2022年4月から、不妊治療での体外受精や顕微授精などが保険適用となり、治療費が高額な場合の高額療養費制度も受けられる。
一方、その保険の適用には女性の年齢が43歳以下であること、40歳未満は通算6回まで、40歳以上43歳未満通算3回までと回数の条件もある。
美容家の上田実絵子さんの体験した妊活とは
2022年、不妊治療の末、53歳で出産したのは美容家の上田実絵子さん。都内で美肌&小顔リフトアップのサロン「レーナ・マリアSPA」を主宰しており、30代は仕事に邁進。出産を考え始めたのは40代になってからだった。
「41歳のとき卵巣にチョコレート嚢胞が見つかり、妊娠しづらくなる可能性をドクターから指摘されました。そこで初めて子どもを持つことを真剣に考え、まずは卵子を凍結したのです。妊娠の予定はまだ念頭になかったものの、41歳以降は定期的に排卵や女性ホルモンの数値チェック、AMH検査(卵巣予備能検査)を受けたりはしていましたが、年齢よりも数値が若かったので自然妊娠が可能だろうと甘く考えていました。また、凍結した卵子を保管してもらうにはお金がかかります。契約期限を更新しなかったので、保管した卵子を使うことはありませんでした」(上田さん、以下同)
その後、現在の夫となる男性と交際がスタート。
「彼は子どもはいらないと言っていましたが、私の両親には孫がおらず、最後の親孝行として初孫の顔を見せてあげるためにも、妊活に協力してほしいと彼に頼んだのです」
46歳で再び卵子を凍結し、受精卵も凍結したが、41歳の卵子と46歳の卵子は違うという現実を知ることに。
「『年齢はさておき、ホルモン数値的に健康体なのにどうして妊娠しないのですか』とドクターに尋ねると、『卵子は老化するので、年齢とともに正常胚ができにくく、また着床も難しくなる』と言われ、とてもショックでした。妊娠できる身体をキープするため、食事や運動に気を配ってきましたが、卵子を若返らせるのは難しいのです」
それでも諦めきれなかった上田さんに、朗報がもたらされた。
「当時は英語の通訳者でもある夫と、毎月ドバイに出張をしていました。その際に、クライアントであるドバイのロイヤルファミリーからドクターをご紹介いただいたことがきっかけとなり、海外での不妊治療をスタートさせることができたのです」
7か国の病院に夫婦で足を運んだ
日本では1回の診断は4万~5万円、卵子や受精卵の凍結は保管料も含めると100万円以上、海外では渡航費や滞在費もかかる。
「本格的に不妊治療の世界に足を踏み込んで、すさまじくお金のかかることだと身をもって体感しました。でも、私は40代後半で時間がなかったので『自分の人生に後悔のないようにやれることはやる』と腹をくくりました。結局、7か国の病院の不妊治療を受けながら、世界各地のドクターから多くの妊活の知識を得ました。コロナ禍になり渡航できなくなってからは、国内の5つの病院に行きました。
費用は、通算10年以上もの妊活なのでかなりかかったと思います。夢を叶えるのは大変ですね」
40代後半になると更年期の症状が現れたり、閉経する人も出てくる。しかし、上田さんは月経も規則的で、排卵もしていたので、タイミング法にもトライした。
「タイミング法は、お互いにプレッシャーがかかり、夫婦仲がぎくしゃくしやすいもの。私たちの場合、年齢的なことも考えると最初から体外受精をするべきだったかなと思います」
一方で、愛犬を飼い始めたことが妊活にいい影響をもたらしてくれたという。
「妊活にストレスは禁物ですが、かわいい犬に癒されて、夫婦仲がとてもよくなりました。夫は犬を飼ったことで、子どもがいる生活をイメージできたようで、積極的に妊活に協力してくれるようになったのです。地方のクリニックを訪ねるときは、温泉もセットにして旅行気分で明るい気持ちを保つことを心がけました」
とはいえ、なかなか妊娠することができず、「これで最後!」と決めて、52歳のときに受精卵を移植することに。
「ダメでもともとという気持ちで、ドバイで凍結していた受精卵を海外で移植し、着床に成功しました。各国のクリニックを来訪しましたが、バンコクのクリニックはアメリカやドイツの最先端の生殖医療を取り入れ、日本よりもずっと進んでいたことに驚きました」
前置胎盤、コロナに感染した中で……
お腹が大きくなってもスタッフには気づかれることがなかったという。
「スタッフや顧客に心配をかけたくはなく、最後まで責任を持って仕事をしたかったため、身内以外には妊娠の事実を伝えていませんでした。実はここ数年、妊娠するために15キロ痩せて、そこから今回の妊娠で15キロ太ったので、スタッフは『リバウンドしたのかな』と思っていたようです(笑)。帝王切開で出産時期が決まっていたため、入院直前に『出産のため1か月休みます』とスタッフに伝えたときは、大変驚かれました」
妊娠後期には、前置胎盤と判明し、コロナにも感染して、緊急入院することに。
「前置胎盤は胎盤が正常より低い位置に付着してしまい、出産時に大出血をしたり、赤ちゃんに危険が及ぶことがあります。通っていたクリニックでは対処できないと言われ、大学病院へ転院を余儀なくされました。さらにはオミクロン株に感染。そのうえ高血圧症にもなり血圧が170を超えたため、結局予定日より早く緊急帝王切開で出産。
結果、超高齢出産でありながらも2554グラムの元気な娘が生まれてきてくれたことは、奇跡の連続の末であったということを改めて実感しました」
両親に孫を抱いてもらうという夢も叶えることができた上田さん。
「両親はとても喜んでくれていますが、80代なので、赤ちゃんをずっと抱っこできるような体力はありません。せめてあと10年早く産んでおけば、親も孫と遊べたのに……という気持ちになりました。私自身も50代で仕事をしながらの子育てなので、『すべて自分の手で』とは考えず、シッターさんにサポートしてもらっています。少子化対策がいろいろ行われていますが、子育て中の外部サービスが使える補助がもっとあれば、『働きながら子育てできる』と女性も出産しやすくなるのではないでしょうか。そんな私が将来出産を考える女性たちにお伝えしたいのは、結婚や出産の予定がすぐになくても、20~30代のうちに卵子凍結をひとつの選択肢として視野に入れていただきたいということです」
最後に妊活をしている読者へのアドバイスをいただいた。
「私は7つくらい国内の病院を受診しましたが、親身になってサポートしてくれる、自分に合ったドクターを探すことが大切です。合わないと感じたら、転院をする決断も必要です。お金がかかるということも覚悟してください。また、不妊の原因が女性側か男性側かは半々といわれていますので、パートナーにも検査を受けてもらいましょう。なお、『妊活をするのは何歳まで』とタイムリミットを決めると、時間やお金の目安にもなります。
また、私たち夫婦はパワースポットとして知られる(東京)大手町の『将門の首塚』に願掛けに行っていましたが、妊活中は心の安定が大事。寺社仏閣や自然が多い場所に行くのもおすすめです」
上田さんのケースのように、超高齢出産には、まずは情報収集力が必要だ。
【上田さんの妊活年表】
30代 経営者として仕事が楽しく、妊娠・出産のことは考えずに働く。
41歳 卵巣にチョコレート嚢胞が見つかり、今後の妊娠が難しくなる可能性を指摘される。卵子を凍結。妊活をスタートし、ホルモン数値などを計測するように。
46歳 妊娠できる身体をキープするため、食事に気を配り、有酸素運動も始める。凍結していた卵子の保管期限が切れる。パートナーと交際をスタート。
ドバイで卵子と受精卵を凍結。
47歳 海外の不妊治療の名医を訪ね、情報を収集。タイミング法にもトライし、自然妊娠も計画するがうまくいかず。
49歳 受精卵が着床せず心が折れる。
51歳 犬を飼ったことで、夫婦の距離が縮まり、ストレスが軽減する。
52歳 ドバイで凍結した受精卵を移植し妊娠。
53歳 妊娠後期で前置胎盤になり、コロナに感染。緊急帝王切開で出産。シッターサービスを利用し子どもを預け、出産後3か月で仕事に復帰。
インスタグラム→https://www.instagram.com/
(取材・文/紀和 静)