「コロナ禍による生活様式の変化で、アソコの緩みや乾きが加速しています」そう話すのは、フェムケアに詳しい美容外科医の櫻井夏子さん。座りっぱなしの習慣で、20代の膣すら老化傾向にあるという。「でもあきらめないで!何歳からでも若返りが可能ですよ」。パートナーに頼らずとも(いなくても)、自分で活性化できるとは朗報!
「今、20代でも尿漏れをする人が増えているんです」
美容外科医の櫻井夏子さんはそう警告する。櫻井さんは女性器の形を整えたり、膣のトラブルに対処する婦人科形成を手がけ、多くの女性の膣に向き合ってきた。若い世代にも膣の老化ともいうべきケースが増えている背景には、コロナ禍による生活の変化があるというが──。
女医が警告する膣の危機とは!?
「尿漏れの原因はいくつかありますが、そのひとつが、骨盤の内側にある筋肉『骨盤底筋群』の筋力低下です。リモートワークでの運動不足で、骨盤底筋群が弱っている人が増えているんです」(櫻井さん、以下同)
50代以上の女性は特に注意が必要だ。加齢による筋肉の衰えに加え、女性の場合、筋肉の維持にも関係する女性ホルモン・エストロゲンの分泌量も低下してしまう。それにより、さらなるトラブルが……。
「膣の乾燥です。手などがかさついてかゆくなるように、女性器にかゆみを感じたり、性交時に痛みを感じたり……。尿漏れは吸水パッドで対応できますが、膣の乾燥は苦痛を伴いますから、セックスレスの原因になってしまうことも。膣の緩みや乾燥はQOL(生活の質)を左右します」
膣が緩むと、しゃがんだときや性交時におならのような音が出る「膣(ち)なら」が発生することも。
「尿漏れパッドは細菌が繁殖しやすくトラブルにつながりますし、パッドをしていることが引け目になって友達と気軽に温泉などへ行けないという声も。日本人はこういった話題はあまり友人同士でも話し合いませんが、悩んでいる人は多いんです」
膣の老化が招く深刻なトラブル
膣の老化を放置していると、もっと恐ろしい事態に進行する可能性もある。骨盤底筋群は臓器も支えているため、それが弱りきってしまうと子宮が体外へと出てくる「子宮脱」を起こし、外科的な手術が必要になるのだ。なんと60代以上の女性の10人に1人が子宮脱を含む骨盤臓器脱を起こしているというデータも。
実は怖い膣の衰え。気になる症状が1つでもあれば、今日からさっそく“膣活”に励みたいところだが、注意点がある。
「現在、膣のケアをはじめ、女性の身体や健康にまつわる“フェムケア”が流行。ただ、中には医療的に誤った情報や、医師としてはおすすめできない方法も。正しいセルフケアで、安全に膣を若返らせてください!」
緩みの解消や、乾燥対策など、医学的に正しい“膣活”について、解説していく。
ゆるゆる、カラカラになってない?膣老化 CHECK LIST
●咳、くしゃみをしたときに尿が漏れることがある
●入浴後、膣からお湯が出てくることがある
●尿を途中で止めることができない
●しゃがんだときなど、膣からおならのような音がしたことがある
●女性器にかゆみがある
●性行為中に痛みを感じる。または出血したことがある
●生理用のタンポンが膣から落ちてくる
1つでも当てはまったら、今日からセルフケアを!
指を入り口で1分クルクル セックス並みに効くセルフケア
膣の緩みサインの代表格、尿漏れ。尿道を締める骨盤底筋群の衰えは運動不足のほか、スマホをトイレで見続けるなど、同じ姿勢を取り続けることでも起きる。また、膣の壁の薄さも原因となる。
そもそも膣の壁とは、膣の粘膜のこと。それを構成する成分のひとつがコラーゲンであり、生成を促すのが女性ホルモンのエストロゲンなのだ。女性ホルモンは20代をピークに分泌量が減少。50代になるころには“膣の壁”も薄くなり、空洞部分が広がってしまう。
「この膣の壁が薄くなると、その上にある子宮がわずかに傾くことがあり、臓器を圧迫するという説があるんです。その傾きが前であれば膀胱(ぼうこう)を圧迫して尿漏れや頻尿に。後方であれば、今度は腸の働きが悪くなり、便秘の一因になってしまうというわけです」
入浴後に膣からお湯が出て下着を濡らす“お湯漏れ”も、空洞が大きくなり起きる現象だ。
“膣トレ”と食事で緩みに勝つ!
加齢のためとあきらめがちな尿漏れやお湯漏れ。しかし、骨盤底筋群を鍛える運動習慣とコラーゲンを増やす食生活で予防可能だと櫻井さんは断言し、インスタグラムで、“膣トレ”を発信。「横向きに寝て脚を上げ、クルクル回す」ものや、「ながら膣トレ」など簡単なものが多いので、ぜひ実践を。
「下半身の筋肉を鍛えることは“膣活”だけでなく、自分の足で歩き続け、健康寿命を延ばすことにもつながります。50代以上の方にはぜひやっていただきたいですね」
食事では、コラーゲン生成に必要な栄養素、鉄、亜鉛、タンパク質、ビタミンCをたっぷりとること。
「50代以上の方なら婦人科で相談し、必要があれば女性ホルモンの補充を受ける方法もあります。エクオールをサプリでとるのもよいでしょう」
また、血流がよくなれば細胞に栄養が行きやすく、コラーゲン生成にもつながる。入浴はシャワーだけではなく、夏でもお風呂につかって身体を温めたいもの。
膣マッサージが筋トレ効果を高める
“膣トレ”の効果をさらに高めるのが、“膣マッサージ”だと櫻井さんは解説。
「筋肉はこり固まった状態では鍛えられません。まずはほぐしてあげることで筋肉量アップにつながります。“膣トレ”で鍛える骨盤底筋群は骨盤の内側にあるため、ほぐすには膣の内側をマッサージするのが効果的なのです」
やり方は、オイルを清潔な指につけ、第一関節まで膣の入り口に入れて1~2分クルクルと回すだけ。
「オイルは『デリケートゾーン用』といった曖昧な書き方をしている商品ではなく、『膣の中まで使用可』と明記されているものを選んで」
というのも、膣の経皮吸収率は、皮膚の42倍!成分が浸透しやすく、顔よりも注意を払うべきパーツなのだ。
全身の血行がよくなっている入浴後にやるのもおすすめだ。ただし、生理中や体調が悪いときは避けること。
「このマッサージで膣が緩くなることはないので、ご安心を。もちろん性行為自体にもマッサージ効果があるので、膣老化を防ぐには効果的なんですよ」
膣をゆるゆるにするNG習慣
×運動不足
×長時間のデスクワーク
×トイレでスマホを長時間見る
×入浴はシャワーだけで済ませる
×脚を組むクセがある
“膣の壁”の状態も尿漏れに関係する
正常な状態。加齢とともにコラーゲンの生成が減少すると、膣の壁も薄くなる
→膣の壁が薄くなり空洞が広くなると、子宮が傾いて膀胱を圧迫。尿漏れの原因に
自分の膣をもっと知れば日々が快適になります!
インスタグラムで日々、医学的に正しい“膣知識”を発信している櫻井さん。そこには、診察で感じた女性たちの膣への関心の低さがある。
「クリニックでは、いわゆる“ヒダヒダ”を切って小さくする婦人科形成手術もやっています。びっくりするのは、『自分ではあまりアソコを見たことがない』と話す患者さんが多いこと。クリニックに来るような、身体への意識が高い人でもそうですから、全体の傾向で考えると、さらに無関心な人が多いんじゃないか……と危機感を抱いたんです」
だが、膣の健やかさは、女性のQOLや健康を左右する。メイクするときに顔を鏡で見るように、膣をもっと見て・触れることが、“膣活”の第一歩だ。
「診察の際、ヒダヒダの間の“恥垢(ちこう)”や、トイレットペーパーで拭いたときのカスが付着している人も少なくありません。お風呂ではしっかりヒダヒダの間まで見て洗い、やさしく汚れを落としてください。
また、トイレで“小”をした後は、ゴシゴシと拭き取るのではなく、ペーパーを押し当てて水分を含ませる“押し拭き”をしましょう。汚れがあると、アソコのニオイの原因にもなってしまいます」
繊細なパーツこそ間違ったケアに注意
「もうひとつ気になるのが、医師の立場からは首をかしげたくなる“膣活”情報もたくさん出回っていること。そんな背景から、医学的な裏付けがあるケア情報を発信したいと思ったんです」
間違った“膣ケア”の例のひとつが、膣洗浄だ。
「シャワーやビデはもちろん、専用のアイテムであっても膣の中まで洗うのは避けてほしいんです。膣の中では、善玉菌と悪玉菌が絶妙なバランスを保ち、善玉菌が膣の中を酸性に傾かせることで、細菌が繁殖しない状態をつくっています。洗浄してしまうと、そのバランスが崩れてしまいます」
お風呂でのデリケートゾーンのお手入れには、万が一、膣内に入っても、常在菌のバランスを崩しにくい弱酸性の専用ソープを。
この他に避けたいのは、締め付けが強い矯正下着。血流が悪くなると細胞に栄養が届きにくくなるので、膣内のコラーゲン生成能力も衰え、緩みの原因になる。
また、アンダーヘアの剃毛(ていもう)は、カミソリによる傷で雑菌が入ってしまうケースもある。頻繁に剃(そ)る必要があるのであれば、専門のクリニックでの脱毛がオススメだ。
「今は将来の介護を見据えて、アンダーへアの脱毛を選択する人も増えています」
“今さらアソコに手をかけるなんて”と思う人もいるかもしれないが、櫻井さんはこう言う。
「続ければ、緩みもカサカサも確実に変わっていきます。何歳からでも効果がありますよ!」
櫻井さんおすすめ!膣にイイ生活
●トイレの“小”の後は押し拭きする
●下半身を動かす、鍛える
●清潔な手で膣をマッサージする
●お風呂ではアソコを目で見てやさしく洗う
●冷やさない、締め付けない下着をつける
教えてくれたのは……櫻井夏子さん ●整形外科医・美容外科医。NEXUS CLINIC勤務。'14年東京女子医科大学卒業。テレビ出演のほか、『お皿変えるだけダイエット』(日本文芸社)などの著書も。自身のインスタグラム@dr_natsu_beautyでフェムケアについての情報を親しみやすく発信。
〈取材・文/仲川僚子〉