私たちの食卓に日常的にのぼる食パン。身近な食品だが、高級食パンブームの先駆けとなり、有名人にもファンが多い『乃が美(のがみ)』で今、異変が起こっている。
「『乃が美』のフランチャイズオーナー(以下、FCオーナー)たちが、本部にロイヤリティの引き下げを申し入れていることを『文春オンライン』が報じました。コロナ禍の影響から売り上げが低迷し、ロイヤリティを支払うために借金をするオーナーがいるというのですから、衝撃でした。最近では、店舗の閉店が相次いでいます」(経済誌編集者)
FC店のほとんどが赤字
『乃が美ホールディングス』は、2019年に投資ファンド『クレアシオン・キャピタル』と資本提携し、上場を目指していた。ロイヤリティを下げれば本部の収益が減少し、上場に差し支えるとして、頑なにFCオーナーたちの要望に応じなかったというのだ。
ビジネスモデルとして、『乃が美』本部とFCオーナーは両輪の関係であるはず。FCの収益が下がれば、ロイヤリティの支払いも滞り、閉店へ。これが続けば、本部の収益も減少してしまう。
現役のFCオーナーのA氏が、匿名を条件に『週刊女性PRIME』の取材に応じてくれた。
「高級食パンブームのときは、売り上げはとてもよかったですよ。いい思いをさせてもらった、というのは事実です。しかし、ブームが去った2019年ごろから売り上げが落ち、赤字が続くようになりました。全国でも有数の売り上げを出す店舗のオーナーですら“数店舗は黒字でも、エリア全体でみたら赤字”と話していたので、FC店のほとんどが赤字のはずです」
と、淡々と話す。
新型コロナウイルスが蔓延し、さらに売り上げは下降線をたどっていく。
「そこからは、ずーっと赤字です。毎月300万円ほどの赤字の垂れ流しで……どうしようと頭を抱える日々でした。それでも売り上げの10%というロイヤリティ料は変わらず、引き下げてはもらえない。FC契約をやめようと思っても、契約期間中に解除をすると、違約金として1年間分のロイヤリティを支払う必要がありました。銀行から借金もしていましたし、違約金を払う余裕もなく、やめるにやめられず……。負債は2億円ほどに膨れました」(A氏、以下同)
全国に200店舗以上も支店がある『乃が美』だが、直営店は16店舗のみ。
近年では直営店の売り上げも減少していた。
「食パンブームが去った2019年ごろだったと思います。“テレビCMを出すためのお金が必要だが、本部だけでは厳しいから協力してほしい”と、1店舗につき毎月5万円を支払うよう求められました。全店舗数で割った負担分が5万円だと思っていたので、その話があった後に新しく店舗が増えたら、母数が増えるので減額されるのだと思っていました。それなのに新店舗ができても同じく5万円を徴収されるのです。CM費という名目の資金集めとしか思えません」
報道後は社内で犯人探しも
今年に入ってからは、こんな経費削減も……。
「店舗の改善指導をしてくれるスーパーバイザーが2022年はほとんど店に来ず、リモート通話でのやりとりでした。緊急事態宣言も解除され、行動制限があるわけでもないのに、です。どうして来ないのかと理由を聞いたら、交通費がかかるから、と……」
店舗の運営状況を確認し、商品の品質を維持するのもスーパーバイザーの仕事のはず。なのに、店舗に足を運ばないのは、怠慢以外の何物でもないという。しかし、それほどまでに本部の経営も追い込まれていたのだろう。
「『文春』の記事が出た後は、誰がリークしたのか、社内で犯人探しが行われています。会長兼社長が必死のようで、あの手この手で炙りだそうとしているようです。告発者は発見次第、処分を課すのでは……。私たちFCオーナーには誓約書が送られてきました。これ以上、マスコミに口外しないこと。口外した場合は刑事告訴をするという内容が書かれていました」
『乃が美』のFC店には『はなれ』という名称がつく。この窮状を変えようと、『はなれ』のFCオーナーたちは『はなれの会』を結成し、2022年2月には本部にロイヤリティ料の引き下げを申し入れた。もちろん受け入れられることはなかったが、その『はなれの会』にも変化が。
「告発後も、ロイヤリティ料を下げるという話は出ていません。というか、交渉しているオーナーはもういないのではないでしょうか。『はなれの会』も本部から“解散するように”と言われて、数か月前になくなりました。本部からすると邪魔な存在だったのでしょう。強く意見をすれば、本部の対応は冷たくなり、オーナー会議すら呼ばれなくなった人もいました。そうなると、キャンペーンや新商品の情報などがいっさい入ってこなくなるんです。そんなふうに“干される”のが怖くて誰も意見を言えませんでした」
そんな中、本部の経営方針に異議を唱え続け、今は『乃が美ホールディングス』と裁判で争っている元FCオーナーがいる。そのB氏が話す。
「私は『乃が美ホールディングス』と資本提携をしている投資ファンド『クレアシオン・キャピタル』に、FC契約をしないかと勧誘されたことがきっかけで店を始めました。そこで示された勧誘資料には、都内店舗の売り上げ実績が書かれており、単月の人件費に関する記載もありました。しかし、実際に運営したら、どうやってもその数字に抑えることができないのです。2020年7月から2022年3月までに都内で8店舗をオープンさせましたが、単月で黒字になったことは1度もありませんでした。そればかりか、ピーク時には毎月1000万円の赤字が続き……」
B氏は本部に訴えるも、望んだ支援は得られなかった。
「本部の人間が店舗に来ても、形だけの指導をするだけ。ポスターやポップにしても、システムからダウンロードしたものを、どの紙にどの大きさで印刷し、ポスターフレームは何を使うのかなどのアドバイスはいっさいありません。品質チェックのため、毎月パンを本部に送るのも、元払い。ロスは買い取りさせられ、CM費用も負担させられる。加盟店に経費を全部持たせておいて、同業他社のような新商品の開発もほとんど行わない。じゃあ、ロイヤリティはどこに使っているのでしょうか」
現行オーナーへの見せしめとしての裁判
調停を申し立て、ロイヤリティの引き下げ交渉などを行っていたが、一向に進展しなかった。業績は悪化を続け、ついに資金が底をつく。
「事業継続が厳しくなり、2022年6月末に一部の店舗を閉店しました。それと、マイナスを取り戻す必要があり、『乃が美』とはまったく違う店舗内装や設備を使い、新たな商品ラインナップを揃えたパン店を立ち上げました」
これに『乃が美』は、同社のノウハウを利用して同じ業態の店舗を開くことは“競業避止義務違反”だとして2022年7月にB氏とのFC契約を解除した。
「そもそも、実態と違う数字を提示して、利益も出ないFC事業を契約させることがおかしい。そのため、『乃が美ホールディングス』との契約は無効であると審理してもらうため、2022年8月に“1円”の損害賠償を求めて提訴しました」
金額が“1円”なのは、どうしてか。
「私は総額で約5億円という損失を被りましたが、そのお金を取り戻すことが目的ではありません。全国に200店舗以上を有する企業が、契約を盾に優越的な立場を利用して、多数のオーナーが苦境に立たされている中、ロイヤリティを搾取する行為は異常です。裁判所には“契約をしたのだから悪い”という杓子定規な判断ではなく、この現実を理解してもらい、FC加盟店がまっとうなビジネスができるような判断を下してほしいと思ってのことです」
この訴訟を受け、『乃が美』はB氏が新たに展開した店舗営業は競業避止違反であるとして2022年9月、B氏に損害賠償を求めて反訴。
「競業避止義務は本来、加盟店がロイヤリティから逃れて儲けようとするのを防ぐための条項であり、そもそも利益が出ず、追い詰められている人に対して、さらに追いはぎをかけるのが目的の条項ではないはず。複数の関係者の話では、『乃が美』が私に対して起こした裁判は“現行オーナーへの見せしめである”と、社長が話していたと聞いています。FC事業というのは、加盟店が苦しいときは、本部がそれを支えるものではないのでしょうか。なのに、その“フリ”すらないのです」
力で押さえつける、企業の姿勢に疑義を呈する。
「上場のためにだけに、業績低迷にあえぐFCオーナーの状況を無視する方針は、ビジネスの本質として間違っている。私が『乃が美』の店舗を閉店したとき、店頭に張り紙でお客様センターの電話番号を載せたのです。すると、本部から“今すぐ削除しろ”と連絡がありました。私もパン自体はおいしいと思って契約しましたし、『乃が美』のファンもいらっしゃるはずなのに……」
こうしたFCオーナーたちの声に『乃が美ホールディングス』はどう答えるのか――。「高級食パン『乃が美』とFCオーナーが双方を訴える裁判トラブル! 本部が回答した店舗の閉店相次ぐワケと反訴の経緯【#2】」に続く。