多くの国が団体観光客を受け入れるようになり、海外旅行へのハードルが下がってきた。しかしながら、以前より煩雑になった出入国の手続きや、「現地でコロナにかかったら……」などといったまだ不安が拭えない今は、再開し始めている添乗員付きの海外旅行が安心だ。
そんな旅行客が増加中の今だからこそ、「これは」という、歴代のトンデモ客のエピソードを添乗員たちが告白する。
ツアーの途中で、夫婦が“交換”!?
気分が高揚した男女が集まるハネムーンツアー。日本全国から集まった参加者が成田空港で顔を合わせ、機内へ。ツアーは席がまとまっていることが多いため、エコノミークラスでは、真ん中の列の4席に2組の夫婦が隣同士になることはよくあり、ヨーロッパだと12〜13時間、密な状態となる。
その夫婦たちも、行きの飛行機で並んで座っていた。現地で観光がスタートすると、なんとなく気が合いそうな客同士が行動を共にするようになるもので、彼らもそんな様子だった。
5日目、観光が終わってホテルのロビーにいると、ある女性客が肩をすぼめながら「夫婦が入れ替わっているみたいなんですが……」と報告に来た。夫婦2組で仲よくしているなとは感じていたがそこまでとは思わず、改めて観察していたところ、それぞれ相手を変えてカップルとなり部屋に入っていった……。
その後も4人で仲よく行動しており、とはいえカップルの単位になると当初と違うわけで、他のツアーメンバーも混乱しているようだったが、誰もそのことには触れずに8泊10日のツアーが終了。そのまま成田空港で解散となった。
別れ際、4人は添乗員のもとへ笑顔でやってきて「この旅で、本当の最高の人に出会えました」と口々に感謝を伝え、税関を一緒に出ていった。その後はどのように帰宅し、家族に報告したのかは不明だが、また元に戻るのでは?という考えも頭をよぎった添乗員だった。
「騙されました、日本へ帰ります」
7泊8日のヨーロッパ周遊ツアーでの出来事。3日目の朝4時に添乗員の部屋の電話が鳴ると、相手はハネムーンでご参加の男性だった。
悲痛な声で「騙されました。帰りたいんです。チケットを取ってください」。意味がわからず、どうしたのか尋ねると「お見合いで騙されました」の一点張り。ロビーで話を聞くと、紹介されてから3か月のスピード婚だったとか。新婦の第一印象は悪くはなく、かつ専業主婦を希望しているとのこと。新婦の親族からのゴリ押しで、かつ資産もあるというので「盛大に結婚式を挙げた」という。
今回のハネムーン中に新郎の友人からメールで連絡が。なんと新婦は実はバツ2で子持ちだったという……。初婚と聞いていた新郎のショックぶりには同情しかなかった。
航空券は正規料金となるため、かなり高額となったが背に腹は代えられないと、チケットを手配。新郎のみ日本へ帰国した。残された新婦は「夫でないと務まらない緊急の仕事が入った」と、堂々と振る舞っていた。
身体を張った商談
ファーストクラスでご参加の男性2人。お腹の出た中年男性と、背の高いイケメンの20代。20代男性は中年男性にとても気を使っており、添乗員はツアーを利用した会社の重役の現地視察に、いきなり付き添うことになった若手社員あたりなのかと勝手に思っていた。
3日目、若い女性のツアー客から「あの2人、もう少し控えるよう伝えてもらえませんか」との相談が。中年男性の態度が大きかったのでそのことかと思ったら、中年男性が20代男性に濃厚なボディタッチをしていたり、彼らの泊まっている部屋から「変な声」が聞こえてくるという。
どうしたものかと思っていたところ、ふと近くに座った20代男性がぼそっと「毎晩、大変なんです」と添乗員に告白してきた。
周りに他のツアー客がいないことを確認して詳しく事情を聞くと、20代男性は営業マンで、中年男性は取引先の社長とのこと。その社長に気に入られたそうで、今回のファーストクラスでの旅行で“商談をしよう”と誘われ、同行したのだという。
旅費は中年男性が支払ったこともあり、営業成績のために身体を張った接待の一大決心をしたのだとか。その後の商談が成功したかどうかは定かではないが、男性が添乗員に話した2人の関係設定自体“プレー”だったのかもしれない……。
「いつも1人で参加しています♪」
ビジネスクラスでご参加の50代の優雅なマダム。夫が多忙のため、いつも1人で参加していると他のメンバーにも自己紹介をしていた。
今回彼女が参加したのは、中東の某国内をバスで巡る7泊9日のツアーで、日本人添乗員とその国のライセンスガイドが同行。ライセンスガイドがいないと観光ができないため通常とは違いガイドが2人体制であり、かつ40人ほどの大ツアーだった。
ツアー客が旅行に慣れてきた4日目のこと。前出のマダムがどうやら行く先々で男性に熱い視線を送っていることに気がついた。ライセンスガイドも「あの1人参加の女性、いろんなところで色目を使っている」と添乗員にチクリ。その日のホテルでの夕食中にも、担当のウエーターへなにやらアイコンタクトをしていたマダム。
翌朝、朝食前にライセンスガイドがあきれたように報告をしてきた。確認のため朝食会場へ行ったところ、くだんのウエーターがスタッフたちに、マダムと一夜を共にし、どんなことをしたか、いくらもらったかなどを大声で饒舌に語っていたという。
その後、悠然と朝食会場に現れたマダムはウエーターを見つけると笑顔で手を振った。その様子を素知らぬ顔でチラ見するホテルスタッフたち……。
なおそのマダムが、次のホテルでもホテルスタッフを品定めするように見ていたのは言うまでもない。
復路の空港でマダムに「どこの国の男性がすてきかしら?」と、次の渡航先を相談されたが、責任が取れないので言葉を濁した添乗員だった。
「〇〇が見えすぎてつらいんです」
アジア某国のツアーにて。目的地の国の神々に会いにいくという女性。“偉大なる存在”と交信ができると喧伝する。添乗員は「そうなんですか」とうなずくしかない。
フライトが出発直前に変更され、目的地に着く前に他の国に1泊することに。早朝フライトのため宿泊先は空港そばのホテルとなった。するとその女性が「ここには悪霊がたくさんいて眠れない、熱が出てきた」と言い出した。
確かにとてもつらそうだが、翌日早いため、病院には行かずに部屋で解熱剤を服用しそのまま休んでもらった。だが翌朝はしっかり定時に集合し、「私は〇〇の生まれ変わり」と同行のツアー客に話していた。
目的の国に到着するとご機嫌になったものの、国内を移動中「私の部屋には子どもの霊がいる」「ここには〇〇の悪霊がいる」などという理由でつらいと言い出し、ツアーメンバーもだんだんと彼女から距離を置くように。
あげくの果てには目的の観光地で「〇〇様、どうかご神託を〜」などと言ってひれ伏し、他の観光客も明らかに引いていた。神にすがりたいのは添乗員のほうだった……。
(構成/葉山エリ子)