父親は“昭和の頑固オヤジ”に似た雰囲気があったから一歩も引かなかったのではないか」(前出・近所の男性)

 室内で物を叩く音がしたり、パトカーが駆けつける騒ぎも数回あったという。警察官があいだに入ると騒ぎは収まり、嘉朗容疑者はその直後、決まって車でどこかへ出かけた。

 本人の話などによると、地元の中学を卒業後、学業成績が芳しくなく高校を中退。いくつかの職場を経験しながら《真の会社》に巡り合えず転職を繰り返してきたとする。

 高学歴の両親にコンプレックスを抱いていたようで、大卒・終身雇用の人生を望まれてきたとストレスを告白。珍しく日本語表記で怒りを爆発させたのは4月だった。

SNSでは両親への恨み節を

《両親が、私に対して有る事無い事を並べ立て何十年にも渡って中傷してきたのは許せない。ほとんどすべてがでたらめだ。事実無根の精神病やアルコール中毒扱い(中略)こちらの貯蓄や仕事の内容を確かな情報もないのに想像で決めつけて流布する》(原文ママ)

 特に父親への憎悪が激しく、

《昔から彼の言葉の9割は嘘》

《ゴミクズ以下の男》

 と罵る。

 母親に対しても、

《母は私がすでに車の運転技術では一流の水準にもあるにも関わらず危険運転をすると決めつけ、同乗した際は全く問題のない運転にも関わらず難癖をつけて大声で騒ぎ立てる》

 と反発。

《この二人は人間的には最低の部類に入る虫けら以下の存在だ》

 と吐き捨てた。

「そうした反目が怒鳴り合いをエスカレートさせたのか、警察は2〜9月にかけ4回の通報を受けている。両親は“息子から暴力を振るわれている”とか“息子が暴れているので鎮めてほしい”などと相談する一方、事件化は望まなかったという。その都度、警察は市に連絡し、市も対応してきたが最悪な結果を招いてしまった」(前出の記者)

 市の高齢福祉課の担当者によると、両親と嘉朗容疑者の双方から相談を受け、3〜11月に電話や対面で計22回やり取りする支援を続けてきた。自宅を訪問したことも1回あった。

「複数人で訪問し、どうしたいのか希望を聞いています。内容は明かせません。高齢者の生命に危険がおよぶ状況があれば、当事者の意向にかかわらず強制的に引き離すこともありますが、そうはならなかった。支援を続けるつもりでしたから残念な結果ですが、対応に問題はなかったと考えています」(同担当者)

 嘉朗容疑者は《友達も家族も彼女もいない激戦区のような環境》と嘆くが、ケンカする家族はいた。同級生の家族によると、旧友らと酒席を囲むこともあったという。

知人男性への“不気味”発言

 一方、独特な雰囲気を醸し出すことも。

「ホストが着るような派手めのスーツを着て、カバンも財布も派手でした。財布には紙幣がびっしり入っていて、お金持ちなんだなと思っていた。年齢の割にはまったりした喋り方でしたが、別におかしなところはなかったんです。ところが今夏、急に変なことを言い出して……」(知人男性)

 嘉朗容疑者は顔を合わせるや、

「卑猥な写真の“あの女”どうなった?」

 と聞いてきた。

 何のことかさっぱりわからず、聞き返すと、

「とぼけなくていいから」

 などと言うばかりで、具体的な説明をしなかったという。

「卑猥な写真など心当たりがないし、“あの女”がだれを指すのかさえわかりませんでした。最後は“とぼけるんならまあいいや”などと言われ会話は終わったんですが、以前とは様子が異なりました」(前出の知人男性)

 様子はおかしくなるばかりで、11月には両親や親戚を相手取って裁判をするとして、訴訟準備金30万円の寄付をSNSで募った。

 自分の名前を利用して知人から巨額の金を奪ったとか、実家の資産を相続させないつもりだとか。資産額は3400万ドル(約45億円)とするが、登記簿謄本によると、自宅の土地・建物は父親が約2000万円のローンを組んでこつこつと返済してきたにとどまり、ほかに財産らしきものは見当たらない。

「父親は警備会社に長く勤め、母親は気功教室で講師を務めていました。母親はハキハキとして明るく、まめにゴミ出しする姿をよく見かけました。穏やかな夫婦なのにどうしてこんなことになってしまったのか」

 と近所の別の女性は同情する。

「私は織田信長の生き写し」

 11月中旬になると、SNSで戦国武将の織田信長を引き合いにこう共通点を語るように。

《信長のロジックは思春期の私に非常に大きな影響を与え、私は彼の生き写しのようなロジックを形成することとなる。(中略)私の本来の気質が彼に似ていたのだろう。結局、彼のようなやり方しかできないようである》

 ホトトギスの俳句を持ち出すまでもなく、信長は敵とあらば、ためらいなく焼き討ちにするなど冷酷だったとされる。弟・信勝を謀殺するなど身内にも容赦なかった。

 嘉朗容疑者はこう続ける。

《信長のロジックは非常に合理的で理にかなっており、その発想は常にデジタルで完全に私の波長と一致していた。(中略)この文章を書き始める前、私は両親について思いを巡らせていた。このあと遅咲きの私の人生がどのようになるのか判らないが今は日を追うごとに心地よい落ち着いた心境となっていくのを感じている》

 1か月後、事件は起こった。

 サッカーW杯で容疑者が応援するブラジル代表がクロアチア代表との準々決勝で負けた3日後にあたり、身柄を確保されたのはブラジル国籍の住民が多い浜松市。自宅からは約195キロ離れている。10月下旬には現地のブラジル人客の多いバーを訪ねていた。

 4月ごろは、家族の思い出を振り返るゆとりがまだあった。

《私が小学生の頃、私と両親は珍しく家族と私たちの家の近くにある“大山”と呼ばれる山間の沢を訪れた。沢の脇の水辺を三人で歩いているとき、“ヤマヒル”と呼ばれる蛭が母の足に付いてしまった。山間の蛭は大型で見慣れない方が観るとびっくりするのだが、母も驚いて悲鳴を上げた》

 と情景描写豊かに綴る。

 同級生の父親はこう話す。

「本来はおとなしい子。親はいつまでもプラプラしている息子の面倒を見てあげられるわけじゃない。自立させようと厳しく言い、怒鳴り合いになったのだろう。結末はあまりに気の毒だ」

 家人の帰らぬ自宅の玄関先には複数の花が手向けられていた。周辺住民によると、もともとは緑色の外壁ではなく、白っぽかったのを数か月前に塗り替えたばかりという。

両親の遺体が発見された自宅。外壁は目立つ緑色=平塚市

 パルメイラスのチームカラーはグリーン。最近の容疑者は緑色のスーツを着るなどパルメイラス一色だった。親子で激しく言い争う一方、両親は息子の気持ちに寄り添えるものは尊重しようと、わざわざチームカラーに塗装したのだろうか。それは悲しい最期を迎えた両親の「苦悩」をあらわす色に見えた。

 
新谷嘉朗容疑者は動画で奇妙なポーズを(SNSより)

 

新谷嘉朗容疑者は動画で奇妙なポーズを(SNSより)

 

新谷容疑者はブラジルのサッカー名門クラブチーム「パルメイラス」のチームカラーに染まって(SNSより)

 

実家の外壁は目立つ緑色。両親は容疑者が好きなチームカラーに塗装したのだろうか=平塚市