清水ミチコさん(62)

「若いなら、落ち込んだり緊張しても可愛げがあるけれど中年以降は痛いだけ。後ろ向きは見せないほうがプラス」

本物にはない味わいのカニカマを目指して

 コロナ禍ではYouTubeにも取り組み、人気を博しているモノマネ女王の清水ミチコさん(62)。

 清水さんがモノマネを始めたきっかけは、高校時代にテレビで見た歌手の矢野顕子さんのピアノ弾き語りに魅了されたことだった。

「どうしたら彼女になれるだろう」とのめり込んでいくうち、モノマネ芸が人気となり、ついには本人との共演が叶うまでに。

 しかし、そのとき隣に並んだ矢野さんを見て、“本物”と自分は似ても似つかないものだと悟ったという。

「普通なら落ち込むのかもしれない。でも、私は『一流のカニにはなれないけど、カニカマみたいなポジションで人に笑ってもらえる』ということにアイデンティティーを感じたんです」

 自分の不完全さも素直に出すようにしていると清水さんはにこやかに語る。

「気取ったことをやろうとしても結局どこか不自然。『よ~し、相手を冷やかしてやるぞ』くらいに開き直っていたからこそ、いつしか肩の力が抜けてきたのかもしれない」

 子どものころからの皮肉屋気質な発言がいつも周りからの笑いを誘っていた。家族のルーツをひもとくと、ひいおじいさんがキーになるとか。

「彼は自分が面白がるために、人をからかうのが大好きだったそう。それを知ったとき、『なんか、私に似てるな』と思って。

 私もどちらかといえば、人を冷やかすようなことのほうが得意。だったら生まれ持った個性を、のびのび活かせばいいと思ったんです」

人に元気を届けることが自分の仕事

「前に、すごく後悔したことがあって」と、清水さんは過去のライブでの経験を語る。

 あるネタ作りのとき。どうすれば笑いを誘えるか頭をしぼり、脚本の修正とリハーサルを繰り返していた。しかし、ネタが仕上がってみたら「さほど面白くないのでは」という考えが頭をよぎったのだという。

 そんな意識がありながら、「せっかくこんなに苦労したんだから……」と、上演。しかしそのネタは予想どおり、ウケずじまいだった。

「その失敗のおかげで、『独り善がりのこだわりをチマチマ持つのはやめなきゃ』『自分の努力を美化してはいけないのだな』などと気づけたんです」

 子どものころから、「周囲から自然と認めてもらえたことを大切にしよう」という意識が強かった。そのため、自己満足が先行して、スベってしまったときの後悔はひときわ大きいのだという。

「私の子ども時代、『努力は必ず報われる』『明日を信じて』といった偽善的な言葉が流行っていた。でも、それって本質じゃない。力を抜いたほうが生きやすいし、どうせ世界は厳しいのだから、私は厳しい言葉のほうが尊いと感じます」

 シビアで地に足のついた哲学を持つ清水さんだが、芸風はいつもコミカルで楽しげ。その源も、やはり多くの人に受け入れられる喜びにある。

「これは糸井重里さんの言葉なんですけど、商売の目的というのは一見お金のようでも実際は自分が人に喜んでもらえること。

 そのうれしさは、結果自分に何倍にもなって返ってくるんですよね。エネルギーが欲しいときは、本や映画に触れるよりも、元気な人に直接会うのが一番効果的。

 だからライブをやるときは、『絶対にお客さんを元気にして帰すぞ』という意識でいます。やっぱり、人に元気を届けることが私の仕事だから」

「ウケる」とは「受け入れられること」だと語る清水さん。

 その喜びに味をしめてしまったからこそ、ライブはやめられないのだという。

褒めてもらうことの少ない中年にすすめる「ノート」

 誰しも、悪い言葉には取りつかれやすい。もし10人中9人が褒めてくれても、1人が悪口を言っていたら、影響されてしまうのが人の性だ。

 しかしそのなかで、清水さんは人から言われてうれしかった褒め言葉や、日々のなかで「深いな」と感じた言葉をノートに書いておく習慣を20歳ごろから続けている。

「今はだいぶ図太くなれたけど、若いころはかなりメンタルが華奢でした。そんなときは、お風呂に入ったり、カラオケに行くなどの『実際のアクション』に移して発散させていたんです。ノートを書くのもその一環でしたね」

 人の記憶は、良い経験や言葉をすぐに削除してしまうところがあると清水さんは言う。そうしたネガティブさに負けないためには、行動の積み重ねによって脳のスイッチを機械的に切り替えてしまえばいいのだ。

「大切にしたい自分の長所や、気に入った言葉を文字に起こして、ノートに残しておけば『自分の人生も案外、悪くないぞ』っていう一冊の証拠になる。

 そして落ち込んだときはそれをパラパラめくるようにすれば結構励まされます。これまでも自分の書きためた文字によく救われました」

 また、清水さんに言わせれば、「平気なフリをする」のも一種のモノマネ芸。イメージとしては、「なりたい自分の着ぐるみを着ている」ように振る舞うと、自信がつくことも大いにあるという。

「私の夫の体験談ですが、昔、着ぐるみのバイトをしたら、人の視線が全然気にならないから、自分でも驚くほど気が大きくなり、大胆に振る舞えたんだそうです。一枚仮面をかぶると、そういう効果が得られるんだと思います」

 人前では、理想を演じる仮面をかぶったモノマネキャラで構わない。でも1人のときは、落ち込んだ自分のために元気のタネを準備しておく。そんな適度な逃げグセを持って自分らしく生きるのがいい。

「常に『面白いほうが勝ちだ』という意識があります。自分だけの笑いではなく、“みんなの笑い”になることが私にとっての要です」飄々と力強く、清水さんは語った。

モノマネ相手からも愛される清水ミチコさんの魅力

 清水さんのモノマネレパートリーのなかに、歌手の松任谷由実さんがいる。

 ユーミンのニセモノ、「ユーミソ」としてユーミンのラジオ番組に出演したり、自身の全国リサイタル・ツアー【~カニカマの夕べ~】の裏テーマが「祝ユーミン50周年!」だったりと、モノマネ対象である本人との関係は良好だ。

 自らは、「モノマネは一種の冷やかし」と話す清水さん。普通であれば、相手の怒りを買ってもおかしくないが、どこか憎めず笑いを誘う。そんな不思議な魅力が清水さんらしさ。

「ユーミン」と、「ユーミソ」が駐車場でばったり遭遇のシーン。『清水ミチコWEB』公式ブログより
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お話をしてくれたのは……清水ミチコさん●岐阜県出身。1987年にCDデビューし、以来テレビ、ラジオ、映画、執筆、音楽等、幅広い分野で活躍している。2月18日、19日のLINECUBESHIBUYA(東京)ほか、全国各地でライブツアー「清水ミチコリサイタル~カニカマの夕べ~」を開催中。

(取材・文/オフィス三銃士)