ドラマ『大病院占拠』の撮影中の櫻井翔(2022年)

 嵐の櫻井翔(40)は多才だ。『news zero』(日本テレビ系)でニュースキャスターを務める一方、『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)などのバラエティの司会を担当している。どちらもソツがない。特にニュースキャスターとしての知性とバランス感覚の良さが光る。

櫻井翔が『大病院占拠』で主演

 俳優としても活躍している。1月14日からは日本テレビ系の冬ドラマ『大病院占拠』(土曜午後10時)に主演する。

 俳優のキャリアは23年。これまでのドラマの主演作は20本もある。押しも押されもせぬ、第一線の俳優にほかならない。

 もっとも、櫻井の代表作は何かと問われたら、考え込んでしまう。多くの人がすぐに思い浮かぶのは、視聴率的にも成功し、映画にもなった『謎解きはディナーのあとで』だろうが、この作品は北川景子(36)のアクの強い演技と椎名桔平(58)の怪演抜きには語れない。

 櫻井が演じたのは主人公の執事兼運転手・影山だった。世界的にも有名な企業グループ「宝生グループ」社長の1人娘・麗子(北川)に仕える男だ。

 立場を隠し、新人刑事として国立署に勤務している麗子は難事件にぶつかるたび、その一部始終を影山に語って聞かせた。

 その話を聞いた影山は麗子の推理ミスを指摘。一方で、自分はスラスラと事件の謎を解いた。勝ち気な麗子が悔しがるのが愉快で、北川が得意とする役柄の1つだった。

 国立署警部・風祭京一郎を演じた椎名は、シリアスな演技もうまいが、ダメな男役も絶品。風祭はマヌケで、推理力はトホホ。余計なところで実家が大金持ちであることを自慢するイタい男だった。北川と椎名がこの作品のコメディ色の核となった。

 シリアスな場面でも櫻井は北川と椎名に支えられた。言い方を変えると、2人の存在感に押され気味だったと言わざるを得ない。そもそも原作の同名小説の主人公は麗子。櫻井による影山を主人公とすることには無理を感じさせた。

 櫻井が主人公の大学教授を演じた映画『ラプラスの魔女』(2018年)もそう。特殊な予測能力を持つ少女役の広瀬すず(24)、自殺に見せかけた殺人事件を追う刑事役の玉木宏(43)、事件のカギを握る映画監督役の豊川悦司(60)に押されているように見える場面があった。誰が主演なのか分かりにくい場面もあった。

 一方、ドラマはこのところヒットに恵まれていない。広瀬すず(24)とダブル主演した日本テレビ系『ネメシス』(2021年)で探偵役に扮したが、作品は高い評価を得るには至らなかった。

 ドラマの良し悪しを決めるのは第一に脚本だが、櫻井にも責任の一端があるのかも知れない。「俳優専業でないのだから、仕方がない」という声も上がるはずだ。とはいえ、兼業は自分で選んだ道なのだから、それは理由にならない。共演者も視聴者の大半も「俳優以外もやっているのだから大目に見なくては」とは思わない。

 嵐の仲間である松本潤(39)は1月8日スタートのNHK大河ドラマ『どうする家康』に主演している。二宮和也(39)は民放屈指の花形ドラマ枠である『日曜劇場』(TBS系)に2度主演した。『ブラックペアン』(2018年)と『マイファミリー』(2022年)である。櫻井が大河ドラマや『日曜劇場』に主演する日は来るのだろうか。

 才能は間違いなくある。ニュースキャスターも司会も演技も「表現」という点で同じであるからだ。2016年に嵐がリリースしたアルバム『Are You Happy?』に収められた『Sunshine』などのソロ曲も評価も高い。歌もまた表現だ。

 櫻井が20歳のときに演じたTBS系『木更津キャッツアイ』のバンビこと中込フトシ役も素晴らしかった。しょうもない仲間の中で唯一、普通っぽい青年だった。仲間の暴走に戸惑う姿に真実味と説得力を感じた。櫻井の素顔と重なり合う部分もあったのだろう。

 主演のぶっさんこと田渕公平役の元V6・岡田准一(42)との息も合っていた。もっとも、これはジャニーズ事務所の同志ということで当然に違いない。その同事務所内での厚遇が俳優としての櫻井にとって、マイナスになっていたのではないか。

櫻井翔が『news zero』のキャスターになったいきさつ

 櫻井の『news zero』のキャスター就任は2006年。当時、日テレの絶対的権力者だった故・氏家齋一郎元会長とジャニーズ事務所の故・メリー喜多川会長のトップ会談で決まった。

 氏家氏はメリー氏と懇意であり、櫻井の父親でテレビ局の監督官庁である総務省の事務次官を務めた桜井俊氏(69)とも交流があった。そんなことから、氏家氏は櫻井の将来をわざわざ考え、キャスターに就任させた。

 氏家氏に近かった日テレ関係者によると、氏家氏はメリー氏に対し、アイドルとしての人気はいつまで続くか分からないから、キャスターをやらせたほうがいい、と勧めた。氏家氏は慶應大学経済学部卒である櫻井の知性を買った。

 こんな形で仕事が決まるタレントなんて聞いた試しがない。ジャニーズ事務所には幹部候補と呼ばれるタレントが何人かいるが、櫻井は別格扱いなのである。

 氏家氏とメリー氏の青写真通り、櫻井はキャスターとして成功した。司会ぶりも好評を博している。半面、俳優としての評価が定まらないのは、演技の仕事をする時間が少ないからである気がしてならない。キャスターと司会で忙しいからなのか、ドラマは2年に1回、映画は3・4年に1回しか出ていない。これでは芝居の勘を掴むのが難しいはず。

 また、どんなに大物でも売れっ子でも舞台の仕事を大切にする。演技力を高められるからだ。舞台は編集で誤魔化すことが出来ず、やり直しもきかないので、稽古を繰り返す。おのずと演技力が磨かれる。だが、多忙な日々を送る櫻井は2006年に『ビューティフル・ゲーム』に主演して以来、舞台がない。

櫻井翔が目指すべき俳優像

 大御所の映画監督で大阪芸大教授も務めた中島貞夫氏(88)に名優の条件を教えてもらったことがある。名優には2通りある。

 1つめは自分自身の個性や魅力を役に投影させるタイプ。故・高倉健さん(享年83)が代表格だ。良い意味で、どんな役を演じても健さんだった。2つ目はどんな役にも成り切るタイプ。劇団出身者に多い。現在だと堺雅人(49)が筆頭格である。

 櫻井は健さんと同じく、本人に清潔感や知性などの魅力があるので、1つめの名優を目指すべきではないだろうか。極端な話、櫻井に極悪人役などは無理だろう。似合わないはずだ。

 新ドラマ『大病院占拠』も櫻井のキャラを生かした役柄になりそうだ。若き警部補に扮し、謎の大病院立てこもり犯たちと戦う。新たな代表作と呼ばれるようになるか。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。
'23年1月放送予定のドラマ『大病院占拠』のロケに臨む櫻井翔(2022年)

 

ドラマ撮影を行う櫻井翔('22年11月)

 

'23年1月放送予定のドラマ『大病院占拠』のロケに臨む櫻井翔(2022年)

 

『ネメシス』のロケに臨む櫻井翔(2022年)

 

充実した表情で、江口洋介ら共演者と談笑していた櫻井翔