「いまや健康やダイエットの情報を得るのはテレビや雑誌ではなく、YouTubeをはじめとしたSNSメディア、という人も増えています。
影響力の大きいユーチューバーやインスタグラマーが発信している情報が増えるなか、気をつけなければいけないのは内容の“質”です」
SNSによってニセ医学が流行!
そう話すのは、泌尿器科医で五本木クリニック院長の桑満おさむ医師だ。
「コロナ禍もあり、健康意識が高まってきているのはいいことなのですが、科学的根拠の薄い情報も“ネタ”として拡散されています。バズるなら盛ったっていい、誤解を与えたっていいといった軽いノリで発信された情報を真に受けて実践するのは危険」(桑満先生、以下同)
少し前には芸能人が、病院で行われる高額な「血液クレンジング」を拡散。最近ではユーチューバーのヒカキンが投稿したさまざまな施術を体験する動画が、ニセ医学を紹介しているのではないかと物議を醸した。
「ストレッチや整体などのYouTube動画の中でも、特にヤバイなと思うのが“ボキボキ”系。背骨や腰、首などを回転させてボキッと音を鳴らす、いわゆる『ボキボキ整体』は非常に危険です。
そもそも音を鳴らすことに意味はありません。特に頸髄(けいずい)や脊髄(せきずい)という重要な神経が通っている首や背中なんてもってのほか。これらの神経が損傷すると麻痺やしびれ、感覚障害など、重大な障害が生じる可能性があります」
ボキッという音がするとズレていた骨が正しい位置に戻ったと期待してしまうが、まったくそんなことはない。
「あの音は関節の中の空気が弾ける音です。骨が正しい位置に移動したわけでも、関節の可動域が広がったわけでもありません。むしろ、ボキッと音がするほどの強い衝撃を与えている証拠でしかないんです」
首の動脈が傷ついて血栓ができ、脳卒中のリスクを高める可能性もあるという。
「直近1週間以内に首のボキボキ整体をした人は、していない人に比べて脳卒中を引き起こす可能性が5倍になるという研究結果が出ています」
頭蓋骨は動かない! 小顔矯正のウソ
美容系の情報を発信しているインフルエンサーがこぞってやっている小顔矯正にも危険がある。
「施術により皮膚がたるんだり、顎の関節炎、神経麻痺を引き起こす可能性があります。
施術者はその理屈として、『頭蓋骨は小さい板状の骨が合わさってできていて、その骨と骨のつぎ目にわずかな隙間があり、年とともに歪む』と言うそうなのですが、これは真っ赤なウソですよ」
頭蓋骨はどんなに押しても1mmもずれない。
「顔には細かい神経がたくさん張り巡らされています。これを強く押すと、顔面神経麻痺の引き金にも」
だまされると命を落とすニセ医学
もちろん民間療法がすべてニセ医学ということではない。
「東洋医学にはエビデンスがあるものもあります。しかし、東洋医学という言葉を悪用してニセ医学で荒稼ぎしようとする人が多いのも事実」
桑満先生がもっとも許せないというのが、医師がすすめる“疑わしい”医療行為。
「美容効果や疲労回復目的で『〇〇注射』をすすめられたら注意してください。これらには信用できるエビデンスがないことが多い。ですが、あたかも必ず効果が出るかのように言います。
さらに、注射を打つ頻度や体質によっては身体の機能を低下させるおそれがあります。鵜呑みにするのではなく本当に必要かどうかを考えましょう」
また、「天然は身体に良くて合成は悪い」といったイメージに縛られた自然派信奉者が走りやすいタイプのニセ医療もある。
「SNSでもよく目にするのが、生の酵素を食べて寿命を延ばすという『酵素栄養学』、病気や症状を起こす可能性のある薬を投与して自己治癒力を活性化させる『ホメオパシー』ですね。
ホメオパシーでは新生児の死亡事故もあります。にもかかわらず、これらの治療法をすすめる医師は、誰でも効く、何でも治る治療法かのように説明するのです」
危険性はその治療自体によるものだけではない。
「いちばんの問題は意味のない治療を受けることで、お金や時間を失うだけでなく、ちゃんとした治療を受ける機会を失ってしまうこと。本来治るはずの病気で命を落とすことだってあるのです」
桑満先生のもとを訪れた患者さんの中にも、かつてニセ医学にだまされた人がいる。
「当時50歳くらいの女性が、腹痛がひどく、ある治療院に行ったんです。すると『切腹した先祖の霊がついている』と言われました。
その霊を祓うために5年間その治療院に通い続けました。しかし、一向によくならないと僕の病院に来てくれたんです。
調べてみると腸と卵巣が癒着していて、危険な状態でした。もし気づくのがもう少し遅くなっていれば間に合わなかったかもしれません」
ニセ医学を見抜く3つのワード
ニセ医学を見抜くための方法はないのだろうか。
「ネット検索で『好転反応』『毒がたまっている』『海外では当たり前』といった言葉が出てきたら、危ういと思ったほうがよいです。
何か身体に不調が出てきても『好転反応』と言って押し切り、何かにつけては『毒がたまっている証拠』だといい、『その治療法の名前をあまり耳にしないは日本が遅れているから』だと説明するのですが、そんな健康法などありません。
情報発信者は、マネをして被害を受けた人がいても責任はとりません。すべて信じた人の自己責任になるのです」
桑満先生によると、ニセ医学にハマりやすい人は、金銭的に余裕がある人、素直な人、きちんとした医療や医師そのものに不信感を抱いている人だという。
「『フォローしていたインスタグラマーが推していたから』と軽い気持ちで、怪しいサロンに行ってしまうんです。でも、高額な施術ローンを組まされたり、ダイエットや健康サプリをすすめられたり、ドツボにハマっていくことも」
誰でも簡単にSNSで発信できるようになり、さまざまな情報が流れているいま、簡単にだまされない冷静な目を持っておく必要がある。
「自身のSNSでニセ医学を発信する悪徳ドクターもいます。医師免許だけで簡単に信用しないほうがいいかも、とすら思います」
(取材・文/宇野美貴子)