今、実話レディコミというジャンルのマンガが注目を集めている。
コンプラ強化で再び流行る実話レディコミ
嫁姑問題、不倫、ご近所トラブル、毒親、DV夫、介護など、全国から寄せられた読者の生々しい体験談を、エロく、えげつなく、ユーモラスにマンガ化しているのが特徴だ。
ハマっているのは、ずばり週刊女性PRIMEの読者世代。酸いも甘いも知った中高年女性を引きつける理由とは何か。京都精華大学マンガ学部教授の吉村和真さんはこう分析する。
「ズバリ、人間の業を描いているからですね。15年前に比べても、世の中のモラルやコンプライアンスは厳しくなっています。例えば不倫。昔であれば一種のロマンのように語られていましたが、今となってはご法度の風潮が強い。
とはいえ、道徳や倫理という光があればあるほど、やってはいけない影の部分は濃さを増すのです」
実話投稿者にとって、胸のつかえを吐き出す場所でもあるという。
「実話レディコミのルーツを考えると、教会などの懺悔室にたどりつくと思うのは大げさでしょうか(笑)。人間、自分が犯した罪をそのまま抱えて生きるのはつらい。そのために赦しを求めて過ちを懺悔室で告白するわけです」(吉村さん)
人前で口に出せない不倫や虐待の体験。投稿者にとってはそれらをひそかに告白し、懺悔する場が実話レディコミという場なのだ。
読者側からはどうなのか。
「実話レディコミはアレンジを加えてあるものの、基本その名のとおり、すべて“実話”。『本当にこんな人いるの?』『本当にこんなことあるの?』という刺激が娯楽になり、読み出すと止まらなくなる、もっと刺激が強いものを欲しがるのだと思います」
と語るのは、実話レディコミの火付け役『本当にあった主婦の体験』(ぶんか社)編集長の金田聡子さん。「えげつない」「人間って怖い」という気持ちをかき立てられ、どれだけ“業の深さ”を見られるかが、女性読者の心をつかむ鍵だと吉村さんはいう。
スマホの普及で読者拡大、再び脚光を浴びるレディコミ
毒々しい絵柄の表紙にショッキングな煽り文句、手に取って読むには勇気がいる実話レディコミだが……。
「ぶ厚くて、表紙も目立つ。これまで本屋さんで実際に買っていた主婦の方は家の中で保管に困ったんじゃないでしょうか。
月1回の古紙回収のときに、『本当に怖い嫁姑』みたいな雑誌を捨てて、近所の人に見られたら気まずいでしょうし(笑)。そういう点で、実話レディコミは電子コミックという媒体とすごく相性がいい」(吉村さん)
家族やご近所を気にせず、1人でこっそり読むのに電子コミックの実話レディコミはうってつけというわけ。
「電子コミックが紙のマンガ誌の販売金額を上回ったのが2019年。コロナ禍の影響で、オンライン市場が一段と拡大しました」(吉村さん)
現在、電子版はどんなストーリーが人気なのだろうか。
「変わらないのは不倫モノ。また、出産、病気などを実際に体験した著者自身が、原作者として『自身の実体験』をしっかり描いているものが多いです」(金田さん)
電子コミックの実話レディコミなら、1話単位で人間の業をのぞき見できる。ぜひ、禁断の世界に触れてみて。
実話レディコミ人気ジャンル4選
実話レディコミでいま最も人気のあるジャンルを紹介。
【不倫】愛し合い憎しみ合う大人の泥沼ロマンス
「実話レディコミで描かれる不倫と男性誌の不倫マンガとはまったく違う。実話レディコミでは、不倫する人たちは基本的に脳内がお花畑のおバカさんといった描かれ方をしているのです。
こんなだらしない男性とはさっさと別れて新しい人生を始めましょうみたいなオチも多い。一方、男性誌では不倫する男性を肯定してピュアな恋愛として描きがち。不倫問題で悩んでいる男性は、実話レディコミを読むと目が覚めるかも……」(吉村さん)
■『49歳更年期OL色欲不倫殺人事件』(ユサブル)
つらい更年期の症状に苦しみながら、若い男との不倫セックスに溺れるアラフィフってあり?
■『本当にあった女の人生ドラマ ゲス不倫にド天罰 Vol.12』 (ぶんか社)
ゲスい男と女の不倫に人生終了の求刑! もはややりすぎなくらいのスカッと感がたまらない……!
まじめでおとなしいママ友が不倫!? しかも相手はママ友仲間のダンナ……というドロドロ。
【嫁姑問題】仁義なき女同士の争いがクセになる
「この問題は、共感、興味本位で読む場合の両方あるでしょうね。嫁あるいは姑というのは、家族内の他者、いちばん身近にいる敵。『男子家を出ずれば七人の敵あり』といいますが、女性には家の中にも敵がいます。
だから、すぐそこにある戦いに興奮するのでしょう。現在は毒姑を描く作品が多いですが、読者の高齢化に従って、鬼嫁・毒嫁を敵認定した作品が増えるはず」(吉村さん)
■『家庭サスペンスvol.23 特集:毒身内』(笠倉出版社)
金をたかる親兄弟、キチママ、ストーカー化する親戚一同など、いたら怖い、毒身内オールスターズ。
実話ではなく、実話風だが、ありそうでないエピソードが生々しい。強烈さはギャグと紙一重だ!
■『色ボケ姑に振り回されて! 嫁VS姑VS小姑 嫁姑シリーズ8』(ゴマブックス)
イビリや悪口など憎しみあふれる嫁姑の関係をさまざまな角度から描く「嫁姑シリーズ」!
ワケアリのご近所、毒親……レディコミが映す“人間の業”
人間の業はまだまだたくさん。ご近所や家族でのトラブルにまつわる話はいまも不動の人気を誇る。
【隣人トラブル】身近な地獄に興味津々
隣人ガチャにはずれたら、待っているのは地獄だ。「他人の体験談を読むことで、自分が生きている世界が特殊ではないという安心感や、『この人より私はマシ』という自己肯定感にもつながるのかなと感じています」(金田さん)。
念願のマイホームに引っ越したら隣人がワケあり。憧れの田舎暮らしを始めたら村八分など、逃げ場のない状況に苦悩、煩悶する登場人物から目が離せない。
■『事件!トラブル!本当にあったご近所ドロドロばなし1巻』なせもえみ(ユサブルCOMICS)
憧れの田舎暮らしのはずがフタを開けてみれば酔っぱらいの世話係!? 勘弁して!
■『ブラックご近所SP vol.2~騒音ジプシー〜』(竹書房)
エロあり、ゲスありのご近所の面々が繰り広げる地獄絵図。騒音家族、迷惑隣人などなど、町に溶け込む身近な敵がリアルで目が離せない!こんな町内いや!
【毒親】ボロボロの子ども、というNGテーマが好奇心を加速!
「子どもは守るべき存在だという倫理観が広まれば広まるほど、毒の意味は強くなります。理想の親という存在があるからこそ、その対照的な存在が毒親。深刻な問題ですけど、実話レディコミなら気軽に読めるのも特徴です。
さまざまなモンスター毒親がいて、これがすべて本当の話かと思うと背筋が凍ります」(吉村さん)
■『女のブラック履歴書 vol.4〈親ガチャにハズレた人生〉』(竹書房)
金の亡者の母に暴力父。「こんな親、ありえない!」と叫びたくなるほどひどい毒親のオンパレード。読むのがつらい! なのにやめられない!
■『本当にあった悲惨な生いたち Vol.44』(ぶんか社)
「本当にあったシリーズ」でも、人間の業の深さを特に思い知らされるドラマが詰まった一冊。
ひきこもり、うつ、リストカット……ズーンとこたえる陰惨な展開。レディコミは世相を映し出す鏡だ。
教えてくれたのは……
京都精華大学マンガ学部教授。専攻は思想史・マンガ研究。2001年の「日本マンガ学会」設立や、2006年の京都国際マンガミュージアム開館など、マンガ研究の環境整備と社会還元を推進している。
取材・文/ガンガーラ田津美