「誰か私の作った料理、食べてくれたらなぁ……」
こう不満を漏らすのは、比嘉愛未が演じる、料理好きの野本さん。これは、NHKの連続ドラマ『作りたい女と食べたい女』、通称“つくたべ”のワンシーン。
美味しそうなローストビーフ、でも食べたら危険!?
「『つくたべ』は、2022年11月29日から12月14日まで放送されていた全10話の15分枠ドラマです。料理好きの野本さんが“もっと料理を作りたい!”と思っていたところ、同じマンションの2つ隣りの部屋に住む“食べたい女”の春日さんと出会います。
食べきれない量の食事を作ってしまった野本さんが、春日さんに声を掛け、料理をごちそうするようになるのです」(テレビ誌ライター)
食事を提供し、それを食べる関係のふたりは、次第に距離を縮めていき、同性でありながらも恋愛対象として意識するようになっていく……のだが、クライマックス前の第9話で、ある問題が起こる。
「ドラマ内で紹介した調理法に問題があるとして、NHKは番組の公式ホームページで謝罪をしたのです。問題となったのはローストビーフの作り方。
ドラマでは牛肉ブロックの表面を焼き、アルミホイルで包みながら、野本さんが“こうして余熱で温めて、火が入りすぎないようにするんです”と話し、低温で調理する方法を紹介していました」(スポーツ紙記者)
NHKの番組公式ホームページには、
《内閣府の食品安全委員会は、この方法では、肉の内部温度が食中毒を防止できるほどには上がらないのでやめるように呼びかけていました。確認が不十分でした》
と書かれている。
下痢や腹痛などの食中毒引き起こす腸管出血性大腸菌『O-157』は、牛の生肉や加熱が不十分な肉を食べることで感染することがある。重症化すれば後遺症が残ることや、最悪の場合は死に至ることも。
2022年9月には、食肉店で購入したレアステーキを食べた90歳の女性が『O-157』に感染して死亡した。
食肉店で販売されている調理された肉を食べても食中毒になるのだから、家庭で低温調理を行う場合は、細心の注意を払い、適切な温度と時間をかけて十分に加熱する必要がある。肉の色が変化して、火が通ったように見えたとしても、加熱による殺菌が十分でない場合があるからだ。
過去の「やらかし」が反省されていない?
ただ、NHKがなぜこんなミスをしたのか?
NHK関係者がその裏側を明かす。
「料理監修として料理研究家がスタッフとして名を連ねていますけど、調理や食品衛生に関する専門的なスタッフが現場にいなかったそうなんです。
なおかつ、撮影前には事前に料理のレシピを作成し、スタッフが料理の試作を行うのですが、それすらもなかった。“食べないのだから、見栄えだけよければいい”という、安易な考えが透けて見えますよ」
このような杜撰な状況でも、完成した映像が“本当に問題がないのか?”をチェックするという工程が設けられているというが……。
「過去に何度も問題になり、番組の制作担当者とは別の専門的な知識のある職員が番組を見て内容を確認する“複眼的試写”が行われるはずなのですが、そのチェックが行われていなかったようなのです。
NHKでは、2014年に放送した『クローズアップ現代』で過剰演出があったため、“複眼的試写”によるチェック体制を強化してきたはずなのですが……」(同・NHK関係者、以下同)
制作を統括するスタッフが“食の素人”だった
ネット全盛の時代とはいえ、テレビの影響力はいまだ大きい。誤った情報発信により、最悪の場合には食中毒による死者が出るかもしれない。
「根本的な原因としては、制作を統括するスタッフが“食の番組”に関して素人だったということです。みなさんドラマの制作現場にずっといた人たちで、番組で料理を扱った経験がほぼなかったんですよ。
それに『つくたべ』は料理という要素はサブで、メインは“レズビアン”という性的マイノリティを描いたもの。スタッフにもジェンダー・セクシュアリティ考証の担当はいるので、そこにばかり注意がいって、料理に関してはおろそかになってしまったのだと思います」
NHKは、公式ホームページに掲載したレシピとNHKプラス及びNHKオンデマンドで配信している調理場面の一部を修正したとされる。しかし、まだ問題があるという。
「謝罪後に調理場面の一部をカットしたものを見ましたが、調理したブロック肉を切る場面では中が生のままなのです。これでは、この調理法でローストビーフを作り、食中毒を起こす人が出てしまうかもしれません。この部分も削除か修正するべきですよ」
確認のため、NHKオンデマンドで1月19日現在も配信されている『つくたべ』第9話を確認すると、確かに調理したローストビーフを切るシーンでは、肉の内部は“真っ赤”な生肉のように見えるが……。
これらの問題点について、NHK広報局に質問状を送付して問い合わせたが、
「今回の件については、番組ホームページでご説明している通りです。制作の詳しい過程については、お答えしておりません」
と、回答があっただけだった。
多くの人が見るテレビドラマだからこそ“作る人”は、“見る人”のことを、もっと考えるべきだろう。