「久々に仕事で都内に行こうとしたら、以前は1泊1万円くらいだったはずのホテルが軒並み倍くらいの値段になってて……。ネットで安いホテルを探したんですが、予算に見合うホテルは全然なくて。そもそも部屋自体が空いておらず。苦肉の策でカプセルホテルにしましたが、それも7,000円。カプセルホテルでこの値段は絶句しましたけど、仕方なく……」
東京のホテル料金は2~3倍に高騰
そう話すのは、都内に出張で訪れた北陸地方在住の男性(個人事業主)。今、都心を中心としてホテル宿泊費の高騰が続いている。ネットにはその高騰に対する“嘆き”が散見される(以下、Twitterより引用)
《いつも宿泊するビジネスホテルのシングル料金が一泊5,500円→18,000円に高騰》
《東京のホテルの価格高騰がエグい。旅行割が終わったら戻るのか、このままになるのか…》
《一泊10,000円で予約したら、ワクチン3回打った証明がないと15,000円だと言われて追加料金を払うハメに。。》
《来週末は都内あたりにホテル泊まって滞在するのに、ホテル価格高騰して社内規程を上回る料金でしか泊まれない》
「気になったので、いろいろ調べたら、都内のビジネスホテルはこれまで1泊1万円を切っていたようなところが2万円くらいというのがザラ。ビジホより“ちょっと良い”みたいなホテルでは10万円くらいになっているところもありました。久々の出張でちょっとテンションが上がってましたが、もうしばらく出張したくないという気持ちですね……」(前出の男性)
「ホテルの宿泊費の高騰が圧倒的にすごいのは、やはり東京です。ほかの地域はそれほどでもないというなか、東京だけは2倍、下手をすると3倍くらい。このままですと同じ状況は数年続くでしょう」
そう話すのは、帝京大学理工学部非常勤講師で、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さん。まず、都内のホテルは“部屋数”が減っているという。
「理由は2つあります。1つはこのコロナ禍の2年間で潰れてしまったホテルが少なくないこと。もう1つは部屋を清掃するスタッフの必要人数が足りていないことです。それによって、たとえばホテル全体で200室あるのに、150室しか予約可にできないホテルがいくつもある。清掃スタッフが不足しているのは、コロナによってホテル側が従業員やアルバイトを解雇せざるを得なかったためです。一時期“便乗値上げ”と報道されることがありましたが、それ以前に、もうホテル(部屋)がないという状況があります」(鳥海さん、以下同)
「値段が高くてホテルが取れない」という状況もあるが、「高い値段を払ってもホテルが取れない(ない)」という“ホテル難民”が出ているという。
「この2年、都内から地方にという移動は多少ありましたが、地方から東京はコロナでかなり止まっていました。それが今、完全に動き出した。旅行以外にもイベントや、商談などの目的による東京での宿泊が増えています」
客室が埋まっていれば値段は下げない
高騰の背景にはもちろん、『全国旅行支援』もある。宿泊代金・旅行代金の40%相当が割引され、宿泊のみの場合は1人1泊あたり5,000円、交通つきの宿泊であれば1人1泊あたり8000円が上限の割引となるのが、全国旅行支援。
「全国旅行支援は、国が“もう出かけていいですよ”というお墨付きを与えたようなものです。割引がもちろん大きな理由ですが、このお墨付きを与えられたことで、旅行へのハードルが下がり、東京を中心に旅行者が回復したといえます」
ホテルが足りていない理由はまだある。
「今回、旅行者の数はすごく“急回復”だった。特に10月からですね。ホテル側はその急回復についていけていない。つまり、スタッフを集められていないのです。それほど儲かっておらず、高い給料を出せるわけではないので、余計に人集めが難しいのでしょう」
旅行支援の割引に付いて回る“便乗値上げ”。“市場の原理”として仕方ないという意見もある。
「今回の高騰は需給バランスとはいえ、以前の価格に比べると現在はやはり高すぎます。もっと早いうちに旅行支援をしていれば、ここまでホテルは減らなかったかもしれない、もう少し価格は抑えられていたかもしれないと思います。ホテルの数があれば、それなりに値段は下がるわけですから。
あまりに市場の原理による高騰が起こりすぎてしまうと、出かけたくなくなってしまったり、“だったら行くのやめよう”、“日帰りにしよう”という思考になりかねない。たとえばビジネスホテルでしたら、その“あり方”としてやはり上限というものは考えなきゃいけないとは思います」
1月に全国旅行支援は割引が40%から20%に引き下げられる。
「旅行支援を使うメリットがそこまで大きくない状況になったとき、それでもホテル宿泊料金の水準が高い状況が続くのであれば、今後下がる要素がないといえます」
ホテル側からすれば、「高い値段だけど、客室は埋まってますから。だから下げません」という意見になるだろう。状況に応じた変動性のある価格設定は『ダイナミックプライシング』と呼ばれる。
「この20年で確立されてきて、需要と供給、イベントのある繁忙期に合わせて料金を上げたり下げたりするということは一般的になりました。海外はもっと顕著でカタールのワールドカップでのケースはまさにわかりやすいのではないでしょうか。普段の宿泊費の数倍となっています。
国内でわかりやすい例は、数年前にアパホテルが安いときは3,500円、高いときは同じ部屋が4万円という設定をしていました。これはやはり需要と供給ですし、またある程度の値段を取らないと従業員の給料を上げられない。宿泊業界は本当に給料が低いので……。従業員の“なり手”がいない。すると国が求める“インバウンド年間4000万人”をさばくことも難しい」
お得に泊まる方法は?
しかし、日本人は変動性のある価格設定に慣れていない人が多い。
「ガソリンや電気料金など、目に見える指標があってそれで値が変わるものはある程度しょうがないという意識が働くのですが、 “同じサービスが行く時期によってだいぶ変わる”ということに、日本人はやっぱりまだ慣れていないかもしれません。
“このようなホテルだから、このくらいの金額だろう”というイメージができ上がってしまっている。そしてそれが高くなると、どうしても“ボッタクリ”というような気持ちが生まれてしまう。都内はビジネスホテルが増えていますから、余計に“この狭さのホテルで2万円も取るのか”というような消費者心理が働いてしまう。日本も昔から時期によって何割かは変動していましたが、“倍”というのはないだろう、という部分はありますよね」
今後は……。
「外国人観光客が増えていくと、値段は上がるでしょう。今回の高騰の隠れた問題は、“3割くらいしか外国人は戻っていないのに、これだけホテルの宿泊料金が上がってしまっている”ことです。新規でホテルがオープンしたり、一旦閉鎖したホテルが再開されたりする可能性はあるでしょう。そういった形で部屋数が増えるのを待つということになってくる。ただそれも2〜3年はかかると思いますが。中国人もいずれドカンと来るはずなので、そうなったらもっと値上がりするでしょうし、すると再び部屋数は追いつかなくなる」
そんななか、なんとか“オトク”に泊まるには……。
「ビジネスホテルには、料金を固定しているホテルもあります。代表的なのは『東横INN』。そういった固定料金のホテルを、予約サイトを通さずに、直接公式サイトから取る。ビジネスホテルチェーンは“直販”を強化しているところが多いので。そういったところは『ホテル会員』の“会員向け割引プラン”などもあります。
また、このような高騰によって、下火になっていた『民泊』も必ずまた増えていくはずです。そこで安いところを探すという手もあるでしょうもっと簡単なのは、都内の旅行であれば埼玉の大宮、神奈川の川崎など都心からもわりと近いところのホテルを取ることですね」
状況が改善されるまでは、東京での宿泊は諦めたほうがいいのかも……。