「学生を終えて社会に出たら、次は結婚」という図式は、昭和の時代にすでに消滅しました。今や結婚は、選択の時代。したいと思った人たちがする。とはいえ、したい結婚が手に入らない人たちもいます。それはどういう人たちだと思いますか?
仲人をしながら婚活現場に関わる筆者が、目の当たりにしている婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えていく連載。今回は、結婚したいのに結婚できない人たちの話です。
「離婚する」という言葉を信じて4年……
先日、都内の美容メーカーに勤めるえみさん(31歳、仮名)が、入会面談にやってきました。
「27歳から4年間、不倫をしていました。ただ私と出会ったときには、すでに奥さんとは別居をしていたので、そのまま離婚をするんじゃないかと思っていたんです。でも、夫婦って、そんな簡単に離婚しないんですね」
お付き合いしていたしんやさん(38歳、仮名)は、イベントを主催する会社に勤めており、出会いはとあるイベントでのことでした。来場者にプレゼントする商品をえみさんの会社が協賛提供し、それを配るスタッフとしてえみさんが参加しました。イベント会場で、まず2人は名詞交換。終わってからの打ち上げて意気投合して、LINE交換をしました。
「私が推してるバンドのメンバーのひとりに似ていて、もろタイプでした」
仕事を終えて帰宅すると、しんやさんからの早速のLINEが来ました。メッセージのやり取りもその夜6往復くらいし、翌々日会社終わりに食事に行く約束をしました。
「もうLINEのやり取りをしているときから、恋に落ちていたのだと思います」
そして、食事に行き、えみさんはますますしんやさんのことを好きになってしまいました。ところが、2度目のデートのときに、「実は結婚している」ということを聞かされたのです。
「27年間生きてきて、一番好きになった人でした。結婚していることがわかっても、もう気持ちをゼロに戻すことはできなくなっていた。奥さんとは離婚を見据えて半年前から別居中だというし。奥さんは、会社の人間関係がうまくいかなくなってうつ状態になって退社。関西の実家に帰って療養しているとのことでした」
相手は結婚しているものの、妻とは別居中。付き合うようになって半年後には、しんやさんのマンションの合鍵ももらい、普通の恋人同士のような付き合いをしていました。
「そんな関係のまま2年経ってしまって、私も29歳になった。30歳という年齢が見えてきて、“そろそろ結婚したいな”と思ったんです。でも、一向に離婚する気配がない。ただ、私もプライドがあって、『なんで離婚しないの?』と聞けないままに、時間だけが過ぎていきました」
そして、30歳になってしまった。仲のいい友達の中には、チラホラ結婚する人たちも出てきました。
「もうヘンなプライドは捨てました。『私、もう30歳になったのだから結婚をしたい。なぜ離婚をしないの!』と詰め寄りました」
すると、とんでもない事実がわかりました。妻がうつ病になったのは、会社での人間関係がよくなかったのも一因でしたが、一番大きな要因は、しんやさんの浮気だったのです。そのとき妻は妊娠初期でした。その浮気が発覚した直後に、流産。そして、うつ状態になり、会社を辞めて一旦、関西の実家に戻ったというのです。
えみさんは、私に言いました。
「そこまで妻を追い込み、妻の両親からも酷く非難されていた。妻から離婚を言い出してくれるならできるが、彼からは負い目があって言い出せないようでした。彼が離婚できるかどうかは、奥さんの胸ひとつ。“いつかは、結婚できる”と思っていたのは私の独りよがりな考えでした」
そして、えみさんから、しんやさんに別れを切り出しました。しんやさんは、「えみがいなくなる人生は、考えられない」と言って、おいおい泣いたそうです。
「泣いている彼を見て、私もつらくなりました。だけど、私ももう若くない。いつ結婚できるかわからない相手と付き合っていたら、出産が不可能な年齢になってしまうかもしれない。そうしたら、自分の人生をとても後悔するんじゃないかと思ったんです」
そして、お互いに渡していた合鍵を戻し合って、えみさんは一人暮らしのアパートを引っ越し、婚活を始めることにしたのです。
「私、1年以内に結婚を決めたいです。今回学んだことは、結婚できる相手と出会わないと、結婚はできないという現実でした」
結婚を切り出したら逆ギレ
さゆりさん(35歳、仮名)が面談にやってきました。
「3年付き合っている彼がいます。付き合っていた当初は、“結婚”という言葉か、会話の中に出てきたんですけど、コロナになってから彼の仕事が業績不振になって、そこから結婚の“け”字もなくなりました。まだお付き合いは続いていますが、私も35歳になったので、ここで婚活をしたいと思っています」
お付き合いしているはじめさん(仮名、37歳)は、自営業者で、コロナが蔓延した2020年は、仕事が大打撃を受けて売り上げが激減。補助金や助成金をもらっても追いつかず、昨年は借りていた事務所を閉めて、自宅にオフィスを移したそうです。
「先月、私の35歳の誕生日があったのですが、その日が誕生日だと忘れていたのかプレゼントもなくて、悲しかった。それで、次のデートのときに、『この間、なんの日だったかわかっている? 私の誕生日だったんだよ』って言ったら、すごく面倒くさそうな顔をされて。私もカチンときて、『もう35歳になったし、そろそろ結婚もしたいよ』と言ったんです」
すると、はじめさんが大声で、「俺が今、どういう状況かわかっているだろう。結婚するなら夫婦は運命共同体だ。相手の苦しい状況もわからない女とは結婚できない。思いやりがないヤツだな」と怒鳴ったというのです。
「逆ギレですよ。で、その言葉を聞いて、私も冷静になりました。彼は、怒ると大声を出したり、キレたり、ときには暴言を吐いたりする。考えたら、私、そんな彼を怒らせないように、いつも顔色を見ていました。もし結婚できたとしても、長い人生を見たら幸せになれない気がしたんです」
そこで、婚活を決意したというのです。
「付き合っている彼がいても、登録はできますよね」
そこで、私はさゆりさんに言いました。
「もちろんできますよ。既婚者は登録できませんが、さゆりさんは、彼がいても独身ですからね」
こうして入会しお見合いをするようになって、5人目にお会いしたよしゆきさん(37歳、仮名)と、真剣交際に入ることになりました。そのとき、私が心配したのは、恋人であるはじめさんの存在でした。
「結婚相談所のお付き合いの場合、仮交際期間中は、複数と交際をしていてもいいし、新しいお見合いをしてもいいけれど、真剣交際に入るときは、お一人と向き合うことになっているのは、お伝えしていますよね。さゆりさんは、はじめさんという恋人がいながら婚活を始めたけれど、その後、はじめさんとは、お会いしていますか?」
すると、さゆりさんは言いました。
「実は、婚活を始めてまもなく、私から別れ話をして別れました。週末はお見合いが入っていたし、仮交際になった人たちとのデートもあったりで、彼に会う時間が作り出せなくなったら未練もなくなった。“恋の上書き”とは、よく言ったもので、本当に一歩踏み出す勇気を出して、婚活を始めてよかったです」
こうして、よしゆきさんと真剣交際に入り、お見合いから3か月目にはプロポーズをされて、成婚退会していきました。
「結婚する気持ちのない相手と3年付き合っても結婚できなかった。でも、結婚する気持ちのある相手と付き合ったら、3か月で結婚できるんですね。結婚って、決断と責任だと思います。私との結婚を選んでくれたよしゆきさんを、これから一生大事にしていきます」
不倫相手を切らずに婚活したものの
よしえさん(39歳、仮名)は、37歳のときに結婚相談所で出会った同い年の男性つとむさん(仮名)と結婚をしました。ところが、結婚生活がスタートしてみると、些細なことでキレて暴言を吐く、お金にはとにかく細かい。そんなつとむさんとの生活が、半年もしないうちに、嫌になってしまいました。
そんなとき、街で大学時代の同級生で、かつて恋人として付き合っていたかずおさん(仮名)に、バッタリと再会したのです。懐かしくなり、カフェにお茶をしに行きました。
かずおさんは30歳のときに結婚をし、現在は、7歳になる女の子がいるとのことでした。よしえさんは、「半年前に結婚したものの、価値観も性格も合わなくて、結婚生活がうまくいっていない」と、愚痴をこぼしました。
その日は、お互いのLINEを交換して別れたのですが、そこから頻繁に連絡を取り合うようになりました。そこから1週間後、夜食事に行き、その後ホテルにも行って、ダブル不倫の関係が始まってしまいました。
そして、よしえさんは半年後に、つとむさんと離婚。よしえさんの結婚生活は1年弱で終わりを遂げたのですが、かずおさんとの不倫関係はずっと続いたままでした。
離婚から半年後に、よしえさんは、私の相談所を訪ねてきました。そして、これまでの経緯を語った後に、言いました。
「私は、子どももいなかったし、結婚生活は1年足らずだったから、離婚もすんなりできた。けど、今不倫しているカレには、小さなお嬢さんがいる。おそらく離婚しないと思うし、その家庭を壊してまで、私と結婚してほしいとは思っていないんです。だから、私も、再婚に向けて、婚活を始めようと思いました」
こうして、お見合いを始めたのです。よしえさんは、バツイチとはいえ、お子さんもいないし、痩せ型の美人だったので、思いのほかお見合いが組めました。その中で、お付き合いに入る人も出てきましたが、なかなか真剣交際まで進む人に出会えませんでした。
お見合いをしながらも、かずおさんとの不倫は続けたまま。婚活がうまくいかないと、気持ちはかずおさんに戻っていくのでした。
あるとき、私は、よしえさんに言いました。
「結婚はお一人としかできません。その一人を探しているのに、いつもサブに控えている男性がいて、新しい出会いとサブの男性との間を行ったりきたりしていたら、目が曇ってしまって、なかなか結婚できるお相手が見つからないのではないですか?」
しかも、そのサブに控えている男性は、既婚者で、日本の法律では結婚できない相手なのです。
ただ私のこの言葉は、響かなかったようです。10か月ほど活動をして、相談所は退会していきました。
39歳という年齢は、今結婚したら出産もできるかもしれない。ところが、結婚できない男性との時間に身を委ねていたら、知らず知らずのうちに年を重ねて、後で後悔をすることになります。
結婚から一番遠くの場所にいるのは、付き合っている相手がいない独身女性ではないのです。彼女たちには、何のしがらみもありませんから、婚活して結婚できる相手が見つかったら、明日にでも結婚できます。
結婚を言い出さない恋人や妻帯者とお付き合いしていて、その縁が断ち切れないでいる。そんな女性たちが、実は結婚から一番遠い場所にいるのです。
鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。新刊『100日で結婚』(星海社)好評発売中。公式サイト『最短結婚ナビ』 YouTube『仲人はミタチャンネル』