1月8日から始まった松本潤主演の大河ドラマ『どうする家康』は初回の世帯視聴率は15.4%。前作『鎌倉殿の13人』の初回17.3%を下回ってのスタートだった。大河62作中25作と最多登場となる徳川家康の生涯を描く。“シン・大河”ともいわれる注目作を大河ファンのドラマウォッチャー3人が斬る。
――頼りないプリンスとして描かれている家康。初回を見た感想は?
エスムラルダ(以下、エスム)「大河ドラマの歴代家康の9割は貫禄があり、幼い頃から忍耐強く、賢い(あるいはずる賢い)という描かれ方でした。私の場合、幼少期に見た『おんな太閤記』(1981年)のフランキー堺さん、『徳川家康』('83年)の滝田栄さんのイメージが強烈に残っている。あとは複数回、家康を演じた北大路欣也さん、津川雅彦さんのイメージも強い。いずれも通説を元に作家の山岡荘八さんが作り上げた人物像がベースになっていたように思います。
しかし今回はまったく違う。『おんな城主 直虎』(2017年)で阿部サダヲさんが演じた家康に近いが、その家康もかなり狡猾さを持ち合わせていました。今回の家康がずっと今のキャラクターのままいくのか、徐々に狡猾さを身につけていくのかは気になるところです」
“うんこ漏らし案件”を“どうする”!?
神無月らら(以下、神無月)「私は好きな路線です。お人形遊びが好きで、自分の所領への責任感や忠臣たちへの信頼はまだ目覚めていない。これから三河当主として覚醒していく家康をみせていくのに、たっぷりと落差をもたせた“弱虫キャラとしての家康”をきっちり示した初回だったと思います。毎話、決断を迫られて“どうする? どうしたらいい?”と成長していく家康。タイトルどおりの家康像をみせていくんだ!という所信表明のような始まりだと思いました」
成田全(以下、成田)「寺島しのぶさんによるナレーションは過去の歴史小説や大河ドラマなどで描かれた家康像でしたが、「もう嫌じゃ……」という後ろ向きなセリフで始まった『どうする家康』での家康の行動とかけ離れていて、正反対であるというのがミソになっています。
山岡荘八原作、小山内美江子脚本、滝田栄主演の『徳川家康』の我慢強く立派な家康とは真逆の弱虫であり、『徳川家康』が放送された40年前よりもさらに進んだ最新の歴史研究を取り込んで描こうとしていることは感じられました。ただ重厚な大河ドラマのファンには少々物足りなかったかもしれませんね」
――初大河&初主演のマツジュンの演技は?
エスム「第1回を見た限り脚本家が意図する家康像は的確に演じているように思う。あとは今後、大人になっていく家康をどう演じていくのかだと思います」
成田「まだ10代の家康なので今は軽めのノリや高めの声でもいいのですが、これから20代、30代、40代と年齢を重ね、最後は亡くなる70代まで演じると思うので、声を腹から出して低く、太くし、武士としての威厳を出していけるのか、また“タヌキ”といわれる策略家の家康像とどう結びつけていくのかを注視したいです。個人的には有名な「三方ヶ原の戦い」(武田信玄との戦いで大敗)での“うんこ漏らし案件”を“どうする”のか個人的に注目しています(笑)」
――有村架純演じる瀬名(築山殿)との関係はこれまでと違っています。
エスム「私の築山殿は『徳川家康』で池上季実子さんが演じていた今川義元の命によって家康と結婚させられた、気位が高く自分の気持ちに正直になれない女性(悪妻)というイメージ。今回の瀬名はまったく異なるキャラクターで、最初から家康と相思相愛なので今後の悲劇的な展開(信長の命令で家康が長男の信康と正室の築山殿を殺害)がより際立ちそう。その過程がどのような解釈によって描かれるのかも興味深いです」
映像と脚本について
神無月「瀬名のキャラクターも斬新ですよね。お人形遊びに興じる家康と一緒に遊んでしまうという(笑)。『直虎』で菜々緒さんが演じた瀬名は(今川義元の息子)氏真に惹かれているのに人質の家康と結婚させられる。徐々に惹かれていくが夫の尻を叩いて出世させようとするキャラクターに描かれていました。本来なら、『直虎』の瀬名のような解釈が一般的だと思います。
今回の有村さん版瀬名は、ある意味、お花畑的な(笑)平和志向の女性ですよね。出世欲はなく夫と子どもと平和に暮らせればいい。そういう意味では戦を好まない夫と志が同じ“家康のソウルメイトとしての瀬名”という位置づけだと思いました。あと、瀬名との婚姻を賭けて氏真と家康が対決する場面では、取っ組み合いがどう見ても“それは現代柔術やろ?”という関節技で氏真をねじ伏せていましたが、あれを家康に仕込んだのは信長(岡田准一)だと決めつけています(笑)。
幼少期の家康をいたぶる信長が、第2回の予告で槍に生首を串刺しながら「待ってろ、俺の白うさぎ」とつぶやくのは、強キャラ好きの大河ファンやBL好きのファン層の心をぐっとつかみ「来週も見る!」という効果になったのではと想像します」
成田「家康と瀬名がいきなり森の中でのファンシーな設定でキャッキャッと一緒に遊んでいたと思ったら、すぐに結婚、出産と駆け足だったので面食らいました。もともと築山殿は家康の尻を叩く悪女として知られて来た人物。今後、家康との関係性をどう描くのかはまだわかりませんが今後ツラ~い展開があるので、そこを初回のコメディタッチからどう変化させていくのかは見どころでしょう」
――映像の印象はいかがでしたか?
成田「『鎌倉殿の13人』ではセミや鳥の鳴き声、風や雷など自然の音がその後の展開を暗示していましたが、『どうする家康』では空の色が家康の心情を表しているそうです。しかしちょっとやり過ぎかなと感じるくらい画面全体がマットな色調で、ゲームやネットフリックスなどの配信ドラマのような質感でした。新たな大河ファンを獲得しようと作っている印象をとても強く受けます。
また思うように撮影ができないコロナ禍だからこそインカメラVFXやLEDウォールを使ったスタジオ撮影や、動物愛護の観点からCGの乗馬シーンなど最新技術を導入しているそうです。今の時代に仕方ないのはわかるけど、どうしても生の臨場感や空気感が希薄になってしまうので、従来の大河ファンとしては見ていて違和感が拭えませんでした」
神無月「画面に関しては、成田さんのおっしゃるとおりで“なるほど!”と膝を打ちました。本当にそんな作りですよね。私はオーソドックスな画面が好きな保守的な女なので(笑)ちょっと頭を切り替えてファンタジー画面を1年楽しもうと思います。
脚本の古沢良太さん(『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』)の作劇スタイルが好きなので、古沢さんらしく目いっぱいふざけつつ歴史上の人物のそれぞれに血の通った物語がみられるはずで“新しい家康像”にもとても期待しています」
成田「古沢脚本なのでコメディ要素や突飛な設定とキャラクターがあるだろうとは予想していましたが、思っていたよりは抑え気味でした。有名な合戦を早々に出すなど比較的ベタで、倍速視聴並みの早めな展開なのは歴史に詳しくないライト視聴者層を飽きさせない配慮なんでしょう。今後、古沢脚本らしい話が行きつ戻りつ展開があるはず。その脚本に視聴者がついていけるかが好き嫌いの分かれ目になると思います。
脇を固める役者陣には錚々たる俳優が揃い、演じるのは戦国時代の一癖も二癖もあるキャラクターばかり。しかも戦国時代は謀略や合戦で命を狙われるのが日常ですので飽きてしまうことはないとは思うのですが……。今後は家康自身が“どうする?”と悩む展開だけでなく、周りの猛者たちが“家康……どうしてやろうか?”と頭を痛める展開もありなのかなと予想しています」
◆プロフィール
エスムラルダ ドラァグクイーン、脚本家、歌手、俳優。大河ドラマは『花神』(1977年)から断片的に記憶し、『おんな太閤記』('81年)以降ほぼ全作を鑑賞
神無月らら 日本の端っこで好きなドラマを見続けているドラマウォッチャー。大河ドラマは『龍馬伝』(2010年)から本格的に視聴鑑賞
成田 全 1971年生まれ。イベント制作、雑誌編集、漫画編集等を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。初視聴の大河ドラマは『徳川家康』('83年)
※視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区