総再生回数が2000万回を超える「おじキュン!」。世界中から「可愛い!」との声が寄せられた(TikTokより)

 お笑い芸人のアキラ100%(48)が昨年11月に自身のTwitterで「TikTokのアカウントが永久停止された」と告白。“永久停止”と表示されたTikTokのスクリーンショットと共に、「セクシーな気持ち0%なのになぁ。がっくし」と嘆きのコメントを投稿している。アキラ100%の“裸芸”はTikTokのコンプライアンスに抵触したようだ。

「アカウントの永久停止というのはSNSではわりとよくある話。裸の画像に関しては特に厳しく、微妙に隠していたのを“隠していない”と判断されたのかもしれません」

「おじキュン」は平均年齢59歳

 と言うのは、SNS事情に詳しい芝浦工業大学の原田曜平教授。

TikTokユーザーの大半が10代〜20代の若者。だがアキラ100%と同年代の40代から50代で配信している“おじさんティックトッカー”の投稿者がバズる例も増えている。

「おじさんがバズりコンテンツになっているのは確か。僕の最新の調査によると、30代〜50代のTikTokユーザーは8%で、その上の世代はほとんどいない。やはり少数派はもの珍しさもあり、バズる傾向にある」(原田教授、以下同)

 なかでもバズるおじさんコンテンツには、大きく分けて2つの傾向があると分析する。

「ひとつはおじさんが若者をまねて流行のダンスを踊ったりする“頑張ってる”動画。もうひとつは弁護士や医者など専門家が“これ知ってる?”とレクチャーする解説系の動画。前者は下手でも一生懸命に奮闘する姿が若者に“可愛い”と言われ、後者は専門家ならではの信頼感があってリスペクトされる。人気が出るのはこの2パターンです」

 実際のところ、TikTokではどんなおじさんコンテンツがバズっているのか。まず『週刊女性』が注目したのは、おじさん4人組ユニット「おじキュン!」。カラフルな腹巻きを巻いたおじさんグループで、今大バズり中。なぜ始めたのか聞いてみると……。

「自分たちは岡山県・和気町が地元なのですが、少子高齢化もあり、町はどんどん寂れていっています。どうにか地元の知名度をアップし、観光客に来てもらいたい。それにはSNSがいちばんいいのではと考えました」

 と発起人の白瀬琢臣さん(52)。メンバーは、IT関連事業と庭園業を営む白瀬さん、畳材卸売会社経営の大富謙司さん(52)、町会議員の神崎良一さん(66)、町会議員の山本稔さん(67)で、平均年齢59歳。

 ぎこちなくも懸命に踊るおじさんたちの姿が“可愛い!”と評判に。'22年1月に開設し、3か月後には1300万回再生を突破。地元新聞を皮切りに、全国紙やテレビ、さらにフランス、アフリカ、インドと海外メディアにも取り上げられた。その思いがけない反響に、

「他のSNSと違ってTikTokはおすすめ機能によって自分たちを知らない人にも見てもらえる可能性がある。それが選んだ理由でしたが、まさかここまでとは」

“ソーシャルグッド系芸人”の正体

 と白瀬さんも驚きの声を上げる。

「インバウンドの意味でも海外の方に知っていただけたのはうれしい。秋の旅割をきっかけに観光客も少しずつ増えてきました。岡山出身の方からは、“動画を見て久しぶりに地元に帰ってきた”というコメントをいただいていて、手応えを感じています」(白瀬さん、以下同)

 投稿は基本週2回。撮影場所は地元の駅や学校といった公的機関も多く、これも「おじさんたちだからこそできること」と語る。

「僕と同世代の人たちが今、行政や企業で働いているので協力してもらいやすい環境にある。何より田舎なのでみんな昔からの知り合いばかりで(笑)、ネットワークには非常に恵まれています」

 今や和気町のプチ・スターとなった「おじキュン!」。今後の野望はというと?

TikTokのアカウントを永久停止されたというアキラ100%

「より目に見える形で和気町の収益につなげるのが次の目標。ゆくゆくは“おじキュン!のおかげで和気町の人気が上がった”と言われるようになるのが理想です」

 丸刈りのおじさんが突如現れ、「借金ありすぎて人生詰みそうって相談、めっちゃ多いんだけど!」と、怒濤の勢いで解決策をまくしたてる─。シュールな動画と異色キャラで“このおじさん、誰!?”と注目を集めているのが「生活保護おじさん」。

 “ソーシャルグッド系芸人”を名乗る今話題のおじさんティックトッカーで、その正体は支援系NPO法人の代表を務める佐々木大志郎さん(43)。TikTokの開設は'22年8月で、その動機に専門家としての危機感があったという。

「生活保護の制度についてインターネットで検索すると誤った情報が多い。センセーショナルに煽る内容も目立ち、きちんとした知識を伝えられたらと考えて」(佐々木さん、以下同)

 コロナ禍以降、生活困窮者の中でも増加傾向にあるというのがネットカフェ難民をはじめとした若者層。彼らにとってSNSはまさに命綱。

 これまで投稿した動画は計15本あり、テーマは生活保護の制度やホームレス支援、中・高校生の妊娠までと幅広く、認知も着実に高まってきた。動画を見た困窮者とつながるケースもあるという。

「例えば生活に困ってはいても、ネットカフェでギリギリ暮らしていけているような人に対して支援団体がサポートできる機会は少ない。私たちのいちばんの目標はフォロワーを増やすことではなく、続けていくことで困っている人、ひとりひとりとつながっていくことです」

「おじさんユーザー」は間違いなく増える

 数あるSNSツールの中で、おじさんティックトッカーたちがTikTokを選んだ理由に声をそろえて挙げるのが、知らない人にも動画が自動で表示される“広がりやすさ”。友人知人にSNSユーザーの少ないおじさん世代にとって、そのメリットはなにより大きい。

「有名人がバズるTwitterと違って、TikTokは誰でもバズる」と前出の原田教授。それがまたTikTok急成長の理由だと解説する。

「TikTokは何十回に一回の確率でバスりやすいようになっているので、投稿を続けているとどんな人でもたいていバズる。特に最初の数回は多くの人に表示されるためバズりやすく、投稿初期にバズり体験をさせることでそのまま投稿を継続させていく仕組み」(原田教授、以下同)

写真はイメージです

 若者世代の絶大な支持を集め、驚異的な勢いでユーザーを増やし続けてきたTikTok。今はまだ少ないおじさんユーザーだが、原田教授は、

「おじさんコンテンツがウケると知って、TikTokを開設する中高年が続々と現れている。この先は間違いなくおじさんユーザーは増える」と予測。そう話す原田教授自身おじさんティックトッカーたちと同世代のひとりであり、彼らにエールを送る。

「解説系ティックトッカーは積み上げてきた経験値を生かせており、おじさんならではの存在。僕もすごく刺激を受けているし、素晴らしいと思います。Z世代の若者たちの反応にしても、“勉強になる”とみんな素直に見ています」

アキラ100%のようなコンプライアンスには気をつけたいが、拡散したいことがあれば中高年にもTikTokはおすすめといえそうだ。


はらだ・ようへい
マーケティングアナリスト。芝浦工業大学教授。信州大学特任教授、玉川大学非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。「さとり世代」「マイルドヤンキー」「伊達マスク」などさまざまな流行語を作った。『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)など著書多数。