「感慨深いのと、ホッとしたのと、今は両方の気持ちがあって─。自分の中でようやく一区切りついた感じです」
引退説を否定したコロッケ
昨年10月25日の放映を最後に、日本テレビ『ものまねグランプリ』の卒業を発表したコロッケ(62)。「え、コロッケ引退しちゃうの!?」「もうあのものまね見られないの?」とSNSで世間をザワつかせたが、「引退なんてネットニュースに書かれて僕自身びっくり(笑)。番組は卒業したけれど、まだまだものまねは続けますよ!」
と噂を一蹴。「やりたいことが山のようにあって、今いろいろなことを一気にスタートさせるところ。むしろめちゃくちゃ忙しくなりました」と、笑顔で近況を語る。
まず新たにスタートしたのがVTubeで、この冬開設したYouTubeチャンネル『コロッケちゃんねる』にVTuber“Vコロッケ”として登場。「若手の育成がこれからの大きなテーマで、VTubeを始めたのもそのひとつ」とコロッケ。『コロッケちゃんねる』では新進パフォーマーの発掘を視野に、さまざまなVTuberとコラボを展開していくという。
「『コロッケちゃんねる』ではものまね芸人はもちろんダンサーやマジシャンなどエンタメで頑張っているVTuberたちとコラボし、彼らを育てていきたい。そしてゆくゆくはVTuberフェスの開催を目指しています」
若手育成のためのアカデミー設立を予定
VTubeの立ち上げに続き、長年温めてきた若手育成のためのアカデミーの設立に着手した。開校は春以降で、講師陣には各界の一流パフォーマーを迎える予定だ。
「志村けんさんともよく話していたけど、昔のように芝居にダンスに歌と全部できる芸人、ヴォードヴィリアンと呼べる人がいなくなってしまった。アカデミーという場を設けることで、エンターテインメントのひとつの道を作ってあげたい。コロッケ校長です(笑)」
カリキュラムは芝居、ダンス、歌、マジックと幅広く、総合的にスキルを磨き、次世代のパフォーマーを養成。
「僕自身はひとつひとつ我流で学んできたから時間がすごくかかってしまった。だから僕にできることがあれば応援していきたい」と話し、その神髄を後進たちに伝えていく。
「美空ひばりさんのものまねをしている人はたくさんいても、日本舞踊を勉強している芸人はいない。ひばりさんが『悲しい酒』を歌うときって日本舞踊の動きが入っていて、そういうところにひばりさんのファンはキュンキュンするんですよね。ただまねして歌うのではなく、首の動かし方ひとつにしても日本舞踊の動きを取り入れるから、さらにひばりさんらしく見える。BTSのものまねにしても、ストリートダンスが踊れることが大前提で、そうでなければ茶化しているだけ。どんなものまねも見た目を似せただけでは嘘になる。そういうところから教えていかなければいけない」
一方、アカデミーの設立と並行して力を入れているのが、飲食店のプロデュース。「実は近々“鍋屋”をオープンする予定!」とコロッケ。
「例えば青森と熊本のご当地食材など、日本各地の旬の味覚がひとつの鍋で楽しめる、県と県とのコラボ鍋を提供しようと考えています。僕も芸能人として各地でおいしいものをいただいてきて、それを還元したい。食を通して日本全国を応援していけたらと……」
メニューはコース料理が中心で、1万円〜で提供予定。場所は麻布十番で、春のオープンに向け準備が進む。
「舞台がない日は僕も店に出ます。内装もちょっと凝っていて、僕のコレクションしているクロムハーツやリーバイス501xxを飾ってみようかな、なんて考えてみたり……。みなさんに楽しんでいただけるよう、あれこれアイデアを膨らませているところ」
総工費5億円の『コロッケ ミミックトーキョー』は自ら閉店
コロッケ・プロデュースでかつて話題を呼んだのが、大型エンターテインメント施設『コロッケ ミミックトーキョー』。'16年に麻布十番にオープンし、総工費5億円というスケール感とパフォーマーの豪華顔ぶれで人気を集めた。ただ赤字だったこともあり'19年には六本木へ移転。現在その店はどうなっているのか。聞けば、コロナ禍で'20年に閉店したという。
「もしクラスターでも発生したらと考えると、こんな時期にお客様を呼ぶのはどうなんだろうと思って。僕を目当てに来てくださる方もいるわけで、コロナ禍で人を集めるのはやってはいけない道理。僕のほうから店を閉めようと言いました」
ちょうど芸能生活40周年の節目とも重なり、予定されていた記念公演は軒並み延期や中止に追い込まれた。その数、実に400ステージ以上。
「コロナ禍のあおりは受けたけど、嘆いてばかりもいられない。ここから次に進むとしたら何ができるか考えて……」
心機一転、2021年2月にコロッケ専門店『コロッケのころっ家』をオープン。東京・新小岩の第1号店を皮切りに、関西、東北、九州、沖縄と怒濤の勢いで店を増やし、オープンから2年弱で計40店舗を構えるまでに。これにはコロッケさんも「本当にびっくり。ますます忙しくなりました(笑)」とうれしい悲鳴を上げる。
「お店でイベントもやりたいし、『ころっ家』のグッズも作りたい。ものまねができる人形なんて作ったら面白いかな、みなさん喜んでくださるかな、と今妄想中です(笑)」
芸人の基本姿勢として、まず第一に「みなさんに喜んでいただけるかどうか」を考える。その精神はデビュー当初から大御所といわれる今も変わらず、徹底して守り続けている。
「僕ら芸人はお客様を椅子にもたれさせていてはダメ。身を乗り出して笑ってもらう努力を常にしなければいけない。けれどものまね芸人は芸能界の中でいちばん勘違いしやすいジャンルで、御本人と同じくらい歌えたりすることで、“自分ってスゴくない?”となってしまいがち。そうではなく、ものまねというのはやらせていただいているんですよね。その気持ちが少しでもあればどんな場も全力で盛り上げようとするはずだし、僕自身ずっとそうしてきたつもり」
1980年、19歳のとき『お笑いスター誕生』でデビュー。デフォルメされた唯一無二のものまねで一世を風靡し、1990年代に始まるものまねブームを牽引してきた。ものまね界のレジェンドとして揺るぎない地位を確立し、一時代を築き上げた今、時代の変化を冷静に見つめる。
「今は面白いものまねより、どちらかというとそっくりなものまねのほうが主流になっていますよね。時間がたてばまた世の中も面白いものまねを求めるようになると思うけど……」とコロッケさん。テレビでのパフォーマンス卒業の理由のひとつに、自身の追求する芸とのギャップがあった。
野口五郎の鼻くそネタがコンプライアンスNG
「野口五郎さんの鼻くそネタが今のテレビはコンプライアンス的に差し障りがあるという。じゃあ自分ができるものまねはひとつもなくなってしまう(笑)。だからといって今から芸風を変えるのも変な話だし、コロッケ流のものまねをゴリ押しするのもちょっと違ってきたのかな、というのは肌で感じていたところでした。何でもそうですけど、やはり惜しまれつつ辞めたほうがいい。引き際が良くないとカッコ悪いな、というのが正直な気持ちとしてありました」
今後『ものまねグランプリ』には審査員として携わり、この先「大きなものまね番組でパフォーマンスをすることはない」と宣言。かわりに「どんどん新しいことをやっていけそう」と、舞台やコンサート、SNSに主戦場を移した。
'22年の秋には芸能生活40周年記念公演も無事完走。コロナ禍で2年先延ばしになっていたが、ステージでは新ネタも続々披露し、待ちかねていたファンの期待に応えてみせた。北島三郎や五木ひろしといったおなじみの鉄板ネタから、香川照之やBTSといった最新ネタまで、今やものまねネタの総数500以上。ファンはもちろん、ものまね相手からも愛され、五木ひろし御本人から直々にゲストとしてコンサートに招かれたこともある。
「だからもう誰も止める人がいないんですよね(笑)。北島さんや五木さんが“もういいよ”と許してくださっている。他の歌手の方や御本人のファンにしても、“あのおふたりがそう言うのならもうしょうがない”となっちゃって(笑)」
年明けは新歌舞伎座での座長公演に始まり、ものまねコンサートや明治座公演の出演も控える。多忙な日々が続くが、「こんな時代だからこそ笑顔になれるエンタメを提供したい。やっぱり僕の場所はそこしかないから」と全力で舞台に向かう。その原動力にひとつの思いがあるという。
「“あの時のコロッケのものまねさぁ”と家族みんなで振り返るアルバムの一ページになれたら、という願いがあって。ファンの方から“昔おばあちゃんとコロッケの公演を見に行って一緒に大笑いしたのが大切な思い出になっています”というお手紙をいただき、僕も人の役に立てたんだと感動したことがありました。みんなの笑顔と会話が増えるキーワードになりたい、そのために頑張っている気がします」
今年芸歴42年。若手が次々台頭するなか、今なおトップを走り続ける。はたしてそのゴールはどこにあるのだろう。
「実は70代になったら始めようと思っていることがあって。でも詳しくはまだ秘密(笑)」
ヒントは?と尋ねると─。
「ある目的があって、全国をぷらっと回ろうと考えています。キーワードは“ひとり”。70代になったとき、“それがやりたかったのね!”と答え合わせをしてもらえたら(笑)」
とはいえ現在62歳で、“答え合わせ”まで10年をきっている。ものまねレジェンドの第2章は始まったばかりで、「この先もずっと走り続けていくつもり!」と勢いを増す。
「一区切りついた今、ようやく次に行けるという思いがあって。ここから先は、目いっぱい手広くいろいろなことをやっていきたい。“この次はどんなことをしたらお客様に喜んでいただけるだろう?”と考えていると、やりたいことが次々湧いてきて、気づいたら朝になっていた、なんてこともしょっちゅう。だから毎日楽しいですね。もうずっとわくわくしっぱなしです(笑)」
<取材・文/小野寺悦子>