眠るだけで認知症リスクが減る?

 1月16日、製薬大手のエーザイが認知症の新薬の承認を厚生労働省に申請した。この新薬は、これまでに国内で承認されている認知症の薬とはまったく違う仕組みで働くため、新たな治療法を待ち望む患者や家族の期待は大きい。

 ただ、このニュースを報じるメディアを見てみると、「実用化に課題」「効果、限定的か」といった見出しも多く、夢の新薬登場というわけではなさそうだ。

認知症の約6割を占めるアルツハイマー病は、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれる原因物質が脳にたまることで起こる認知症です。今回の新薬は、この原因物質を脳内から取り除き、認知症の進行を緩やかにすることを狙ったものです」(医療ライター、以下同)

 これだけ聞くと特効薬のようにも思えるが、実は認知症の薬なのに、いま認知症で苦しんでいる人には使えないという。

「アルツハイマー病の研究が進み、原因物質であるアミロイドβは、発症の20年以上前から脳にたまり始めることがわかりました。認知症と診断されるころには原因物質が脳に大量にたまって神経細胞が変性しているので、薬の力ではどうにもならないのです」

 物質がたまりきってからでは遅いので、早期に使う必要があるのだという。実際、エーザイも症状が進んでいないアルツハイマー病の早期の患者を対象に臨床試験を行い、一定の結果が出たとしている。

 この「早期」というのがやっかいなのだ。認知症の症状がまだ出ていないわけだから、医者でも簡単にはわからない。専門医が診断できたとしても、実際にこの薬を使う場合には脳の中にアミロイドβがたまっていることを確認する必要があるが、その検査は保険適用外で高額。実用化に課題が多いというのは、こういうわけなのだ。

 ただ、60代で認知症になった場合、40代から原因物質が少しずつ蓄積し続けたということになる。新薬の実用化を待たずに、いますぐ自分たちにできることはないだろうか。

アルツハイマー病は、よく寝て防げ

近年注目されているのが、アミロイドβと睡眠の関係です」というのは、睡眠が専門である睡眠評価研究機構代表の白川修一郎先生だ。

 アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβは、脳が活動したときに出る老廃物のようなもの。正常であれば脳から排出されるが、うまく排出されずにたまると脳内の神経細胞を傷つけ、死滅させてしまう。実はアミロイドβは、健康な人もアルツハイマー病の人も同じように作られていることがわかっている。つまり、上手に脳から排出できるかどうかが分かれ目なのだ。そして現在、アミロイドβを排出できる確実な方法のひとつが睡眠だと言われている。なぜ睡眠なのだろうか。

「睡眠中に起こる脳の変化が関係していると考えらえています。睡眠中は脳の細胞間の隙間が広がって、老廃物を流すリンパ液の流れがよくなり、アミロイドβを脳の血管へ出す“穴”のようなものも開きます。これらの作用によって、アミロイドβの排出が促されると考えられます」(白川先生、以下同)

 寝ているだけで認知症のリスクが減らせるなら、それこそ夢のような話だが、実際は「質のいい睡眠」はなかなか難しい。眠りについて多くの人が悩んでいることは、睡眠の質向上をうたった「ヤクルト1000」が品薄になるほど爆発的に売れたことでもわかる。

 快眠生活のコツはなんだろうか。

睡眠の質を上げる快眠ワザ

光と運動がポイントです。朝と日中にしっかり光を浴びることで、体内時計がリセットされ、正しく働くようになります。また、日中に運動して体温を上げると、夜に自然と体温が下がり、眠気をもたらします

 運動は特に夕方がおすすめだという。夕方の休憩時間に仕事場の外に出て、日光を浴びながらちょっと歩いたり、スーパーに買い物に行く時間を意識して夕方にするだけでも違うだろう。

睡眠や生体リズムを調整する脳の機能は加齢とともに、どうしても衰えていきます。眠りが浅いなど、不眠が気になる人は生活習慣を見直すことがおすすめです」

 脳の老廃物を排出させて認知症のリスクを減らすためにも、早いうちから快眠生活を心がけたい。