第99回箱根駅伝の総合優勝を果たした駒澤大学 撮影/北村史成

 1月2日、3日に行われた第99回箱根駅伝。駒澤大が往路、復路ともにトップで、2年ぶり8度目の総合優勝を果たした。出雲駅伝(昨年10月)、全日本駅伝(同11月)に続く優勝で、史上5校目となる“学生駅伝3冠”を達成。大会直後、駒澤の大八木弘明監督は3月での勇退を発表した。

 年末のレース予想に続き、2度の箱根駅伝出場経験をもち、今大会でも往路、復路ともにNHKラジオでの生中継でゲスト解説を務めた俳優・和田正人に白熱のレースを振り返ってもらった。

勝敗を分けた「山の区間」

 大会前の取材で、和田が「優勝候補は駒澤大の一択」と言い切っていたとおりの結果に。

2度の駅伝出場経験を持つ俳優・和田正人さん

「やっぱり駒澤は強かったという印象ですね。全選手が区間5位以内の記録での走りでした」

 区間賞は6区の伊藤蒼唯選手(1年)のみだったが、

「2桁順位の区間を出さず、安定して上位で走り続けました。そういうチームしか優勝はつかめないんだなと改めて感じましたね。そして、明暗を分けたのはアクシデントへの対応力だったと思います」

 期待されていた花尾恭輔選手(3年)、スーパールーキー佐藤圭汰選手(1年)は出場できなかった。

「大きな戦力を欠きましたが、代わりの選手があれだけしっかり走った。一方、連覇を狙っていた青学は3位。5区にエントリーされていた若林宏樹選手(2年)が直前の体調不良で出走できず、6区を走る予定だった脇田幸太朗選手(4年)を5区に起用しました。そして6区は、西川魁星選手(4年)が走った。その両選手がブレーキとなってしまいました」

 結果を見ると、勝敗を分けたのは5区と6区の山の区間だったが、

でもよくよく見ると、青学は1~4区までも少しデコボコした駅伝をしていたなっていう印象がありましたよね。やっぱり総合力、そしてこの1年間どれだけしっかり練習を継続的に故障なく詰めてこられたか。本当の意味での選手層の厚さが結果に結びついたという気がします」

 一時、8位まで落ち込みながらも、青学は最終的に3位まで巻き返した。

「さすが、底力がありましたよね。9区で5人抜きを演じ、区間賞をとった岸本大紀選手(4年)は見事でした。だからなおさら、もし山の区間を乗り越えていたら……と考えてしまいます」

 大会前、和田は“学生最強ランナー”駒澤の田澤廉選手(4年)と青学のエース・近藤幸太郎選手(4年)による“花の2区”エース対決も見どころに挙げていた。

本当に歴史に残る名勝負を演出してくれました。今まで後れを取っていた近藤選手が、最後の舞台で田澤選手に追いつき、そして同時にタスキリレーをした場面。駅伝ファンは相当興奮したと思います。もちろん、中央大の吉居大和選手(3年)のねばりの力走もありました。さらに4区で、一度は引き離された青学の太田蒼生選手(2年)が、駒澤の鈴木芽吹選手(3年)と競り合った展開には、誰もがワクワクしたんじゃないでしょうか?」

新興校と伝統校の戦力が拮抗

 2位には中央大が食い込み、22年ぶりの表彰台。

「藤原(正和)監督の采配、戦術が本当にうまくいったという感じですね。駅伝で大事な流れをつかむため、前半を上位で進めていけるよう、さらに仮に順位を落とす区間があってもすぐ次の区間で切り替えられるような絶妙な区間配置を組んでいました」

 2区の吉居大和選手、3区の中野翔太選手(3年)の連続区間賞で完全に波に乗った。

「復路も追いかける展開で苦しい部分もあったでしょうが、離されずに食らいついてしっかり結果を出しました。来年以降、優勝を狙ってくるチームになる。そんな力をつけてきていると感じました」

 また和田は今大会での区間新記録の数にも注目。

第99回箱根駅伝のスタート 撮影/北村史成

「2つだけでしたよね。東京国際大のヴィンセント選手(4年)は、走れば区間新記録になるという側面がありますので、それを抜いたら5区の城西大・山本唯翔選手(3年)のみ。元日のニューイヤー駅伝でも同じことが言えますが、厚底シューズが誕生したことで、ここ数年は区間新記録ラッシュでした。

 それが今年になって天井が見え始めたというか、落ち着いた感じが出てきました。区間新記録という言葉がずいぶん安っぽくなりつつあったので、ようやく記録を塗り替えることの本当の凄さを実感してもらえるようになっていく気がします」

 改めて、今大会を一言で表すならば?

「“夜明け前”じゃないですか? 新興校と伝統校の戦力がかなり拮抗し始めています。わりとここ最近強くなったチームが予選会に落ちていったり、古豪がしっかりと復活してきたり。そんな構図が見え隠れしている気がします。だから来年以降の勢力図がちょっと読めないし、優勝予想もしづらい。もう事前のデータだけでははかりきれない時代になってきているのかもしれません。今年はそんな新時代を迎えるひとつ手前、だから“夜明け前”という感じの大会だったように思います」

 来年の話をすると鬼が笑うかもしれないが、次は記念すべき100回大会。秋に行われる予選会は関東の大学だけではなく、全国の大学に参加資格が与えられる。そして関東学生連合は編成されない。そんな新時代にどんなドラマが展開されるのか……早くも来年の号砲が待ち遠しい。


取材・文/荒井早苗

 

 

第99回箱根駅伝の総合優勝を果たした駒澤大学の大八木弘明監督を胴上げ 撮影/北村史成

 

第99回箱根駅伝の総合優勝を果たした駒澤大学のランナー 撮影/北村史成

 

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