うつに苦しむ人に対して「頑張れ」とは言わないほうがいい。これは比較的、共有されている認識だろう。
ダイエットや摂食障害においても、そういう言葉がある。当事者にとっては「言われたくない」それ以外の人にとっては「言っちゃいけない」そんな言葉だ。
今回はそんな「NGワード」を紹介してみたい。あわせて後半には「OKワード」も挙げてみるので、参考になれば幸いだ。
NGワード(1)「食べすぎるのは甘え。「今日何食べた?」
「やせたい」と言う人に、世の中は意外と厳しい。「そのままでいいよ」とか「努力が足りないんじゃない」とか。しかし、本人がどれほどの思いなのかはわからない。明るく振る舞っていても、心の底では泣いていたり。長年見ている家族でも、本当のところは見えにくいし、まして付き合いが浅いならなおさらだ。
体形はその人が生きてきた歴史の結果でもある。ずっと太っている人のつらさも、一時やせていたのにリバウンドした人のつらさも、それこそ「死にたい」レベルにまで強まっている可能性がある。
例えば、摂食障害における「非嘔吐過食」のつらさ。食を制限することも排出することもできず、食べすぎて太ってしまう状態は「つらさが伝わらないつらさ」とでもいうべきもので、そのストレスは計り知れない。
それを「甘え」や「意志の弱さ」で片づけられては、ストレスが増すばかりだ。
NGワード(2)「これから何食べる?」「意志が弱い証拠」
あまり食べない人にも、世の中は厳しい。食はコミュニケーションにも使われるので、食べられる量や種類、時間帯などが限られていると人間関係にも差し障りが生じることに。ダイエッターや摂食障害の人は、そんな不安や恐怖とも戦っている。
なかには「今日何食べた?」と聞かれるだけで責められているような気持ちになったり「これから何食べる?」のひと言で固まってしまったりする人もいるほどだ。それすらNGワードになりかねないので、食の話題に関しては気を使いたい。
NGワード(3)「うわっ、気持ち悪い(キモい)」
やせすぎている人が何よりいやがる言葉が「気持ち悪い(キモい)」かもしれない。自分が誰かを不快にさせていると思わされることは、自己肯定感を削ぐ。ある人は「二の腕つかみ(自分の手で自分の腕の細さを確認する行為)」をしていただけで、そう言われ、傷ついたという。
なお「うわっ」という言葉がついていなくても、その目つきなどから、それが伝わることもある。家族や友人は特に、控えたい言動だ。
NGワード(4)「拒食症になってみたい」「悪いのは親」
「気持ち悪い(キモい)」が無理解からくるとすれば、誤解や偏見によるNGワードもある。
摂食障害=やせる病気というイメージから「拒食症になってみたい」と軽い調子でうらやましがったり。ほとんどの当事者は「じゃあ、代わってやるよ」という気持ちだろう。
また、家庭環境に原因があるのではということで「親が悪い」などと決めつける人も。実際、当事者の口から親への不満や批判が出ることもあるが、そこはなるべく聞き役に徹したい。悪口を言っていても、愛情を求める裏返しだったりもして「あなたに言われる筋合いじゃない」ということにもなりかねないからだ。
NGワード(5)「世界には飢え死にする子どももいるのに」
食べない人、食べても吐く人に、こんなことを言う人もいる。一見、もっともらしいが、どれだけつらいかは本人にしかわからない。
豊かな時代、豊かな国であっても、つらいものはつらいのだ。物質的な飢えより、精神的な飢えのほうが、解決しづらいともいえる。
NGワード(6)「そんなことでは結婚も出産もできない」
これまた、ありがち。「このままでは結婚や出産ができない」「生理を復活させなきゃ」などと、せきたてる人もいるが、もともと、そういうことから逃れたくてやせている人もいる。
特に最近は、フェミニズム的思想やLGBTQ的感性で中性的な存在を志向する人も増えてきた。そういう人にはむしろ、逆効果だったりもするのだ。
NGワード(7)「健康(元気)になったね」「回復期だから仕方ない」
ほかの病気なら褒めや慰めにつながる言葉が、摂食障害ではそうならないことも多い。「健康(元気)」や「回復」は「太った」という意味に変換されやすく、不安や恐怖を呼び起こすからだ。
体重が増え、前より食べられるようになったことを「仕方ない」とは思えない精神状態。これはやせることによって、現実のつらさが少し軽減したり、心配されたりというメリットを得ていたのに、太ることでそれが失われてしまうからでもある。
なかには「まだ細いね」と言われた人が「これからどんどん太っていくみたい」と引っかかりを覚えたという例もある。
NGワード(8)「病院行ったほうがいいよ」「入院したら?」
今回、当事者のひとりに「NGワード」について尋ねてみた。体重は20キロ台前半、母親でもある若い女性だ。
挙げてくれた言葉には「もっと肉つけたほうが」とか「吐いてるの?」といったもののほか「病院行ったほうがいいよ」「入院したら?」というものが。その理由はこうだ。
「もう慣れてしまっているため、育児や炊事などはできているので。口出しするくらいなら買い物などの重労働を手伝ってよ!って(笑)」
ちなみに、必要なケアは病院で受けたりもしているという。
彼女に限らず、干渉されるのをいやがる人は多い。やせすぎている人の親や夫には、娘や妻の体調について意外と無関心な人もいるが「それがかえってよかった」と回復後に語る人もいる。ケース・バイ・ケースとはいえ、必要なケアさえできていれば、本人の気持ちにある程度任せるべきことかもしれない。
なお「OKワード」についても、この女性に聞いてみた。
OKワード(1)「しんどくない?」
この女性いわく「身体しんどくない?」のような言葉は「心の安定につながる」という。寄り添うような本気の心配なら、ちゃんと伝わるということだろう。
そして「努力を認めてもらえた感覚になれる」とも。これもまた、多くの人に共通するのではないか。
冒頭で、うつの人に「頑張れ」は禁句という話をしたが、摂食障害も同様。それよりも「頑張ってるね」というスタンスで、本人の努力を褒めたり、肯定したりすることがプラスになるはずだ。
OKワード(2)「この花はあなたに似てる」
こちらは高校時代、20キロ台半ばになっていた人が祖母にかけられた言葉だ。
「この花は、あなたに似てとってもきれいね」
彼女は当時、やせていることで安心感を得つつも周囲に迷惑をかけているという罪悪感も抱いていた。また、心配されても褒められることはなかったため、これがうれしかったという。拒食状態の人は動物的というより、どこか植物的で、自らもそうあろうとしていたりするから、そこが花のように見えたのかもしれない。
女性にかける言葉としても、適切な気がする。褒め方はいくらでもある、ということでもある。
OKワード(3)「みずみずしくなったね」
NGワード(7)で触れた「健康(元気)」や「回復」という言葉が「太った」に変換される問題についても、言い換えは可能だ。ある当事者は、医師から「みずみずしくなったね」と言われ、変化を前向きに受け入れられたという。
この医師は過去の経験から、当事者が不快に感じにくい言葉を見つけたのだろう。専門家でないと経験が積めないとはいえ、その人が何をいやがっているかはやりとりのなかでわかってくる。それを懸命に探ろうとすること自体が、相手にとって、寄り添ってもらえているという手ごたえにもつながるはずだ。
結局のところ、NGワードかOKワードかを見極める鍵は思いやり。よりよいコミュニケーションの基本はそこに尽きるのだ。