お家騒動が激化する平安女学院

 創設から148年という歴史を持つ名門・平安女学院(以下、平女)の教職員らが、1月19日に同校の山岡景一郎(92)理事長を提訴した。

 平女の“お家騒動”は2021年3月に行われた高校の卒業式で、山岡理事長が読んだ“差別的な式辞”が発端。しかし、その問題は80億円の債務があったという同校再建のために山岡氏が理事長に就任した当初からトラブルが発生していた。

 40年以上にわたり平女で教鞭をとってきた今井千和世(ちわよ)校長(69)が、山岡理事長が行ってきた“パワハラ”行為などを明かす。

「山岡理事長が来て間もない2005年、当時クラス担任を務めていた私は身に覚えのないことで懲戒委員会にかけられ、担任をはずされました。生徒に朝礼をキチンと受けさせていないということと、私がお祈りでしっかり手を合わせていないという理由だったと思います。そんな事実はまったくないのですが、なんでもでっちあげるのです。結果として、私は中・高の校舎への立ち入りを禁じられ、別の建物内にある物置きのような部屋が仕事場となり、そこではいっさいの仕事を禁止されました」

 山岡理事長は、ありもしない事実を作り出し、今井校長と、もう1人の教員に処分をくだしたというが、

「その狙いは、外から新しく学校改革する管理職を呼んできたときに、学校における私たちの発言力が強いとされたためです」(今井校長、以下同)

“改革”という名の“独裁”は、このときから行われていたという。不当な人事に大幅な給与カット。山岡理事長の“独裁政権”に耐えられず、何人もの教職員が学院を去った。

怪文書に不当解雇…激化する“お家”騒動

 2021年3月、卒業式での“問題発言”を機に、山岡理事長と教職員の対立は激化していく。

山岡理事長(HPより)

「とある教員が中心となり、式辞の発言は問題であり、謝罪すべきとする意見書の賛同を募りました。9割の教職員が賛同したものを、評議員である私が預かり、3月末の理事会に提出する予定でしたが、理事長に情報が漏れていたため、断念したのです」 

 理事会に提出するためには、前段階にある評議会で過半数の承認を得る必要があった。

 理事長は“取りこんだ”教職員からの情報で事態を把握し、すでに対策していたのだ。

 そして5月上旬、今井校長や別の教員の自宅に“怪文書”が届くようになる。

今井校長に届いた怪文書

校長や教員に届いた不気味な怪文書

「私に届いた怪文書には《身の回りを警戒しなさい》などと、理事長に情報を流す人間が周囲にいるから注意しろという内容でした。別の教員には、《今井の陰謀に乗せられてはいけません》と、私とは逆の内容が書かれていました。ある教員の家庭トラブルを暴露する内容の文書が別の教員に送られたということも。理事長が出したとする証拠はありませんが……」

 2021年5月下旬、中高の教頭と副校長4名が連名で卒業式での式辞はキリスト教の精神に反すると抗議文を2度提出したが、理事長から回答はないまま。6月16日に、今井校長は自宅待機を命じられる。

「山岡理事長には、自宅待機命令の意味がわからないという抗議はしました。彼は“自分が待機命令を出したのではない、みんながそうせいって言うからや”と言い訳をして“懲戒委員会に呼ばれるから大人しくしとけ”、と」

 懲戒委員会で今井校長は、臨時の教職員会議で山岡理事長の式辞について批判をして名誉を毀損したこと、部下を扇動して理事長を批判する文書を配布させて、理事長の解任を企てたことなどの説明を求められた。

「私は、式辞での理事長発言は、平女の教育理念を否定する問題発言であること、そして扇動した事実はないと一貫して主張しました。教職員は個々の判断で動くわけで、私が扇動して動くことはありえません。“人を使って扇動するように仕向けるのは、あなたたちがすることでしょう”とも反論しました」

 今井校長の主張も空しく、7月5日に届いたのは懲戒解雇通知だった。

理事長に突きつけられた懲戒解雇通知書

「あ然としました。懲戒解雇なんて犯罪行為をしなければ出ない処分なのに、正気の沙汰じゃないですよ。その前日、山岡理事長の自宅に呼ばれ“今井さんを短大の教授にする、だから中高から外れてくれ”という提案を受けていました。私が断ると“みんな今井を辞めさせろと言っている、ワシが教職員らを止めているのだから言うことを聞け”と話すのです。だから解雇されるとは考えもしませんでした」

 抗議文を出した教頭と副校長も役職を解任され、山岡理事長の強権による支配体制が強固なものとなっていく……と思われたが、7月8日に行われた教職員のみが出席する朝礼で、式辞での発言は“不徳の致すところ”と、山岡理事長は謝罪。すべての処分を撤回した。

「詳しいことはわかりませんが、外部から“懲戒解雇は適切ではない”という指摘を受けたのだと思います。教職員たちの前で“これからは今井校長と手を携えてやっていきます”と理事長は話したのですが……」

 事態は収拾へ向かうと思われたが、8月に入り、お盆休みが明けたころ。

「再びパワハラが始まるのです。理事長は“言いたくもない謝罪をさせられた”と、ふつふつと思い出したんでしょう。7月に話し合って決めた教職員の人事を白紙に戻し、理事長から“お前は次年度の人事はこれまでと違い、いっさい口出しができない立場だからな”と言われました」

 定年を迎えて1年ごとの契約更新だった今井校長は、2022年2月にある文書へのサインを要求される。

無理やりサインさせられたパワハラ誓約書

「校長再任についての誓約書と題したもので、2022年4月から赴任する羽田澄副校長に、校長業務を移管すると書かれていました。こんな誓約書に無理矢理サインをさせるなんて“パワハラ”ですよ」

 権力を駆使して今井校長から仕事を取り上げる嫌がらせを行い、学院への支配体制をより強固にしようとする。

「2022年4月からの人員配置も、赴任前に羽田副校長らが作成したのですが、生徒と関わる重要な役職に、まったく経験がない人が配置されていたのです」

 問題のある人員配置に、教職員ら約60人が理事長室に説明を求めて押しかけたが、理事長は出てこなかった。

「校長業務を移管した羽田副校長は、教員が仕事の相談をしに行っても“わからない”と言うだけ。教員たちは仕方なく私に聞こうとすると、理事長派の側近職員が“今井には聞くな”と言う。赴任したばかりですから、しょうがないと思っていましたが、羽田副校長は一向に仕事を覚えない。そこで羽田副校長に“前任者が作った引継ぎ資料は読みましたか?”と聞くと、“読んでもわからない”と話したのには驚きました」

 今年度に入り、新たな嫌がらせも始まったという。

「理事長派の側近職員は定例会議以外の重要な会議を、常に私の授業があり出席できない時間に行ったりするのです……。突然、校長室の移動を命じられることもありました。これらにより、現在までスムーズな教育活動が行えない現状があるのです」

『週刊現代』が2022年11月28日発売号で、山岡理事長の“給付金不正受給疑惑”を報じ、“お家騒動”は再燃。

 山岡理事長は『白川書院』という出版社の代表取締役も務めており、その出版社の決算を改ざんし、200万円の持続化給付金を不正に受給したというのだ。

不正受給疑惑、保護者には“説明しない”

「報道が出た翌日、保護者会は学院に説明会の開催を求めてきました。しかし学院は、“調査委員会を設置する”“出版社に強く抗議した”という文書を出しただけ。不誠実な対応に、このままでは保護者たちの気持ちが離れてしまう……。私たちにも、報道内容に関する説明はなく、“学院を貶める内容を誰がリークしたのか”というだけ。保護者になんと説明をしたらいいのかわらかない状況です」

 ある教員が部活動などで会う保護者に、報道についてどう説明すればいいか羽田副校長に聞くと“遺憾に思いますと言いなさい”としか言われなかったという。

「なにより『白川書院』という出版社は、平女とはまったく関係ない組織であるにも関わらず、発行している月刊誌を私たちに圧力をかけて半強制的に買わせたり、平女の建物内に『白川書院』の事務所を移動させたり、平女の管理職が『白川書院』の役員に名を連ねていたりするのです。

 これに限らず理不尽な人事や不当な昇給査定といった、山岡理事長のパワハラ行為は、学院を“私物化”する行為そのものですよ」

 今まで穏やかに話していた今井校長の言葉に怒気がこもる。そして、

「このような状況下でも、教職員たちは生徒を守るために懸命に努力をしてきました。生徒のことを考えれば、このような内容をメディアに話すことは控えるべきだとする声も出るでしょう。しかし、本来の教育を持続し、未来に向かっていくためには、やむを得ないこと。教職員がいがみ合い、混乱する中で、子どもたちに何を伝えられるのでしょうか。そのためにも間違ったことには声をあげる勇気を、私たちが示すべきだと思っています」

 これは教職員と理事長だけの対立ではない。学院を退職した教職員らや学生たちも、山岡理事長の退任を求めて声をあげる。

 山岡理事長が式辞を話した卒業式に、当時出席しており、いまは平安女学院大学に通う女子大生はこう語る。

平安女学院の校舎(HPより)

“お金配り”理事長に学生は…

「あの式辞を聞き、私たちが学校で受けてきた教育を全否定された気持ちになりました。最近では、理事長が“お小遣い”と称して学生に現金を渡そうとする行為をたびたび見聞きすることがあります。お金で学生たちを操ろうとする行為は、私たちを軽蔑し、バカにしているとしか思えません。学校は学びを得るための場所であり、理事長の“おもちゃ”になる場所ではないはずなのに」

 そして、こう呟いた。

「本当はこうやって話すことも怖いんです。私だってバレたら、不当になにかされるんじゃないかって……。なんであんな人が、この学校のトップなんでしょう」

 学生たちが安心して学べる“学校”を1日でもはやく取り戻してほしい――。

 
今井校長に届いた怪文書

 

教職員の自宅に届いた怪文書

 

 

理事長に突きつけられた懲戒解雇通知書

 

山岡理事長(HPより)